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17ー婚約解消の影響
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国王は冷たい言葉で確認するように続けた。
「学園で無礼な振る舞いをした事も聞いている。あの時は側近を数人入れ替えたし、リリアーデ嬢のご友人も領地に帰ることになったが、その後は問題なかったようだな?」
苦々しい思い出だ。
温室でエデュラに咎められた後、話を切り上げた王子に従わずにエデュラは国王へと報告した。
そのせいでリリアーデの友人は領地へ戻された後で修道院へ送られ、側近達は停学処分と退学処分を受けたのだ。
差し出がましい真似を、と怒りに腸が煮えくり返るが、エリンギルは短く返事をするに止める。
「……は」
「ふむ。時にリリアーデ嬢の教育はどうなっている?」
国王は傍らで、大事そうに丸い腹を摩っている王妃に目を向けた。
王妃は俯いたままのリリアーデを静かに見つめて答える。
「漸く、エデュラが十歳の時分に終えたところまでですわね。本来ならもっと先に進める筈ですが、あと五年、若しくは六年はかかるでしょうか…この先はもっと難しくなるのでそれ以上かもしれませんわ」
「なるほど。経過は聞いていたが特に進展は無い様だな。では、エリンギル。そなたの立太子もリリアーデ嬢の教育に合わせて先送りとする。婚姻もだ」
「……はい」
そう言われ、エリンギルは傍らのリリアーデを見遣った。
学校での成績もそれほどには悪くないが、優秀とは言い難い。
不真面目な訳ではないのだが。
エリンギルの視線を感じて、リリアーデは苦し気に呟く。
「申し訳ありません……」
「無様ねぇ……」
だが、エリーナ姫の罵倒の言葉が投げつけられる。
リリアーデは恥辱に俯きながらも、口を引き結んだ。
「エリーナ。其方の教育係はきちんとした教育をして来なかったようだな。私の前で何度も許可なく発言するなど、其方は王よりも偉いつもりか?」
「……え、いえ、お父様…そ…」
「謁見の間での言葉遣いすら知らぬとは。リリアーデ嬢が十歳ならばお前は五歳以下ではないか」
否定しようとして、エリーナ姫は失言をした。
ここでは父と呼んではいけないのだ。
それに。
教育係は適度に甘やかしてくれる者でないと、エリーナ姫が癇癪を起こして辞めさせてしまうので、結果それなりの教育しか施せる人間しかいない。
「何れは公爵家か侯爵家に降嫁させるつもりであったが、どの家からも断られている。そなたが真面目に過ごしておれば……エリード、其方もだ。エデュラ嬢や使用人達を虐げていて、誰にも止められないからといって許されていると思ったか?」
「でもわたくしには番がおります!番以外は不要です!おと…っ陛下が、王命で…」
カッと羞恥に顔を赤く染め上げたエリーナ姫が騒ぐが、国王は盛大な溜息を吐いた。
「その番のラファエリは、既に帝国へとその籍を移した。最早この国の民ですらない。それに嫌がる相手を王命にて無理やり婚姻させるなどと、何と愚かな事を申す娘だ……」
「……え、何故、どうして……帝国へ……?」
「ふん。身に覚えがあろう?このままこの国に居たら、王命で其方の夫にならねばならぬ事を危惧したのだろう」
この国では番は特別視される。
それも王族においては特に。
正式な相手が居たとしても、次代の王でなくても、娶ることが許される。
だからこその、暴挙でもあった。
二人は必ず手に入るものだと思い込んでいたのだ。
だが、それはこの国の、限られた場所での事。
他国へ渡ってしまえば、いくら王権を振りかざそうとも無意味である。
愕然としたエリーナ姫は、ふらりと頭をゆらして、隣のエリード王子に掴まった。
エリード王子も、同じく呆然と国王を見つめている。
「学園で無礼な振る舞いをした事も聞いている。あの時は側近を数人入れ替えたし、リリアーデ嬢のご友人も領地に帰ることになったが、その後は問題なかったようだな?」
苦々しい思い出だ。
温室でエデュラに咎められた後、話を切り上げた王子に従わずにエデュラは国王へと報告した。
そのせいでリリアーデの友人は領地へ戻された後で修道院へ送られ、側近達は停学処分と退学処分を受けたのだ。
差し出がましい真似を、と怒りに腸が煮えくり返るが、エリンギルは短く返事をするに止める。
「……は」
「ふむ。時にリリアーデ嬢の教育はどうなっている?」
国王は傍らで、大事そうに丸い腹を摩っている王妃に目を向けた。
王妃は俯いたままのリリアーデを静かに見つめて答える。
「漸く、エデュラが十歳の時分に終えたところまでですわね。本来ならもっと先に進める筈ですが、あと五年、若しくは六年はかかるでしょうか…この先はもっと難しくなるのでそれ以上かもしれませんわ」
「なるほど。経過は聞いていたが特に進展は無い様だな。では、エリンギル。そなたの立太子もリリアーデ嬢の教育に合わせて先送りとする。婚姻もだ」
「……はい」
そう言われ、エリンギルは傍らのリリアーデを見遣った。
学校での成績もそれほどには悪くないが、優秀とは言い難い。
不真面目な訳ではないのだが。
エリンギルの視線を感じて、リリアーデは苦し気に呟く。
「申し訳ありません……」
「無様ねぇ……」
だが、エリーナ姫の罵倒の言葉が投げつけられる。
リリアーデは恥辱に俯きながらも、口を引き結んだ。
「エリーナ。其方の教育係はきちんとした教育をして来なかったようだな。私の前で何度も許可なく発言するなど、其方は王よりも偉いつもりか?」
「……え、いえ、お父様…そ…」
「謁見の間での言葉遣いすら知らぬとは。リリアーデ嬢が十歳ならばお前は五歳以下ではないか」
否定しようとして、エリーナ姫は失言をした。
ここでは父と呼んではいけないのだ。
それに。
教育係は適度に甘やかしてくれる者でないと、エリーナ姫が癇癪を起こして辞めさせてしまうので、結果それなりの教育しか施せる人間しかいない。
「何れは公爵家か侯爵家に降嫁させるつもりであったが、どの家からも断られている。そなたが真面目に過ごしておれば……エリード、其方もだ。エデュラ嬢や使用人達を虐げていて、誰にも止められないからといって許されていると思ったか?」
「でもわたくしには番がおります!番以外は不要です!おと…っ陛下が、王命で…」
カッと羞恥に顔を赤く染め上げたエリーナ姫が騒ぐが、国王は盛大な溜息を吐いた。
「その番のラファエリは、既に帝国へとその籍を移した。最早この国の民ですらない。それに嫌がる相手を王命にて無理やり婚姻させるなどと、何と愚かな事を申す娘だ……」
「……え、何故、どうして……帝国へ……?」
「ふん。身に覚えがあろう?このままこの国に居たら、王命で其方の夫にならねばならぬ事を危惧したのだろう」
この国では番は特別視される。
それも王族においては特に。
正式な相手が居たとしても、次代の王でなくても、娶ることが許される。
だからこその、暴挙でもあった。
二人は必ず手に入るものだと思い込んでいたのだ。
だが、それはこの国の、限られた場所での事。
他国へ渡ってしまえば、いくら王権を振りかざそうとも無意味である。
愕然としたエリーナ姫は、ふらりと頭をゆらして、隣のエリード王子に掴まった。
エリード王子も、同じく呆然と国王を見つめている。
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