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エピローグ~ghostly love~
しおりを挟む美咲が泣いている。呼吸困難になるほど嗚咽を漏らしながら。両目から、溢れるほど涙を流しながら。
それは、洋平が知る限り、もっとも感情を露わにした美咲だった。言葉よりも、作られた表情よりも、はるかに彼女の感情を物語っていた。
「ごめんね、洋平。ごめんね」
美咲の懺悔は、言葉になっていなかった。唇の動きだけで、ごめんねと繰り返していた。
「洋平。洋平。洋平。洋平」
唇の動きだけで、洋平を呼び続けていた。
洋平は、美咲の側で語りかけた。
「謝るのは俺の方だ。ごめんな、美咲」
いなくなってごめん。幸せにできなくてごめん。一緒にいられなくてごめん。止められなくてごめん。
美咲に触れたかった。指で優しく、彼女の涙を拭いたかった。包み込むように抱き締めたかった。耳元で語りかけたかった。一緒に泣きたかった。慰め合いたかった。
自分達の手からこぼれ落ちた幸せを、一緒に見送りたかった。
けれど、今の洋平には何もできない。
美咲は殺人犯として、これから裁判を受ける。罪に問われ、罰を受ける。長い長い時間が始まる。
幸せなど感じられるはずのない、長い時間。
それでも、洋平の願いは揺るがない。
美咲には、幸せになって欲しい。幸せになるべきだ。幸せにならなきゃ駄目だ。
美咲の人生がこれからどうなってゆくのかは、分からない。全てが終わった後、洋平とは別の男を好きになり、その男と生きてゆくのか。独りだけで生涯を終えるのか。
これから先、美咲に何が起こり、何が待ち構え、誰と出会い、誰と時間を共にし、どのように生きてゆくのか。
まだ、何も分からない。
でも、美咲は生きている。
もう、洋平は、美咲を守ることができない。美咲と共に幸せになることも、一緒に笑うことも、一緒に泣くことも。
失ってしまった、ひとつの幸せのかたち。
二度と戻らない、洋平が夢見た未来。
美咲の人生に洋平が交わることは、二度とない。
それでも、美咲を見守り続けたい。彼女の幸せを祈りながら。美咲は幸せになると、信じながら。ずっと。ずっと。
今の自分の状態がいつまで続くのか。それは、洋平自身にも分からない。死ぬのは初めてだから、これからどうなるのか、想像もつかない。
想像もつかないが、最後のときが来るまでは美咲を見守り続ける。
もし、美咲が洋平以外の男を好きになり、結ばれたなら。間違いなく嫉妬するだろう。苦しいだろう。辛いだろう。悲しいだろう。
それでも。どれほど胸が締め付けられたとしても、確かめたい。美咲の未来を。美咲の幸せを。
たとえ美咲がどのように生き、誰を好きになっても、洋平の気持ちが変わることはないのだから。
美咲の側で。彼女の耳元で。
あるはずのない洋平の唇が、美咲への気持ちを告げた。
ガラス越しの小さな声のように、決して届かない言葉を。
(終)
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完結までお付合いいただき、ありがとうございますm(_ _)m
本編はこれで終わりですが、この後、明日と明後日に、おまけを投稿したいと思います。
そちらもお付合いいただけますと幸いですm(_ _)m
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