悪の種子

ひよこ1号

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覚悟なさい

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「何故、急に帰るなんて」

カッツェは離すまいとするように、シヴィアの手をぎゅっと握った。
今にも泣きだしそうな瞳を見て、シヴィアはカッツェの髪を撫でる。

「あら、元々決まっていた事よ。貴方は此処で修道院に入った事にして、お祖父様の元で学び続けるの。皆で決めた通り、わたくしの手紙は修道院に届けるから、貴方からは代理人の息子の名前で手紙を頂戴ね」

「……離れたくない………」

ぎゅっと抱きしめる力は意外にも強く、もうシヴィアの細腕では振りほどけそうにない。
上背も伸びて、腕も足もしなやかだ。
背中に手を回すと、シヴィアもカッツェをぎゅっと抱きしめた。

「大好きよ、カッツェ。でもわたくし達はもっと強くならなくてはいけないの。わたくしにはわたくしの戦いがあると、殿下にも言われたわ。何も一生会えない訳ではないの。社交の期間が終わればまた、領地に来ますから、離れても半年よ」

「半年……」

長いけれど、もしかしたらずっと大人になるまで会えないのではないか、と危惧していたカッツェは力を込めていた腕を緩めた。
授業を受けたから分かっている。
貴族は社交をして人脈と力を得るのだと。
アルシェン王子と踊った今だからこそ、再び王都に行く意味があるのだろう。
ほんの少しだけ、シヴィアの力になれるアルシェンが羨ましく、妬ましかった。

でも、シヴィアは大好き、と言ってくれたのだ。

「俺も、シヴィを大好きだ、愛してる」

そして、アルシェンに取られたくない気持ちで、美しい唇に口づけた。

「ごめん。紳士らしくないのは分かっているけど、……誰にも渡したくないんだ」

呆気にとられたシヴィアは、混乱した。

アルシェンといい、カッツェといい、まるで盗むかのように突然攫って行くのである。

「ひどいわ、カッツェ……」
「……ごめん……嫌いにならないで、シヴィ」
「嫌いにさせたくなかったら、もっと立派な紳士になって頂戴。わたくしももっと、素晴らしい淑女になるわ」

恋愛かと言われれば、シヴィアにはまだ分からない。
何だかアルシェンにもカッツェにも、林檎の木の競争で先に走り出された気分なのである。
自分より先に踏み出してしまって、焦る様な、ずるい、というような気持ち。

いつか引っくり返してやるんだから。

勝気な微笑みを浮かべると、途方にくれてしょげた犬のようなカッツェの鼻に人差し指を突き付けた。

「覚悟なさいね」
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