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第二十三話 まだ終わっていないのに、始まる
しおりを挟む五味を殺した翌日から、美咲は、毎朝ニュースを見るようにしていた。彼の死体が発見され、ニュースで報道されたら、すぐに行動できるように。
1月6日。冬休み終了まで残り10日を切った日。
朝のニュースで、それは放送された。昨日、近くの公園の池から、バラバラの死体が発見された。
発見者は、公園の管理業務員。例年になく気温が上がった昨日、溶けた氷に囲まれるように、キャリーバッグが池に浮いていた。管理業務員はキャリーバッグを回収し、公園の管理室で開けた。中に入っていたのは、袋詰めにされたバラバラの死体。
身元はまだ判明しておらず、十代から二十代の男性と思われる。アナウンサーが、緊迫した声でそう語っていた。
五味の死体が発見される可能性について、美咲は警戒していた。反面、どこか楽観視もしていた。氷が張った池に沈めたのだから、春先までは発見されないだろう、と。それまでに、4人全員殺せばいい。
だが、思い描いていた計画は狂った。
美咲の心に、ザワつくような感触が走った。
もっとも、楽観視していたとはいえ、対策はしている。五味の部屋は、指紋1つ髪の毛1本残さないよう、徹底的に掃除をした。美咲の存在を匂わせる物は、何一つ残していない。五味に買わせたキャリーバッグはあと2つ彼の部屋にあるが、それが直接美咲に結び付くことはないはずだ。
血痕も綺麗に落としたが、その痕跡は警察に発見されるだろう。鑑識で用いられるルミノール反応は、かなり薄めた血痕すらも浮かび上がらせるという。美咲は警察関係者ではないので、詳しいことは分からないが。
殺害現場が五味の家だということは、おそらくすぐに明かされる。それでも、問題はない。美咲が犯人だと断定する材料にはならない。
計画通りに進まなかったことでザワついた心を、美咲は、深呼吸をして落ち着かせた。
――大丈夫。大丈夫だ。
まだ、死体が発見されただけだ。自分が犯人だという決定的な証拠は、どこにも残していない。
深呼吸をして脳に酸素を送り、美咲は頭を働かせた。これからどう動くべきか。
五味の身元は、すぐに判明するだろう。彼だと判断する材料は、いくらでもある。歯の治療痕や指紋、体型、年齢。
五味の身元が割り出されたら、彼の両親のもとに警察が行くはずだ。そこから、彼が1人暮しをしていたマンションに行き着く。家に捜査が入り、殺害現場だと断定される。
これからの警察の動きを予測し、美咲は、最初にすべきことを決めた。
第一に、五味の家の鍵を処分する。こんな物を所持していることが誰かに知られたら、一気に容疑者候補の筆頭に昇り詰めてしまう。
美咲が五味の家の鍵を持っていることは、六田しか知らない。その彼も、もうこの世にはいない。
早速、美咲は行動を始めた。普段出かけるときと同じように準備をした。公共の交通機関を利用して、街に繰り出した。ショップで服や靴を見て回り、その最中に、思い出したかのようにトイレに入った。
トイレの個室。
そこで美咲は、五味の家の鍵を取り出した。トイレットペーパーを何重にもして包む。そのままトイレの中に捨て、流した。
鍵をそのままトイレに捨てると、その重みから、なかなか流れない。だからトイレットペーパーに包んだ。水に流れるトイレットペーパーが、包んだ鍵も一緒に流してくれる。
水が流れ、止まるまで待った。トイレの中に、鍵は残っていなかった。完全に流れたようだ。
想像通りに上手くいって、ホッと息をついた。
何事もなかったかのように、美咲は個室から出た。普段トイレに入ったときと同じように手を洗い、その場を後にした。
その姿には、何の違和感もなかった。
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