悪の種子

ひよこ1号

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悪女の面影を持つ少女

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「お久しゅうございます、アルシェン殿下」
「何だ、畏まって」

丁寧な淑女の礼を見て、からかう様にアルシェンが笑う。
はあ、と盛大にため息を吐いて見せてから、シヴィアは応じた。

「とりあえず最初は、と思ったのよ。……お願い事もあるしね」

後半は悪戯っぽくそう言って、ぺろりと舌を出して見せる。
気安いシヴィアの少女らしい顔を見ると、アルシェンの心臓は跳ね上がった。

「何だ、そっちが本題か」
「まあ、失礼ね。淑女の挨拶を台無しにしておいて」
「詫びに、菓子でもどうだ」

そつなく、アルシェンは庭の奥のガゼボに、シヴィアを連れていく。
そこには既に菓子と茶器が並んでいて、アルシェンとシヴィアが現れるとさっと侍女が紅茶を満たして離れた場所へと下がって待機する。

「頂くわ。とっても美味しそう」
「最近、隣国から輸入したという菓子を食べて、調理人が真似をして作ったものだ」
「………うん、おいふぃいわ」

口元を抑えながらもごもご言うと、アルシェンはぷっと噴き出した。
そして、同じ菓子を手に取って口に入れる。

「調査の得意な侍女を一人貸して欲しいの。お祖母様付きの侍女にするわ」
「一人と言わず、何人か連れて行くと良い。連絡係も付けよう。証拠は城で保全した方が良い」

確かにそうね、とシヴィアも頷いた。
それから、スッとカードを胸元から出して、王子の前に置く。

「ここがカッツェのいる修道院よ。直接の連絡が困難な場合はこちらを介しましょう。まあそんな事態にはそうそうならないでしょうけど、それとは別にたまには手紙を書いてあげて欲しいの」
「ほう。じゃあ、シヴィと逢瀬を楽しんだ事を書いて送ってやろう」
「……意地悪ね」

呆れた様に言うシヴィアに、アルシェンは眉を下げてニヤリと笑う。
大変下衆な顔で言い放った。

「小さい頃は一緒に寝た、なんて自慢してくる奴だから、仕方ない。こちらも自慢し返す隙を狙ってたんだ」
「殿方同士が張り合うのに女性を巻き込まないで」
「君は一人しか存在しないんだから、仕方ない。諦めてくれ」

アルシェンもカッツェも限られた狭い世界に居て。
今はシヴィアしかいないから、そんな風に求めてくれるのだとシヴィアは自嘲する。
未来を閉ざす事しか考えていないシヴィアにとって、彼らの思い描く世界は眩しすぎるのだ。

「どうかしら。簡単に諦める女じゃなくてよ」

ニヤリ、と笑って返せば、ははは、とアルシェンは快活に笑う。

「さすが女公爵だ。……領地で行っていたように、武術の訓練も必要だな。城での訓練を受けると良い。父上に登城許可を出して頂こう。いつでも王城に来れるぞ」
「まあ、それは。図書室も利用させて頂けるのでしたら、嬉しいわ」
「共に受けられる授業があれば、家庭教師の給金の節約にもなる」

とんでもない提案をされて、暫くシヴィアは頭の中で計算した。
領地に帰れば半年間は、アルシェンから遅れを取るけれど。
今もし習えるのならば、習った方が良いだろう、とシヴィアは頷いた。
それに、優秀な教師は優秀な教師を紹介できるだろう。
必要な人材を確保するのにも、使えるのだ。

「明日から参りますわ殿下。手加減はしませんことよ」
「望むところだ」

二人は男同士の友人のように握手を交わす。

そしてその頃からシヴィアが王城へと日参する事になり、あっという間に第一王子の婚約者では?という噂が貴族達の間で広まったのである。
王城ですれ違う王子と公爵令嬢は仲睦まじく、また、言葉を交わせば賢く礼儀正しく美しい娘で。
公爵位を継ぐにしても、何処かへ嫁すにしても自分の子供をお傍に是非ともと考える男親は少なくない。
その一方、ディアドラに酷い目に遭わされた元ご令嬢達は戦々恐々としていた。
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