罪と罰の天秤

一布

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第三章 罪の重さを計るものは

第五話 殺した者が殺された

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 その死体が発見されたのは、二月四日の早朝――午前六時半頃だった。発見場所は、十四階建てのマンションのゴミステーション。出勤時にゴミを捨てようとした住人が発見したという。

 死体の身元はすぐに判明した。

 磯部いそべ康文やすふみ、三十六歳。ほとんど実家に引きこもり、朝刊配達以外の仕事はしていなかった男だ。

 発見時の死体の損傷はひどいものだった。全身を浅くナイフで切り刻まれ、一〇七カ所も煙草の火を押し付けられ、尿道や肛門で爆竹を破裂させられ、手足を銃で撃ち抜かれていた。それらの傷は、被害者が生きているときにつけられたものだと判明している。生体反応――火傷であれば水ぶくれができるなど、生きている状態でなければ出ない反応――があったのだ。

 致命傷になったのは、肺を撃ち抜いた銃弾だった。

 明らかな他殺。しかも、相当な恨みを感じさせる殺し方だった。

 すぐに捜査本部が設置された。銃を使用した犯行なので、危険性の高い捜査になることは明らかだった。そのため、SCPT隊員に応援要請が入った。

 捜査に駆り出されたSCPT隊員は十名。亜紀斗もその一員だった。

 咲花は、今回の捜査には加わらない。通常の仕事に残るよう指示されていた。

 捜査本部の刑事の人数は五十名。十斑に分かれ、各斑五名の刑事と、護衛につくSCPT隊員一名の計六名で行動する。

 今回の捜査で、亜紀斗は川井の班に入ることになった。

 川井亮哉。咲花の元婚約者。未だ、彼女を愛している人。咲花の過去を――彼女が、美人女性監禁虐殺事件の被害者遺族だと――知っている人。

 咲花の過去を知っているなら、川井は気付いているはずだ。咲花が、この事件の捜査に加わらない理由に。

 被害者である、磯部康文。二十二歳の頃から実家にほぼ引きこもっていた男。二十二歳までは服役しており、刑務所の中でいじめられたことが原因で、引きこもりになった男。

 磯部が十六歳の頃に犯した罪は、監禁、暴行、傷害、強姦、殺人。

 世間で知られている事件名は、美人女性監禁虐殺事件。その犯人の中で、一番下っ端だった男。

 咲花が殺したいほど憎んでいるであろう、犯人の一人。
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