死を招く愛~ghostly love~

一布

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第三十五話 絶望の足音が聞こえる

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 1月28日。午前7時半頃。

 建設現場で、少年の死体が発見された。第一発見者は、その現場の作業員だった。

 第一発見者が警察に通報。現場検証が始り、死体は検死に回された。同時に、初動捜査として、周辺地域の人達や現場作業員への聞き込みが行なわれた。

 死体の身元はすぐに判明した。死体周辺に落ちていたスマートフォンから、持ち主が割り出されたのだ。持ち主の家族が呼ばれ、本人確認が行なわれた。

 七瀬三春。五味秀一と同じ高校で、同じ学年の生徒。しかも、五味と親しくしていたという。

 五味殺害事件に関して行なわれた聞き込みにおいても、七瀬の名前を口にする生徒は何人かいた。その全員が、彼のことを、このように記憶していた。

「五味の腰巾着。もしくは、金魚のフン。または、五味の手下」

 警察内では、当然、五味殺害と七瀬殺害には関連性があると考えられた。

 実際に、五味殺害と七瀬殺害の犯人は同一人物なのだ。つまり、七瀬の死体発見と捜査により、五味殺害の捜査についても、大きく前進することを意味する。

 犯人特定、および逮捕への前進。

 洋平は、絶望的な気分になっていた。思考の中には、数え切れないほどの「たら」「れば」が渦巻いていた。

 もし、1月のあの日に異常なほど気温が上がらず、五味の死体が発見されていなければ。もし、学校内に美咲よりも遙かに美人の生徒がいて、五味が美咲に興味を持たなければ。もし、美咲が洋平のことを好きにならなければ。

 ~なら。
 ~れば。
 もし~だとしたら。

 洋平が考える、無数の仮定。いずれかひとつでも、現実のものになっていれば。

 そう思いつつも、洋平の思考は、最終的にはたった一つの仮定に着地した。

 自分が、五味達に殺されていなければ。あのとき、手加減せずに叩き潰していれば。

 自分の命を犠牲にしてでも、美咲を守りたかった。どれほど凄惨な暴行を受けても、美咲を守れるなら構わなかった。美咲が無事であれば、どんな目に合ったとしても満足だった。

 それほどまでに深く、洋平は美咲を愛している。

 それなのに、美咲が不幸になる未来が近付いている。確実に。着々と。絶望的な未来の足音が、耳元まで聞こえてくるようだ。静まり返った闇の中で袋小路に追い詰められ、少しずつ接近してくる。絶望の足音。カツーン、カツーンと響く足音。少しずつ、音量が大きくなってゆく足音。

 洋平が何より恐れる、未来の足音。

 なぜ、今の自分には何もできないのか。どうして自分は、美咲を守ることができないのか。あんなにも、美咲を守ることだけを考えてきたのに。あんなにも、美咲を守るためだけに努力したのに。

 美咲を守ることができるなら、どんなことをしてもいい。あの凄惨な暴行を、再び受けてもいい。もう一度殺されてもいい。美咲の代わりに殺人犯になってもいい。

 もし洋平に体があったなら、土下座し、泣きながら懇願こんがんしただろう。血が出るほど地面に額を擦り付け、頼み続けただろう。

 どうか、美咲を幸せにしてください。美咲から、明るい未来を奪わないでください。美咲を不幸にしないでください。

 実際に、洋平は、周囲で動き回る警察関係者達に訴え続けた。叫び続けた。1人1人に、必死に伝えようとした。

 もちろん、洋平の声は誰にも届かない。誰一人として、洋平の声には耳を傾けない。傾けられない。

 絶望の暗闇が、洋平を覆ってゆく。もう何も見えないはずの洋平に、自分を包む闇がはっきりと見えた。雲が太陽を隠すように、希望が消えてゆく。

 警察署内での一つの報告が、洋平の希望を完全に消し去った。

 それは、七瀬の検死結果だった。
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