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女神様の余計なオプション
6.何か聞こえるんですが……? *
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本当に散々であった。
勤務初日から事故に巻き込まれ、さほど綺麗でもない堀の池に荷物ごと突っ込み着替えも生臭い匂いがするので全部洗濯を自分でして、挙句に職場は一番きついとされた北の洗濯場だけが残されていたので必然的にそこになった。
王宮内にある病院の近くの洗濯場は、量が多いのと場所が裏手のため王宮に出仕している異性の目に触れることもほとんどなくいわゆる頑張りがいがないのだという不人気職場だった。
(まあいいや…もう疲れた……)
セドリスに心配された通りに上官に怒られたし、仕事の引き継ぎは大変だった。しかし地味な職場なだけあっておとなしい人たちが多く、ルリアナが自分の服を洗っているのを手伝ってくれる人すらいた。
ルリアナは実家のためにお金が欲しいだけであって、平和に働けるのが一番である。競争の激しい派手な職場などこの地味な平凡令嬢にはつらいだけである。目立たないで生きられるのが一番だ。
それより、ルリアナの第一の使命は、呪われた性欲をもつ可哀想な男性を探して解放してあげることである。
ただその使命にはもう何をどうやったらいいのかがわからなかった。
(というかそもそも呪われた性欲って…出し続けないと浄化されないってなんで女神様そんなとんでもない呪いに変換したの…)
全ては呪ってしまったらしいティティリアが悪い。そこは否定しない。
だかしかしもう少しやりようがあるのではなかろうか。
(それにしたって1日1回出す……365日毎日ずっと?人間ってどれだけ出せるんだろう。やりたくない日もあるよね。それを耐え切るだなんてなんたる精神力とそして性欲。つまり……ぜ、絶倫ってやつね)
ルリアナは申し訳なさに押しつぶされそうではあったが、ついつい好奇心も生まれてしまった。
なにせ女神様に妄想のエキスパート認定されたくらいである。
バレれば俗物的とどれほど教会に罵られようとも、見た目の顔だけは性なんて穢らわしいもの知りませんとお綺麗な表情を取り繕おうとも、騎士様との情事の妄想が止められないしょうもない聖女であったのだ。
王城から戻った頃は眠れないほどそういうことへの忌避感が強かったが、ある日突如天啓のようにめくるめく妄想が始まり、ついつい直接的な肉欲に繋がってしまった。
現実の男なんかに触られるのは真っ平ごめんだったが、やたらとリアルな夢と妄想の騎士様はいつだってティティリアを大切に扱い慰め、なんなら気持ちよくさせてくれた。
『あぁん、そんな奥っ、ごちゅごちゅ…したらもうじんじゃうぅ…っ!』
愛人のそんな叫びを聞いたことはあったが、同じセリフを妄想だけで吐いてしまうティティリアも相当にひどい。一応処女であったはずだ。
(はあ……こんなことだからあの性欲の女神様を起こせたのね。ああでも女神様がいなければ私の吐き捨てた呪いが王国に蔓延ってとんでもないことになっていたのだというし、いいこと……いえ、相殺だわね。私が余分なことを思わなければよかったのだわ)
ティティリアの記憶と混ざり合ってルリアナはだいぶ老成した感覚がある。
16歳ってどんな感じだったっけ?という手探り感が強い。もちろんルリアナの記憶も感情もちゃんとあるのだが……こう、若者らしい前向きで未来を夢見る気持ちがいまいち湧いてこないのだ。
ろくでもない大人の世界しか知らないせいかもしれない。
(ルリアナ…ごめんね。私なんかの生まれ変わりになってしまったから…)
何も知らなければもっと王宮勤めに夢を持って素敵な出会いもあったかも……いや、やっぱりなかった確率の方が高い気もするが、ルリアナは昔から逆境に負けない明るい性格だ。どんな環境でもニコニコ笑っていただろう。だがティティリアを知ったルリアナは疑い深くなり、ぎこちない笑顔になっていないか心配である。
(はあ……でも考えても仕方ないわ。とりあえずまずはここでの生活に慣れなければ。明日も早いんだから寝なきゃ……本当色々あって今日は疲れたの……)
1週間もの乗り継ぎまくりの粗末な馬車の旅のあとに屈強な軍馬に引かれかけ、ハイテンションな女神により前世の重い記憶を取り戻し、大変な男前に心配され、一方的に欲情し、新しい職場で怒られ、ひたすらに大量の自分の服を洗濯しまくったという怒涛の1日を振り返り、ルリアナは、日中にあった出来事のインパクトが大きすぎる、と頭を抱えた。
寝台の中で冴えた目と一気に激減した信仰心を抱えて悶々としていると。
『………ん、……ふ……っ』
ふと、低い男の息を漏らす声が聞こえた気がした。
ルリアナは自分の領地の寝台よりはわずかばかりスプリングのきいた使用人部屋の寝台からカバッと起き上がる。
(のぞき?!)
