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第一章
第4話
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カイゼルは庭に訪れていた。
日も暮れ、灯された頼りない火の光が影を揺らしている。
美しい草木にホッとどこか心が安らいでいく。
ここで、あの青年は何をしていたのだろうか。
カイゼルは彼を想像しながら、庭を歩き、ふと顔を上げた。
城は高くそびえ立っている。
豪華な作りは、国の象徴と言えよう。
そんな象徴のすぐそばで、孤立したような塔があった。
あそこは、何だろうか。
塔は無骨な石で造られており、窓らしいものも見えない。
ただ、最上部にだけ、小さな格子が見えた。
監視する為のものであるならば、いささか背が低い気がする。
ジーッと眺めながら考えていたのだが、しかし思い浮かばない。
「そこの者、あの塔には何がある」
カイゼルについて歩いていたフェルカリアの女官は、小さく肩を跳ねさせた後、静かに頭を下げた。
「あちらはただの物置となっております」
「……塔が、ただの物置?」
「はい。その通りでございます」
「それは、おかしい」
カイゼルは女官に近づき、じっと見下ろした。
「宗教目的や、展望の為、それから……水を汲んでいるなどの理由ならわかる。もしくは『わからない』であれば見逃してやっただろうな」
「……」
「ただの物置の為に、塔があると思うのか? それに俺が納得すると思うか?」
女官は小さく震えている。
カイゼルは至極真っ当なことを言っているつもりで、脅かしているわけではないのだが、その高い身長と言葉の威圧感が大きく、女官は『殺されるかもしれない』と顔を青くしていた。
「──カイゼル陛下! もう! ここにいた!」
重たい空気が晴れる。
イリエントが疲れた顔をして駆けてきていた。
「ああ、イリエント」
「勝手に出歩かないでくださいよ。探しましたよ」
「良かったな。見つかって」
「……何をしているのです。女官の顔が真っ青ですよ」
「さあ。おかしなことを言うので、おかしいと指摘しただけだ」
「可哀想に……。もう、下がってなさい」
女官は心の底から安堵してササッと下がって行った。
庭には、カイゼルとイリエントのふたりだけになる。
「──それで、何がおかしいのです?」
「あの塔だ。監視をするには低すぎる。だからあれは何だと聞いた」
「……なんと答えたのですか」
「物置だと。ハッ、笑わせる」
カイゼルは無表情で塔を見上げた。
その横顔を眺めるイリエントは、小さな声で呟く。
「王子の住まいだそうです」
「──は?」
「あそこに、囚われているとのこと」
イリエントは静かに目を伏せる。
あのような、決して広くはないであろう塔に、王子が──?
「月に一度だけ、出ることを許されているとか。本日陛下がお姿を見たのなら、次はちょうど一ヶ月後になりそうですね」
「……」
だからか、と思った。
だから、逃げ出したいのかと。
囚われて、自由のない王子など──見過ごせるはずがない。
「もっと、詳しく調べさせろ。食事のこともだ。外から持ってくるのか、中で調理をしているのか……。女官の出入りはあるのか、全て、徹底的にだ」
「ど、どうされたのです。まさかではありますが……侵入するおつもりで……!?」
カイゼルはニッと笑う。
塔に囚われている王子を救うだなんて、それこそ御伽噺のようだ。
「ああ。アレを取引材料にしよう」
「アレ……?」
「王子だ。王子を、我が国に連れ帰る」
「なっ──!」
驚くイリエントを、カイゼルは笑顔のまま見下ろした。
「万能薬とは関係ないのなら、構わないだろう。よくある話だ。政略結婚なんて」
「結婚!?」
「なんだ。結婚して何が悪い。美しい王子だった」
「いや、王子ですよ? 王子ということは、男です! 世継ぎはいかがなさるつもりで……!?」
「どうとでもなる」
「へ、陛下ぁ……」
ヘナヘナと力なくカイゼルの足に縋るように座り込んだイリエントだが、しかし、カイゼルは心に決めてしまった。
「名前は、なんというんだったか」
「うぅ……ノアリス様です……」
「ノアリスか。神秘的な名前だな」
「ええ、そうですね。ですが、男です」
「執拗いぞ。俺が欲しいと思ったものに、性別は関係ない」
カイゼルは塔を見上げた。
あの美しい王子を、どうやってあそこから連れ出そうか。
「いつから、あの塔にいるのだろうな。幼い頃からならまだしも、外の楽しさを知った後に囚われたのなら、それは……俺には考えられないほど、苦しいはずだ」
「……それも、調べておきます」
「ああ。……可哀想にな」
必ず、あの悲しげで諦めた表情を希望に溢れるものにしてやろう。
