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15ー成り損ないが竜になる日
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翌朝、エデュラの目にまず飛び込んできたのは、青い美しい海原だった。
朝陽が地平線をくっきりと照らして、美しい色彩で空と海を彩っている。
そして、背後の温もりに気が付いて、微笑む瞳とぶつかってエデュラはシーツを手繰って思わず顔を隠した。
夫婦だから当たり前なのだが、昨夜の嬌態を思い出して、途端に恥ずかしくなったのだ。
「隠れていないで、出ておいで?」
優しく髪を撫でられて、エデュラは顔をそろそろと持ち上げた。
リーヴェルトの焦げ茶色の髪が漆黒に、琥珀色だった瞳は黄金色に煌めいている。
「貴方……色が……目の色が金色に染まっておりますわ……髪も黒く……」
「そうか。瞳が黄金色という事は、君とお揃いか」
お揃い?
私が?
エデュラはリーヴェルトの言葉に驚いたが、鏡は近くに無い。
「ほら、髪の色も青色だよ。まるで海のようだ」
毛先を持ち上げて口づけを落とす仕草は、うっとりするほど素敵で、それだけでエデュラの胸はいっぱいになってしまったのだが、確かに見れば毛先が青い。
先ほど目に映る海原に気を取られていたが、ベッドに広がる自分の髪の毛も青かった。
「まあ……何故、でしょうか?」
「番と結ばれると、ごく偶にこういう事が起きるらしい。その本の中ではそれを「覚醒」と命名していたが……私は君の栗色の髪色と菫色の瞳も好きだったよ」
「わたくしも、貴方の焦げ茶色の可愛らしい髪も、優しい琥珀色の瞳も……ああでも今でも色彩はそんなに変わりませんわね……黄金色に見えるのは、瞳孔が竜のようにお成り遊ばしたせいかしら……輝きが増したせいかしら……」
じっと観察するのに夢中で無心に見てくるエデュラを、リーヴェルトは堪能した。
頬に手を添えて、じっと覗き込んでくるエデュラの真剣な顔は愛くるしい。
何故、こんな素晴らしく可愛い女性を手放そうと思ったのか、リーヴェルトは不思議でならなかった。
でもそれは、リーヴェルトにとっては僥倖と言えるだろう。
何せ、竜の血を覚醒させた真の番を、国に連れて帰れるのだから。
本当は。
攫ってでも連れ帰るつもりだった。
それからゆっくりと、覚悟を決めてもらうつもりで。
だが、ルオター公爵家の伝手を通じて、ポワトゥ伯爵に薬が渡るように仕向けたのだ。
エリンギルは思った通りの行動に出た。
計算外だったのは、直前になって拒んでいたエデュラが恐怖を感じていると思った時、咄嗟に制止してしまった事だ。
画策したのに、情けない。
だが、リーヴェルトは後悔してはいなかった。
目の前に、七年も前から愛し続けた少女が、運命の相手がいる。
不意に唇を奪われて、エデュラはまじまじとリーヴェルトを見詰めていた事に気づいて、慌ててまたシーツに顔を隠した。
くすくすと、機嫌のよい柔らかい笑い声が頭の上から降ってくる。
「エデュラ。我が愛しの妻よ。今日私は王家主催の祝宴に参加する。私の卒業と結婚を祝う宴だ。君も共に来てくれるかい?」
「ええ、貴方……私の黒竜陛下」
「ああ、良い呼び名だね。君は愛しの青竜妃殿下だ……」
二人は再び口づけを交わすと、愛し気にお互いの身体を抱きしめ合うのであった。
公爵家の使用人と、侯爵家の使用人、強力な二つの家の協力で磨き抜かれたエデュラは、壮絶な美しさを纏っていた。
そしてリーヴェルトは身体が一回り大きくなってしまったと、元々の服では生地が足りずに仕立て直すことも出来なかった。
まだ袖を通していないラファエリの服を急遽仕立て直すことになって、お針子達はおおわらわである。
多少飾りをそぎ落としたところで、見た目に華やかさを増したリーヴェルトならば、問題はない。
何とか時間までに間に合わせたお針子達の活躍で、リーヴェルトも身体にぴったりと合う正装を身に着けることが出来た。
海辺の屋敷から公爵家の別邸へと旅立つ一行は集まっていたのだが、用意を終えて階段を下りてくるリーヴェルトとエデュラの二人を見て、全員がその荘厳さに息を吞むのだった。
「お姉様、お綺麗ですわ……」
「ありがとう、エリシャ」
何よりも、報われずに泣き続けたエデュラが愛する相手に愛されているというその事実と、寄り添いあう二人が家族の心に安寧を齎していた。
ぐすり、とエリシャが鼻を啜る。
「さあさ、急ぎましょう」
公爵家の女中頭がパンパンと手を叩いて、一行はそれぞれの場所へと向かった。
リーヴェルトとエデュラは王城へ。
フィーレンとラファエリ、公爵家の使用人達とエデュラの両親に妹のエリシャと侯爵家の使用人達が、帝国へ向けて旅立つ船へと向かう。
朝陽が地平線をくっきりと照らして、美しい色彩で空と海を彩っている。
そして、背後の温もりに気が付いて、微笑む瞳とぶつかってエデュラはシーツを手繰って思わず顔を隠した。
夫婦だから当たり前なのだが、昨夜の嬌態を思い出して、途端に恥ずかしくなったのだ。
「隠れていないで、出ておいで?」
優しく髪を撫でられて、エデュラは顔をそろそろと持ち上げた。
リーヴェルトの焦げ茶色の髪が漆黒に、琥珀色だった瞳は黄金色に煌めいている。
「貴方……色が……目の色が金色に染まっておりますわ……髪も黒く……」
「そうか。瞳が黄金色という事は、君とお揃いか」
お揃い?