二人部屋なのだが、同室は今年の採用が奇数ということでたまたまいなかった。日当たりの悪い部屋を割り当てられていたけれどそんなことはどうでもいい。問題はセキュリティが緩いことにあるのかもしれない。
ルリアナは恐る恐るランプをつけた。
窓際も壁際もすり足で回ってみたが誰もいない。
しかし耳の奥には艶めかしい男の声が断続的に聞こえてくる。
(どこかの部屋に誰かが男性を連れ込んでいるのかしら?)
その割には女性の声は全くしない。
なのに、はっ、はっ、と息が荒くなっていく一方である。
(…………なるほど?まあ男性同士でもそういうのはあるかもしれないわ。ってここ女子棟なのだからこんなところで盛らないでよ!)
ルリアナは音の根源を探し当てるのを諦め、耳を押さえて仕方なく寝台に再び横になった。
だが目が冴えて眠れない。
なにせ、男性のそういう声がずっと聞こえてくるからだ。
布団に潜ってもう一度ぎゅうと耳を押さえてみると少し遠くなるのだが遮断はできない。
一体全体どんな大声を出しているのだ、とルリアナは舌打ちをした。
『………っ、くそ………イ、けな……』
「えっ?」
しかしはっきりとした言葉として認識した瞬間、なぜかその声に覚えがある気がしてきた。
そして、どうにか無理やり乾かしたドロワーズの股の間が突然じんわりと湿ってきたのを感じた。
(ひぃいいいい?!なにこれ!!)
昼間に続きなんたることか。
ルリアナは頬を引き攣らせたが、同時に下腹部がビリビリとする。
目の前にいた好ましい男性の声だったらまだしも、全く見ず知らずの男性のそう言う声を聞いていかがわしい状況になるとは。
(痴女!痴女だわこんなの!信じられない!)
人様の(男同士の?)情事を盗み聞いて興奮をするだなんてただの変態である。
ルリアナはぎゅっと支給された綿の寝巻きの腹の辺りをぎゅっと掴んだ。
心頭滅却。
ひたすらに経典を唱えた。
だが、はぁはぁとまるでルリアナのすぐそばにいるみたいに耳元で荒い息遣いが聞こえてくるのだ。
(何これ…?幽霊?幽霊とか?!)
段々とルリアナは恐ろしくなった。
幽霊だなんて信じてはいないが、周りに誰もいないのに艶っぽい声だけはやたらとはっきり聞こえてくる。
ぎゅうと目を閉じた。
しかしこれが失敗であった。
余計にふぅふぅと苦しそうな、しかし、なんとも艶めかしい低音がひたすらに聞こえてくるのである。なんならぬちゃぬちゃという小さな水音まで。
『……ア…くっそ……ん…っ』
「…っ」
いつまでも一人の声しか聞こえないので、これは接合ではなく、自慰なのでは、と思い至り始めた。しかし何度周りを見渡しても誰もいないし、布団を思い切りかぶって身を縮めても声は聞こえなくならない。
なんなのこれぇ?と思いながら、さすがにずっと聞いているとルリアナとて平然としていられない。
頭の中は想像で爆発しそうだし、心臓はドドドと全力疾走しているし、体はほてる。
だって本当に耳元に直接、艶声を吹き込まれてるのと同じなのだ。息遣いすらはっきりと聞こえるというのはどういうことか。というか本当にいい声だ。そういう意味だけではなくて普通に聞いても絶対とってもいい声だ。
もう昼間に続いてなんでなのだ。
男の声に過剰反応しすぎではなかろうか。
(っていうかこれは現実?現実なの??妄想なの??まさか、夢オチ?)