カイゼルはそう決意し、踵を返し客間に戻った。
日も暮れ、灯された頼りない火の光が影を揺らしている。
美しい草木にホッとどこか心が安らいでいく。
ここで、あの青年は何をしていたのだろうか。
カイゼルは彼を想像しながら、庭を歩き、ふと顔を上げた。
城は高くそびえ立っている。
豪華な作りは、国の象徴と言えよう。
そんな象徴のすぐそばで、孤立したような塔があった。
あそこは、何だろうか。
塔は無骨な石で造られており、窓らしいものも見えない。
ただ、最上部にだけ、小さな格子が見えた。
監視する為のものであるならば、いささか背が低い気がする。
ジーッと眺めながら考えていたのだが、しかし思い浮かばない。
「そこの者、あの塔には何がある」
カイゼルについて歩いていたフェルカリアの女官は、小さく肩を跳ねさせた後、静かに頭を下げた。
「あちらはただの物置となっております」
「……塔が、ただの物置?」
「はい。その通りでございます」
「それは、おかしい」
カイゼルは女官に近づき、じっと見下ろした。
「宗教目的や、展望の為、それから……水を汲んでいるなどの理由ならわかる。もしくは『わからない』であれば見逃してやっただろうな」
「……」
「ただの物置の為に、塔があると思うのか? それに俺が納得すると思うか?」
女官は小さく震えている。
カイゼルは至極真っ当なことを言っているつもりで、脅かしているわけではないのだが、その高い身長と言葉の威圧感が大きく、女官は『殺されるかもしれない』と顔を青くしていた。
「──カイゼル陛下! もう! ここにいた!」
重たい空気が晴れる。
イリエントが疲れた顔をして駆けてきていた。
「ああ、イリエント」
「勝手に出歩かないでくださいよ。探しましたよ」
「良かったな。見つかって」
「……何をしているのです。女官の顔が真っ青ですよ」
「さあ。おかしなことを言うので、おかしいと指摘しただけだ」
「可哀想に……。もう、下がってなさい」
女官は心の底から安堵してササッと下がって行った。
庭には、カイゼルとイリエントのふたりだけになる。
「──それで、何がおかしいのです?」
「あの塔だ。監視をするには低すぎる。だからあれは何だと聞いた」
「……なんと答えたのですか」
「物置だと。ハッ、笑わせる」
カイゼルは無表情で塔を見上げた。
その横顔を眺めるイリエントは、小さな声で呟く。
「王子の住まいだそうです」
「──は?」
「あそこに、囚われているとのこと」
イリエントは静かに目を伏せる。
あのような、決して広くはないであろう塔に、王子が──?
「月に一度だけ、出ることを許されているとか。本日陛下がお姿を見たのなら、次はちょうど一ヶ月後になりそうですね」
「……」
だからか、と思った。
だから、逃げ出したいのかと。
囚われて、自由のない王子など──見過ごせるはずがない。
「もっと、詳しく調べさせろ。食事のこともだ。外から持ってくるのか、中で調理をしているのか……。女官の出入りはあるのか、全て、徹底的にだ」
「ど、どうされたのです。まさかではありますが……侵入するおつもりで……!?」
カイゼルはニッと笑う。
塔に囚われている王子を救うだなんて、それこそ御伽噺のようだ。
「ああ。アレを取引材料にしよう」
「アレ……?」
「王子だ。王子を、我が国に連れ帰る」
「なっ──!」
驚くイリエントを、カイゼルは笑顔のまま見下ろした。
「万能薬とは関係ないのなら、構わないだろう。よくある話だ。政略結婚なんて」
「結婚!?」
「なんだ。結婚して何が悪い。美しい王子だった」
「いや、王子ですよ? 王子ということは、男です! 世継ぎはいかがなさるつもりで……!?」
「どうとでもなる」
「へ、陛下ぁ……」
ヘナヘナと力なくカイゼルの足に縋るように座り込んだイリエントだが、しかし、カイゼルは心に決めてしまった。
「名前は、なんというんだったか」
「うぅ……ノアリス様です……」
「ノアリスか。神秘的な名前だな」
「ええ、そうですね。ですが、男です」
「執拗いぞ。俺が欲しいと思ったものに、性別は関係ない」
カイゼルは塔を見上げた。
あの美しい王子を、どうやってあそこから連れ出そうか。
「いつから、あの塔にいるのだろうな。幼い頃からならまだしも、外の楽しさを知った後に囚われたのなら、それは……俺には考えられないほど、苦しいはずだ」
「……それも、調べておきます」
「ああ。……可哀想にな」
必ず、あの悲しげで諦めた表情を希望に溢れるものにしてやろう。
カイゼルはそう決意し、踵を返し客間に戻った。
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