私が?
エデュラはリーヴェルトの言葉に驚いたが、鏡は近くに無い。
「ほら、髪の色も青色だよ。まるで海のようだ」
毛先を持ち上げて口づけを落とす仕草は、うっとりするほど素敵で、それだけでエデュラの胸はいっぱいになってしまったのだが、確かに見れば毛先が青い。
先ほど目に映る海原に気を取られていたが、ベッドに広がる自分の髪の毛も青かった。
「まあ……何故、でしょうか?」
「番と結ばれると、ごく偶にこういう事が起きるらしい。その本の中ではそれを「覚醒」と命名していたが……私は君の栗色の髪色と菫色の瞳も好きだったよ」
「わたくしも、貴方の焦げ茶色の可愛らしい髪も、優しい琥珀色の瞳も……ああでも今でも色彩はそんなに変わりませんわね……黄金色に見えるのは、瞳孔が竜のようにお成り遊ばしたせいかしら……輝きが増したせいかしら……」
じっと観察するのに夢中で無心に見てくるエデュラを、リーヴェルトは堪能した。
頬に手を添えて、じっと覗き込んでくるエデュラの真剣な顔は愛くるしい。
何故、こんな素晴らしく可愛い女性を手放そうと思ったのか、リーヴェルトは不思議でならなかった。
でもそれは、リーヴェルトにとっては僥倖と言えるだろう。
何せ、竜の血を覚醒させた真の番を、国に連れて帰れるのだから。
本当は。
攫ってでも連れ帰るつもりだった。
それからゆっくりと、覚悟を決めてもらうつもりで。
だが、ルオター公爵家の伝手を通じて、ポワトゥ伯爵に薬が渡るように仕向けたのだ。
エリンギルは思った通りの行動に出た。
計算外だったのは、直前になって拒んでいたエデュラが恐怖を感じていると思った時、咄嗟に制止してしまった事だ。
画策したのに、情けない。
だが、リーヴェルトは後悔してはいなかった。
目の前に、七年も前から愛し続けた少女が、運命の相手がいる。
不意に唇を奪われて、エデュラはまじまじとリーヴェルトを見詰めていた事に気づいて、慌ててまたシーツに顔を隠した。
くすくすと、機嫌のよい柔らかい笑い声が頭の上から降ってくる。
「エデュラ。我が愛しの妻よ。今日私は王家主催の祝宴に参加する。私の卒業と結婚を祝う宴だ。君も共に来てくれるかい?」
「ええ、貴方……私の黒竜陛下」
「ああ、良い呼び名だね。君は愛しの青竜妃殿下だ……」
二人は再び口づけを交わすと、愛し気にお互いの身体を抱きしめ合うのであった。
公爵家の使用人と、侯爵家の使用人、強力な二つの家の協力で磨き抜かれたエデュラは、壮絶な美しさを纏っていた。
そしてリーヴェルトは身体が一回り大きくなってしまったと、元々の服では生地が足りずに仕立て直すことも出来なかった。
まだ袖を通していないラファエリの服を急遽仕立て直すことになって、お針子達はおおわらわである。
多少飾りをそぎ落としたところで、見た目に華やかさを増したリーヴェルトならば、問題はない。
何とか時間までに間に合わせたお針子達の活躍で、リーヴェルトも身体にぴったりと合う正装を身に着けることが出来た。
海辺の屋敷から公爵家の別邸へと旅立つ一行は集まっていたのだが、用意を終えて階段を下りてくるリーヴェルトとエデュラの二人を見て、全員がその荘厳さに息を吞むのだった。
「お姉様、お綺麗ですわ……」
「ありがとう、エリシャ」
何よりも、報われずに泣き続けたエデュラが愛する相手に愛されているというその事実と、寄り添いあう二人が家族の心に安寧を齎していた。
ぐすり、とエリシャが鼻を啜る。
「さあさ、急ぎましょう」
公爵家の女中頭がパンパンと手を叩いて、一行はそれぞれの場所へと向かった。
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