耳を必死で抑えていても何の意味もないなんておかしすぎる。
ティティリアが頻繁に見ていた一面肌色、朝起きたら下着が大変なことになっていた夢の続きだろうか。
だが、頬をつねっても絶えず声が聞こえるし、はっはっと耳に息を吹きかけ続けられているのではと思うほどの生々しさは何も変わらない。
(ど、どうしよう……)
のぼせそうだ。
知らない男のそういう声を聞かされて気持ちが悪いではなくて興奮するだなんて自分が信じられなすぎる。
無垢なルリアナなら気持ちが悪いと泣いたかもしれないが、ティティリアは……ごめん、たぶん痴女である。たぶんはなくてもいいかもしれない。
そろそろと震える右手をドロワーズの中に滑らせた。ぬるっと指先が滑った。
「ぅ…うぅ……」
これ以上汚したくない。だってこれしかいま乾いていないのだ。そのためには脱ぐしかない。
ぐっと唇をかみしめてルリアナは勢いよく脱いだ。まだちょっとだけ股座が濡れたくらいだ。朝には乾く。もう肌寒い季節だけど乾くと信じる。
そのままそろそろりと足を開き、自身の敏感な豆に触れた。
痛みに似たびりっとした刺激に自分でびくっと跳ねあがる。
「ひゃ…っんんんっ!」
妄想のせいで自慰経験豊富なティティリアの体と違い、ルリアナはまだ若芽であり、記憶にある限りは外で駆けずり回る方が大好きでそういう興味もなかった。
つまりこれが初めて。
申し訳ない、こんな純真な少女の前世がとんでもない痴女だなどと、とルリアナはルリアナ自身に謝罪しつつ、どうにも収まらないこの熱を発散するためにそろりと指を動かした。
「…ん…っ、ぅん……」
『っは……、はぁ……っう…』
シーツを噛んで抑え込んだ自分の声と見知らぬ男性の声が重なり合って、とんでもなくいかがわしい気持ちになる。
まるで直接に抱き合っているかのような。
あまり触ると怖いが、ゆっくりとくるくる円を描くように優しく触れるだけでどぷどぷと淫蜜が零れ落ちてきた。
『……く…、どう、にか……はぁっ』
にちゅ、にちゃ、という音までがぼんやりどこか遠くで聞こえる。どれだけ濡れていてもルリアナのそこからのものとは違う音だ。
きっとこの(仮想)幽霊さんもイきたくてたまらないのだろう、と想像すると、自分の手を挟み込んでもじもじと太ももをすり合わせてしまった。ついでにきゅうと少しだけ指先で敏感なその部分をつまんでみる。
「ん、んんんーーーっ」
『イ、く……っ』
びゅくっと何かが噴き出すような音とともに、ルリアナも自分の腰をびくびくと震え上げた。
はっ、はっ、と今度は自分の荒い息が部屋の中にこだまする。
知らない声はもう聞こえなかった。
「……一体……なんなのぉ?」
下半身裸で手拭きを探し、人心地付いたルリアナは超怪奇現象に頭を抱える。
前世も今世も王宮って怖い!
正直な気持ちであるが、お金は稼がなければならないし、呪いは解かなければならないし、逃げだすこともできないルリアナは、現実逃避して眠りについた。
まさか翌日もその翌日も同じ現象が起き続けるだなんて思ってもみずに。
勤務初日から事故に巻き込まれ、さほど綺麗でもない堀の池に荷物ごと突っ込み着替えも生臭い匂いがするので全部洗濯を自分でして、挙句に職場は一番きついとされた北の洗濯場だけが残されていたので必然的にそこになった。
王宮内にある病院の近くの洗濯場は、量が多いのと場所が裏手のため王宮に出仕している異性の目に触れることもほとんどなくいわゆる頑張りがいがないのだという不人気職場だった。
(まあいいや…もう疲れた……)
セドリスに心配された通りに上官に怒られたし、仕事の引き継ぎは大変だった。しかし地味な職場なだけあっておとなしい人たちが多く、ルリアナが自分の服を洗っているのを手伝ってくれる人すらいた。
ルリアナは実家のためにお金が欲しいだけであって、平和に働けるのが一番である。競争の激しい派手な職場などこの地味な平凡令嬢にはつらいだけである。目立たないで生きられるのが一番だ。
それより、ルリアナの第一の使命は、呪われた性欲をもつ可哀想な男性を探して解放してあげることである。
ただその使命にはもう何をどうやったらいいのかがわからなかった。
