囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第6話

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「──陛下の予想通りでした」
「ほぉ」


 イリエントに情報収集を命令した翌朝のこと。
 早速忍ばせていた者から返事があったようだ。


「まず、あの塔には王子が囚われています。それも、四年前からのことです」
「……十四の頃からか」
「はい。詳細は伏せられていますが、その年に城内で大きな事件があった形跡があるとのことです。同年に王妃陛下もお亡くなりになられておりました」


 カイゼルは紅茶を口にしながら、事件の時系列を静かに頭の中で組み立てていた。


「毎日、朝昼晩と食事は城の調理場から運ばれるそうです。湯浴みは七日間に一度。塔の見張りは、階段を昇った先にある王子の監禁された部屋の前に二人」
「女官が出入りする時間は」
「はい。朝昼は出入りが多いようですが、夜は食事を届けたあとは無いようです。夜の食器は朝に回収するとか」


 カイゼルは眉間に深い皺を寄せ、唇の端をぐっと噛んだ。
 それは彼にしては珍しい、感情の揺れだ。
 続く報告も、カイゼルを苛立たせる物にしかならず、ある程度話を聞くと、静かに手を挙げて止める。


「俺があそこに入り込める時はいつだ」
「はい。夜、食事が運ばれたあとが最も警備が薄くなります。見張りは二人。当日当番の物の食事に、眠り薬でも混ぜれば、見張りの途中で眠ってくれるでしょう」
「……簡単に混ぜられるのか? それに、扉の鍵はどうする? おそらく、かけられているだろう。それも、内側からでは開けられないものが」


 指摘すれば、イリエントはニィッと笑う。
 嫌な笑みに、カイゼルは口元を引き攣らせた。


「眠り薬を混ぜることなど簡単です。すぐに指示を出し、そのように致しましょう。鍵はおそらく、見張り番が持っているはず。眠ったところを拝借すれば問題ありません」
「……」
「褒めてもいいのですよ」
「褒めるなら、お前の命令を聞き、全てを無事に遂行している者を褒めよう」
「なぜ!?」
「お前はすぐに調子に乗るから」


 あからさまに『納得できない』といった表情をするイリエントを、鼻で笑う。

 実行は、今日の夜。

 ──また、あの金の姿を見られる。
 

 カイゼルはこの後に控えている会談のことを忘れ、ノアリスに会えることだけを楽しみに、再びカップを傾けた。






 会談は相変わらず停滞していた。
 昨日は居た王はおらず、代わりに宰相サハルが皇太子と共に着席している。


「何度も伝えているが、こちらは貴国が差し出すものが、対価として遜色なければすぐに受け入れると言っているだろう」
「……ですから、」
「医療の知識と技術? ──そんなもの、提供するのは当たり前だ。我らが差し出すものの足元にすら及ばん」


 肘掛けを指先でコンコンと叩く。
 いつまでこの下らない言い合いをしなければならないのか。
 

「万能薬など、ございません」
「はは、そう来たか。そんな浅ましい嘘で俺を欺けるとでも?」
「……」
「これは、遊びではない。──国の命運をかけた取引だ。もっと慎重に言葉を選ぶことだな」


 カイゼルは苦笑するイリエントを盗み見て、「ああ、そうだ」と思いついたかのように口を開けた。


「万能薬が嫌だと言うのなら、ノアリス王子を我が国に迎えよう」
「なっ──」


 皇太子は息を飲み、そして深く息を吐く。


「ノアリスは療養中です。とても、外には出れますまい」
「だが、時の気分転換は必要だろう。それに、今直ぐにとは言わない。もちろん、回復するのを待つさ。そして、我が国に連れていく」
「な、ぜ……? 貴国に連れ帰るメリットなど、ひとつもないでしょう」
「いや、ある。──噂ではさぞ美しい王子だと聞いた。俺は美しいものが好きだ。連れ帰り、妻として迎えよう」


 にっと口角を上げたカイゼルに、皇太子は絶句した。


「……ノアリスは、男だ」
「ああ。しかし、関係あるまい。俺にとって性別はどうでも良い」


 これにはイリエントも小さく溜息を吐いているが、しかし、カイゼルの考えは変わらない。


「そなたらは武力が欲しい。俺は万能薬か王子が欲しい。二つに一つだ。選べ」
「っ」


 皇太子は苦虫を噛み潰したように顔を歪め、サハルに関しては静かに俯き、何を言うこともない。
 

 ──一手、優位には立った。だが、まだ気は抜けない。


 平和に解決したい問題だが、まだ気を弛めることはできそうにない。
 皇太子の目が、鋭くカイゼルを睨みつけていた。




 本日の会談を終え、イリエントと話すのは今夜のこと。

「見張り番の人間も見つけました。眠り薬は確実に飲ませます。ですが、念の為、護衛を二人つけてください」
「わかった」
「護衛には、扉の前で待機させます。何かあったら、すぐに知らせるように」


 カイゼルは頷き、イリエントの名前を呼んだ。


「今日は、会うだけだ。会って、話をする」
「ええ。連れ去ってくるとは思っていませんが、そのような事があれば私は辞職します」
「はは。潔がいいな」
「浅はかな王について行く臣下は居ないでしょ」
「よかったな。浅はかな王ではなくて」


 イリエントはあからさまに口をへの字に曲げているが、カイゼルはそんなもの気にもかけない。
 ただ、あの金の姿が見たい。
 

「そこまで長い時間は、あの塔に居られないと思いますよ」
「だろうな。少しでも違和感を感じられたら次はないだろうし。その点で言えば眠り薬も危ういが」
「人間ですよ? 眠らない人間はいないでしょう」
「二人同時に眠くなって寝ちまうような見張り番がもしも居たなら、俺はそいつらをクビにするね」
「仕方ないでしょう。薬を盛られることに対して、彼らに落ち度は無い」
「薬を盛られてることに気づかないことが問題だ」


 何の感情も乗っていない表情に、イリエントは苦笑する。
 

「その時がきたら、お知らせします」
「ああ。俺はこれから王子と会って何を話すか考える」
「え、考えてなかったんですか」
「? ああ。結婚の話を持ち出すか」
「いきなりですか? ……きっと引かれますよ」
「ああ、俺に惹かれるだろうな」
「そのひかれるではありませんが……」


 苦笑をこぼすしかないイリエントだが、何を言ったとて、自身の王は一度決めたことを変えることはしない。


「どうか、王子様を傷つけるようなことはなさらないように」
「そんなことするわけがないだろう。俺の妻になる人間を傷つけてどうする」
「……」
「なんだその顔」
「あ、いえ。失礼しました」


 カイゼルは顔を逸らした側近にそれ以上何を言うこともなかった。

 今夜のことで、心が踊っている。
 

「会えるのが、楽しみだ」
 

 そう呟いた唇には、笑みが浮かべられていた。
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