囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第3話

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 カイゼルは僅かに首を傾ける。

「なにも、全てを譲ってくれと頼んでいるわけではない。命には、命を──それが国家の取引というものだ。そちらが差し出すのは知識。我らが差し出すのは、血と兵。……果たして、釣り合っていると言えるか?」
「……」
「なんだったか……その万能薬は、卵だったかな」
「っ!」


 こちらは情報を持っている。
 そんな牽制の言葉に、皇太子は……まるで、何かを押し殺すように、ぐっと一度強く目を閉じた。


「その卵を、分けてくれ」
「──できません。どうか、それだけは、お許しを」
「……話にならないな」


 カイゼルは興味をなくしたように視線を逸らす。
 そんなカイゼルにイリエントは苦笑し、代わりに交渉に入る。


「我々は、本日から一ヶ月程の滞在を予定しています。その間に、お考え下さい」
「……」
「我が王は、なかなか頑固ですよ」
「──おい、イリエント」
「ははは。冗談です。……とはいえ、王は本気で欲しておられますよ?」


 イリエントを一瞥したカイゼルは、そこで『はて?』と疑問が頭に浮かんだ。


「王子は、療養中とのことだったが」
「ええ。左様です」
「その万能薬は? 王子には効かないのか?」
「……」


 踏み込んではいけない部分だったのか。
 皇太子の表情があからさまに焦った者のそれになっている。


「──それとも、嘘か?」
「っ……それは……」

 皇太子は口を開きかけて、しかし、言葉が出てこないのか黙ってしまう。

 空気がピリッと鋭くなる。
 カイゼルは机に肘を立てた。
 すっかり失せたはずの興味が、またゆっくりと蘇る。
 カイゼルは、まるで獲物を値踏みするように、鋭く細めた三日月の目で皇太子を見つめた。


「……嘘では、ございません」
「では、なんだ」
「……」


 口を噤んでしまった皇太子をもう少し詰めてやろうかと思ったところで、フェルカリアの王が咳払いをした。
 空気が途切れ、皇太子はあからさまにホッとした様子を見せる。


「我々も少し時間をいただきたい。貴国らの犠牲に釣り合うものを、考えようでは無いか」
「……ええ。そのように、お願いする」


 無理矢理切られてしまった。
 あと一手で、切り崩せたかもしれなかったのに──


 カイゼルは静かに笑みを浮かべ、会釈する。
表情は穏やかに、本心はすでに冷え切って──初日の会談は、これにて幕を閉じた。


 用意された客間で、カイゼルはイリエントと考えていた。
 それはもちろん、同盟のことでだ。


「万能薬を渡さずして、この会談が上手くいくと思っているのか」
「我々が何も知らないと思っていたのでしょう」
「……王子の事も気になる。──おそらく、俺が見たのはノアリス王子だ」
「ああ……門のすぐ側で見たという……?」


 渡せない万能薬──卵
 療養中だと言って会うことの叶わない王子

 もしかすると、卵の秘密は王子にあるのでは……?


 カイゼルはじっとイリエントを見つめた。


「何でしょうか。そのように見つめられては流石の私も怖くなってしまいます」
「……王子について調べろ」
「は? 何故、そこまで王子にこだわるのですか」
「──あの王子が、卵の正体そのものだとしたら?」
「! ……ですが、それは……見つかってしまっては、同盟の話は全て流れてしまうかもしれませんよ……?」


 イリエントの言葉に、カイゼルは眉を寄せる。


「──それがどうした。ならば、こちらも手段を選ばぬまでだ」
「と、いいますと……?」
「この国に攻め込むだけよ。武力では我らの方が上。戦に勝てばこの国も俺のものになる」
「……もう、何を言っても聞く気はなさそうですね」


 少し呆れた様子の側近は、それでも「わかりました」と言い、静かに部屋を出ていった。


 カイゼルはあの金の姿を思い浮かべる。
 とても悲しそうだった。
 何もかもを諦めているように見えた。

 もしも──本当にあの青年が王子だとしたら。


「……王子が、あのような表情をしていては、国の未来が危ういな」


 逃げ出したいような、それでいて逃げられないような。
 
 それならば、手を貸してやろう。
 そう思えるほどに、儚い存在のように見えた。

 しかし、たしかに。
 イリエントの言うように、どうしてここまで王子にこだわるのかはわからなかった。
 万能薬──卵の存在は気になるのだが、それよりも頭に浮かぶのはあの青年なのだ。


「……あそこ行けば、会えるのか……?」


 一度彼を見たあの場所。
 思い立ったら即行動を地で行くカイゼルは、客間から出ると躊躇うことなく、あの場所──庭に向かった。
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