(というかそもそも呪われた性欲って…出し続けないと浄化されないってなんで女神様そんなとんでもない呪いに変換したの…)
全ては呪ってしまったらしいティティリアが悪い。そこは否定しない。
だかしかしもう少しやりようがあるのではなかろうか。
(それにしたって1日1回出す……365日毎日ずっと?人間ってどれだけ出せるんだろう。やりたくない日もあるよね。それを耐え切るだなんてなんたる精神力とそして性欲。つまり……ぜ、絶倫ってやつね)
ルリアナは申し訳なさに押しつぶされそうではあったが、ついつい好奇心も生まれてしまった。
なにせ女神様に妄想のエキスパート認定されたくらいである。
バレれば俗物的とどれほど教会に罵られようとも、見た目の顔だけは性なんて穢らわしいもの知りませんとお綺麗な表情を取り繕おうとも、騎士様との情事の妄想が止められないしょうもない聖女であったのだ。
王城から戻った頃は眠れないほどそういうことへの忌避感が強かったが、ある日突如天啓のようにめくるめく妄想が始まり、ついつい直接的な肉欲に繋がってしまった。
現実の男なんかに触られるのは真っ平ごめんだったが、やたらとリアルな夢と妄想の騎士様はいつだってティティリアを大切に扱い慰め、なんなら気持ちよくさせてくれた。
『あぁん、そんな奥っ、ごちゅごちゅ…したらもうじんじゃうぅ…っ!』
愛人のそんな叫びを聞いたことはあったが、同じセリフを妄想だけで吐いてしまうティティリアも相当にひどい。一応処女であったはずだ。
(はあ……こんなことだからあの性欲の女神様を起こせたのね。ああでも女神様がいなければ私の吐き捨てた呪いが王国に蔓延ってとんでもないことになっていたのだというし、いいこと……いえ、相殺だわね。私が余分なことを思わなければよかったのだわ)
ティティリアの記憶と混ざり合ってルリアナはだいぶ老成した感覚がある。
16歳ってどんな感じだったっけ?という手探り感が強い。もちろんルリアナの記憶も感情もちゃんとあるのだが……こう、若者らしい前向きで未来を夢見る気持ちがいまいち湧いてこないのだ。
ろくでもない大人の世界しか知らないせいかもしれない。
(ルリアナ…ごめんね。私なんかの生まれ変わりになってしまったから…)
何も知らなければもっと王宮勤めに夢を持って素敵な出会いもあったかも……いや、やっぱりなかった確率の方が高い気もするが、ルリアナは昔から逆境に負けない明るい性格だ。どんな環境でもニコニコ笑っていただろう。だがティティリアを知ったルリアナは疑い深くなり、ぎこちない笑顔になっていないか心配である。
(はあ……でも考えても仕方ないわ。とりあえずまずはここでの生活に慣れなければ。明日も早いんだから寝なきゃ……本当色々あって今日は疲れたの……)
1週間もの乗り継ぎまくりの粗末な馬車の旅のあとに屈強な軍馬に引かれかけ、ハイテンションな女神により前世の重い記憶を取り戻し、大変な男前に心配され、一方的に欲情し、新しい職場で怒られ、ひたすらに大量の自分の服を洗濯しまくったという怒涛の1日を振り返り、ルリアナは、日中にあった出来事のインパクトが大きすぎる、と頭を抱えた。
寝台の中で冴えた目と一気に激減した信仰心を抱えて悶々としていると。
『………ん、……ふ……っ』
ふと、低い男の息を漏らす声が聞こえた気がした。
ルリアナは自分の領地の寝台よりはわずかばかりスプリングのきいた使用人部屋の寝台からカバッと起き上がる。
(のぞき?!)
二人部屋なのだが、同室は今年の採用が奇数ということでたまたまいなかった。日当たりの悪い部屋を割り当てられていたけれどそんなことはどうでもいい。問題はセキュリティが緩いことにあるのかもしれない。
ルリアナは恐る恐るランプをつけた。
窓際も壁際もすり足で回ってみたが誰もいない。
しかし耳の奥には艶めかしい男の声が断続的に聞こえてくる。
(どこかの部屋に誰かが男性を連れ込んでいるのかしら?)
その割には女性の声は全くしない。
なのに、はっ、はっ、と息が荒くなっていく一方である。
(…………なるほど?まあ男性同士でもそういうのはあるかもしれないわ。ってここ女子棟なのだからこんなところで盛らないでよ!)
