囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

文字の大きさ
14 / 40
第一章

第14話

しおりを挟む



 ノアリスの受け渡しの日。
 カイゼルはいつも以上に無表情のまま、皇太子の前にいた。
 彼はどこか機嫌が良く見える。


「王子と面会の約束を、守らなかったな」
「王子が体調を崩しましたので、仕方なく。ご容赦ください」


 堂々と、嘘をつきやがって。
 カイゼルは苛立ちを隠すことをしない。
 代わりにイリエントが柔らかい笑顔を見せた。


「それで、王子は?」
「はい。間もなく来ます」


 そうしてしばらくすると、車椅子に乗せられた状態のノアリスが現れた。
 腹の膨らみは無くなり、そして──表情も失っている。


「っ……、王子は、かなり憔悴しているように見えるが」
「ええ。ですから、体調を崩しておりましたので」


 目の前まで押し出されたノアリスの前に、カイゼルはそっと膝を折り目線を合わせた。


「ノアリス、私が見えるか?」
「……カイゼル、陛下」
「そなたを、我が国に連れて行く。そなたの安全は保証する。安心してくれ」
「……はい」


 力のない返事に心が痛む。
 少し前までは、まだ、気力があったように思えたのに。

 
「──我らフェルカリアとルイゼン国とは固い絆で結ばれる。お互い、手を取り合って、歩んでいきましょう」
「……ああ」


 低い返事だった。
 心のこもっていないそれ。
 目線は相変わらずノアリスだけに向いている。
 ノアリスの瞳には何も写っていなかった。






 これ以上、フェルカリアに留まっておく必要も無い。
 カイゼルはすぐにイリエントへ国に帰ることを伝えた。
 イリエントはカイゼルがそう言い出すことも、およそノアリスの体調は万全でないこともわかっていたので、大きな馬車を手配し、中には柔らかいベッドが置いてある仕様に作り替えた。
 それもたった三日の出来事である。


 カイゼルはフェルカリアの王と皇太子に形だけの礼を述べると、ノアリスの乗る車椅子を押して馬車の近くに移動する。


「ノアリス、運ぶぞ」
「……はい」


 そして車椅子からそっと抱き上げ、馬車に乗り込んだ。
 ベッドにそっと小さな体を降ろす。
 

「辛いだろう。横になって、休んでいてくれ」
「……はい」
「二日ほどはここで過ごすことになる。何かあれば遠慮なく言ってくれて構わない」
「ありがとう、ございます」


 ノアリスの長いまつ毛が揺れる。下半身に違和感があるのか、横になる時の動きがぎこちない。
 
 カイゼルは感じていた罪悪感が育っていくのを感じ、震える手で寝転んだノアリスの体に掛布を掛けた。
 

 近くにいては、ゆっくり休めないだろうと思い、カイゼルは馬車の中、しかしベッドからなるべく離れた場所でイリエントと声を潜めて会話をする。


「酷い憔悴の仕方ですね。一国の王子であられるのに……」
「……これ以上弱ってほしくない。環境が変わり回復に向かえばいいのだが」
「ええ。従者はどういたしましょう。ご希望あればその通りに揃えるようにします」


 チラリとベッドの方に視線を向ける。
 寝転んでからというもの、一度も体勢を変えないノアリスの様子に、寝がりを打つのも体に響くのだろうかと心配になる。


「希望を聞いておこう。集まるまではしばらく俺が傍にいることにする」
「……余計怖がられませんか?」
「あ?」
「あ、いえ。陛下のお顔はどちらかと言うと恐ろしいので」
「相変わらずいい度胸をしているな」
「お褒めいただき光栄です」


 ニッコリ微笑むイリエントに、ハッと鼻で笑ったカイゼルは、不意に立ち上がりノアリスの傍による。
 彼は眠ることなく、ぼんやり目を開けて天井を見ていた。


「ノアリス」
「はい……」
「眠れないか」
「……落ち着かなくて」
「そうだろうな。何か、飲むか?」
「……」
「それとも、小腹がすいているなら、果物でも用意させるが」
「……」


 視線は絡むが、何を言うこともない。
 それは、求めているのかそうでないのかも分からない、何の気持ちも宿っていないのだ。
 イリエントは静かに、二人の様子を眺める。


「少し、手に触れてもいいか?」
「……手?」
「ああ」


 おずおずと、頷いた彼。
 カイゼルはそれを確認して、白魚のような手にそっと触れた。
 寒くは無いはずなのに、ひんやりと冷えきっているその手は、しかし、カイゼルが触れることでじんわりと熱が移っていく。


「俺にこうして触れられることは、怖くないか?」
「……はい。あたたかいと、思います」


 カイゼルはふっと口元に笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...