囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第2話

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 ルイゼン国の王──カイゼルは、目的地である隣国フェルカリアに向かう馬車の中で、側近のイリエントから国情について詳しく説明を受けていた。


「フェルカリアは、古い宗教と医療体系で知られています。特に医療に関しては、右に出る国はありません」
「それは我が国にとって、最も欲しいものだ。──兵士や、疫病で苦しむ民が、救われるかもしれん」


 イリエントは頷き、声を潜める。


「ええ。……聞くところによれば、どんな病も怪我も癒す万能薬が存在するのだとか」


 カイゼルはふっと鼻を鳴らした。


「そんなものが実在するなら、まるで御伽噺だな」
「ですが、先の戦でも負傷者がほとんど出なかったようです」
「……その万能薬のおかげというわけか?」
「私はそう見ています。──噂では、それは特別な卵だと」


 カイゼルの眉が動く。


「卵、だと?」


 しかしイリエントは、それ以上の情報は得られていないと首を振る。


「箝口令が敷かれているようです。卵という情報すら、先に忍ばせていた者が密かに掴んだものです」
「なるほど」


 ──いつの間にそんな手を打ったのか。

 カイゼルはイリエントの手腕に舌を巻きつつ、口には出さない。
 褒めればすぐ調子に乗る、わかりやすい男だ。


「まもなく到着します。フェルカリアの王には、二人のご子息が。皇太子ルーヴェン殿下と、王子ノアリス殿下です」
「そうか」
「皇太子の方は、次期国王として政務にも積極的だとか。王子については、情報がほとんどありません。ご年齢が十八くらいということしか……」
「……何か、訳アリか」
「そこまでは……」

 

 そうしてフェルカリアに到着し、城下を通りながら歓迎を受ける。
 城の門をくぐり、馬車から降りたカイゼルは、ふと塀の向こうに目をやった。


「──あの人は?」
「はい?」


 揺れる金色の髪。
 哀しみの色に染まる、伏せられたスカイブルーの瞳。

 気になったその姿に、視線を留めた瞬間──


「ようこそおいで下さいました」


 声がかかり、カイゼルは前を向いた。


「私はフェルカリアの宰相、サハルと申します。フェルカリアは、ルイゼン国王カイゼル陛下のご訪問を歓迎いたします」
「……ああ。よろしく頼む」


 定型の挨拶を交わした後、もう一度視線を戻したが、あの人物の姿はもうどこにもなかった。


「陛下?」
「……あそこに、人がいた」
「人……? 誰もおりませぬが」
「……」


 確かに、いた。

 今にも消えてしまいそうだった、その金の影が。
 カイゼルの胸に、不思議な余韻を残したまま、謁見の間へと導かれていった。


 広間に通されると、まず目に入ったのは玉座に座るフェルカリアの国王だった。
 その隣には、凛とした雰囲気を纏った青年が控えている。


「ようこそ。遠方よりのご足労、感謝いたします」


 王の低く重厚な声が響き、カイゼルは礼を返す。


「貴国の温かい迎えに、礼を。ルイゼン国王、カイゼル・ヴァルゼインです」


 続いて、王の横に控えていた青年が一歩前に出た。


「ルーヴェンと申します。父に代わり、政を担っております。陛下とお会いできたこと、光栄に存じます」


 確かに、よく整った顔立ちに気品ある物腰。
 これがフェルカリアの皇太子、ルーヴェン。

 しかし──

 先ほど、あの塀の向こうで見た、金の髪を持つ青年の姿が脳裏に過る。
 ……やはり、あれは王子だったのでは?
 自然な流れで問いかける。


「ところで、──貴国には、もう一人王子殿下がいらっしゃるとか。お姿は?」


 その問いに、一瞬、空気が止まったような感覚があった。
 宰相が、王の目を盗むようにちらと視線を送る。
 応えたのは、王本人ではなく、ルーヴェンだった。


「……弟は、体調を崩しており、療養中です。残念ながら、こうした場に出ることは難しいのです」
「そうですか」


 口元に笑みを浮かべながらも、カイゼルの中で何かが引っかかったままだった。
 あの儚げな佇まい。
 風に揺れていた、白金の髪。

 そして、何より──あの瞳は、生きることを諦めかけた者の目だった。

 療養。
 本当に、それだけなのか。

 

 視線を戻し、礼儀正しく話を進める。
 同盟に関する話し合いは始まったばかり。だが、カイゼルの心は、別のところに囚われていた。

 ──ノアリスという名の王子に。



「──つきましては、同盟を結びたいという貴国の意見を、お聞き願えますか」


 イリエントの発言に、ようやく話し合いに意識を戻したカイゼルは、皇太子が口を開いたのを静かに聞いた。


「私共の国は、医療ではきっと、どの国にも負けないでしょう。しかしながら、武力ではどうも。そこで、貴国と同盟を結びたいと考えた次第です」
「……我が国へのメリットは?」
「ええ。医療の知識と、その技術を」
「なるほど」


 カイゼルは暫く悩み、そうしてイリエントに目配せした。


「それは私共としても大変有難いご提案です。──ところで、噂を耳にしました。どんな病気やケガにも効く、万能薬があると」
「……」


 イリエントの言葉に、皇太子の表情が一瞬固まったのを、カイゼルは見逃さなかった。


「その万能薬を、譲ってはいただけませぬか?」
「──できません。あれは、国家の秘宝ですので」


 カイゼルの眉がわずかに動く。隣でイリエントも顔を曇らせた。
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