ルリアナは音の根源を探し当てるのを諦め、耳を押さえて仕方なく寝台に再び横になった。
だが目が冴えて眠れない。
なにせ、男性のそういう声がずっと聞こえてくるからだ。
布団に潜ってもう一度ぎゅうと耳を押さえてみると少し遠くなるのだが遮断はできない。
一体全体どんな大声を出しているのだ、とルリアナは舌打ちをした。
『………っ、くそ………イ、けな……』
「えっ?」
しかしはっきりとした言葉として認識した瞬間、なぜかその声に覚えがある気がしてきた。
そして、どうにか無理やり乾かしたドロワーズの股の間が突然じんわりと湿ってきたのを感じた。
(ひぃいいいい?!なにこれ!!)
昼間に続きなんたることか。
ルリアナは頬を引き攣らせたが、同時に下腹部がビリビリとする。
目の前にいた好ましい男性の声だったらまだしも、全く見ず知らずの男性のそう言う声を聞いていかがわしい状況になるとは。
(痴女!痴女だわこんなの!信じられない!)
人様の(男同士の?)情事を盗み聞いて興奮をするだなんてただの変態である。
ルリアナはぎゅっと支給された綿の寝巻きの腹の辺りをぎゅっと掴んだ。
心頭滅却。
ひたすらに経典を唱えた。
だが、はぁはぁとまるでルリアナのすぐそばにいるみたいに耳元で荒い息遣いが聞こえてくるのだ。
(何これ…?幽霊?幽霊とか?!)
段々とルリアナは恐ろしくなった。
幽霊だなんて信じてはいないが、周りに誰もいないのに艶っぽい声だけはやたらとはっきり聞こえてくる。
ぎゅうと目を閉じた。
しかしこれが失敗であった。
余計にふぅふぅと苦しそうな、しかし、なんとも艶めかしい低音がひたすらに聞こえてくるのである。なんならぬちゃぬちゃという小さな水音まで。
『……ア…くっそ……ん…っ』
「…っ」
いつまでも一人の声しか聞こえないので、これは接合ではなく、自慰なのでは、と思い至り始めた。しかし何度周りを見渡しても誰もいないし、布団を思い切りかぶって身を縮めても声は聞こえなくならない。
なんなのこれぇ?と思いながら、さすがにずっと聞いているとルリアナとて平然としていられない。
頭の中は想像で爆発しそうだし、心臓はドドドと全力疾走しているし、体はほてる。
だって本当に耳元に直接、艶声を吹き込まれてるのと同じなのだ。息遣いすらはっきりと聞こえるというのはどういうことか。というか本当にいい声だ。そういう意味だけではなくて普通に聞いても絶対とってもいい声だ。
もう昼間に続いてなんでなのだ。
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ティティリアが頻繁に見ていた一面肌色、朝起きたら下着が大変なことになっていた夢の続きだろうか。
だが、頬をつねっても絶えず声が聞こえるし、はっはっと耳に息を吹きかけ続けられているのではと思うほどの生々しさは何も変わらない。
(ど、どうしよう……)
のぼせそうだ。
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そろそろと震える右手をドロワーズの中に滑らせた。ぬるっと指先が滑った。
「ぅ…うぅ……」
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そのままそろそろりと足を開き、自身の敏感な豆に触れた。
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「…ん…っ、ぅん……」
『っは……、はぁ……っう…』
シーツを噛んで抑え込んだ自分の声と見知らぬ男性の声が重なり合って、とんでもなくいかがわしい気持ちになる。
まるで直接に抱き合っているかのような。
あまり触ると怖いが、ゆっくりとくるくる円を描くように優しく触れるだけでどぷどぷと淫蜜が零れ落ちてきた。
『……く…、どう、にか……はぁっ』
にちゅ、にちゃ、という音までがぼんやりどこか遠くで聞こえる。どれだけ濡れていてもルリアナのそこからのものとは違う音だ。
きっとこの(仮想)幽霊さんもイきたくてたまらないのだろう、と想像すると、自分の手を挟み込んでもじもじと太ももをすり合わせてしまった。ついでにきゅうと少しだけ指先で敏感なその部分をつまんでみる。
「ん、んんんーーーっ」
『イ、く……っ』
びゅくっと何かが噴き出すような音とともに、ルリアナも自分の腰をびくびくと震え上げた。
はっ、はっ、と今度は自分の荒い息が部屋の中にこだまする。
知らない声はもう聞こえなかった。
「……一体……なんなのぉ?」
下半身裸で手拭きを探し、人心地付いたルリアナは超怪奇現象に頭を抱える。
前世も今世も王宮って怖い!
正直な気持ちであるが、お金は稼がなければならないし、呪いは解かなければならないし、逃げだすこともできないルリアナは、現実逃避して眠りについた。
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