悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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中年だって未来は変わる

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ちょこちょこと近づいてくる小さな男の子の手には、その辺に咲いていた野花らしき束が握られていて、マリアローゼの目の前までくると、それを差し出した。

「まあ、くださるの?」
「うん」

もごもごと恥ずかしそうにしながら、手渡すと、男の子は頷いた。

「坊やのお名前は?」
「ニコ」

嬉しそうにニカッと笑って、茶色の髪の子供は後ろに手を組んでモジモジした。
その頃には捕まえようとして子供に手を伸ばした髭の男はノクスに抑えられ、おずおずと近づいて来た母親が、地面にぺたりと座って泣きながら謝りだす。

「何も分からない子供がした事ですので、どうか、罰なら私に…」

ああ、こんな事で失礼にあたってしまうのですね……

ただの好意や感謝の行為だとしても、場合によっては貴族の機嫌を損ねることになるのだ。
ここは王国だとはいえ、身分に厳しい貴族であれば罰を与える可能性もなくはない。
帝国であれば死刑すらあり得るのだ。

マリアローゼはにっこりと微笑んだ。

「あら?何故ですの?わたくしはニコのくれたお花が嬉しゅうございますわ。それに罰ではなく、
ニコのおもてなしに感謝を示したいです」

お礼と言えばクッキーである。
美味しいので誰もが嫌がらない、とマリアローゼは自負していた。

袋に詰まったクッキーをルーナが鞄の中から出し、マリアローゼに手渡す。

「他の子供たちにも分けてあげてくださいませね」

ぽかん、と口を開けて呆然とした母親に、クッキーのつまった袋を持たせると、マリアローゼは髭の男に目をやった。
ノクスに簡単に押さえ込まれ、マリアローゼの対応に居心地の悪さを感じていたのか、スッと目を逸らす。

「貴方のお名前をお聞きしても?」
「……私は、公爵家の方に名乗る程の名前は…」

口篭ったところで、ノクスが冷たい声を発した。

「お嬢様がお聞きになっているのです。答えなさい」

「キ、キドニーと申します……」

どんな罰が下るのか?何故名を聞いたのか?と周囲の人間も恐々と様子を窺っているが、マリアローゼはスカートを摘んでふわりと軽くお辞儀を見せた。

「キドニーさんは、わたくしと、この母子の身を案じたのですわよね?貴賎に関わらず、子供は国の宝ですもの。
これからも、その優しさを子供達に向けてあげてくださいませ」

意図は勿論分かった上で、マリアローゼは微笑んだ。

子供に何かしたら許さんぞ、この野郎、という脅しを篭めたのである。
傍若無人な振る舞いを許されていたとしたら、貴族ではないにしても金持ちではあるだろう。
マリアローゼが通り過ぎた後で、母子に文句を言われたら元も子もないのである。
釘を刺す必要があったので、じっと髭の男、キドニーを見詰めた。

「あ、有り難きお言葉……誠に感謝致します……何と慈悲深い……」

キドニーは謝罪する為に地面に座った母親の横にぺたん、と膝を付き、拝むような仕草で感激を顕にした。

えっ?脅したつもりだったのだけれど、まあ、分かってくれたのなら、それで…

マリアローゼは、見守っていた群衆にももう一度、軽く膝を屈してお辞儀をして見せた。
青空のように真っ青なドレスが、美しく翻る。

「皆様も、お見送り有難う存じます」

「さ、行こうか、ローゼ」

後ろで見守っていたシルヴァインが抱き上げると、マリアローゼに見惚れていた群集からわっと歓声があがった。

馬車に乗り込むと、ルーナがスッと近寄ってくる。

「お嬢様、お花をお預かり致します」
「ええ、ありがとう、ルーナ」

小さな野花を渡すと、ルーナは小さな瓶にその花を生けて、備え付けの家具に固定されている棚に瓶毎入れた。
シルヴァインはいつもの一番後ろの窓際に腰を下ろすと、マリアローゼを膝に乗せる。
大きな歓声と手を振る民衆に、マリアローゼも笑顔で小さく手を振った。

この後、キドニーが人々に感謝される事に悦びを覚え、子供達の為の基金を設立して尽くした結果、
キドニー男爵となるのはマリアローゼにとっても予想外の未来である。
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