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第二章
第35話
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ノアリスの部屋の前に立ったカイゼルは、しばし拳を握り締めたまま動けずにいた。
何度も言葉を整えては、結局声に出せない。
重苦しい沈黙の中で、ただ扉を見つめて立ち尽くす。
その時だった。
「ワンっ!」
甲高い鳴き声が中から響き、すぐに扉をカリカリと引っ掻く音が続く。
思わず苦笑が漏れる。
──ロルフに気づかれたか。
ならば、もう迷っているわけにもいかない。
カイゼルは息を吐き、ようやく拳を下ろして扉をノックした。
「は、はい……」
おそるおそる返ってきた声に、カイゼルは低く名を告げる。
「ノアリス、俺だ。カイゼルだ」
「カイゼル様……!」
安堵とも驚きともつかぬ響きが返ってきて、扉を開ける。
そこには、ソファから慌てて立ち上がり、半端な姿勢のまま固まっているノアリスの姿があった。
「か、カイゼル様……何か……?」
「ああ、少し話がある」
「お話……? ……何か、あったのですか……?」
透き通るような蒼い瞳に怯えの影が走る。
カイゼルはほんの一瞬だけ迷いを飲み込み、静かに歩みを進めた。
「聞きたくないことだと思うが……どうか聞いてほしい」
「……はい」
彼の正面に腰を下ろすと、ノアリスは膝の上に手を置いたまま、俯いて小さく震えていた。
「戦が、始まるかもしれない」
「え……」
見る間に顔色が失われる。
喉を詰まらせるように息を乱し、胸元を押さえて必死に呼吸を整えようとする。
「ノアリス!」
慌てて隣に移動し背を支え、その細い肩を包むように撫でた。
「大丈夫だ。俺はそなたに何一つ酷いことはしない。誰にもさせない。痛いことも、苦しいこともない」
「っ、ふ……」
「俺は……本当は戦場に出るつもりだった。だが……もし俺に何かがあれば、そなたがフェルカリアに連れ戻されるかもしれない。そんなことは絶対にさせない。だから出ないことに決めた。俺はここにいる。ずっと、そばにいる」
震える身体。
その奥に過去の記憶が潜んでいるのだろう。痛みに縛られたように、彼は言葉もなく息を詰めていた。
「ノアリス、俺を見ろ」
「ぁ……か、カイゼル様……っ」
「大丈夫だ。嫌がるそなたに触れようとするやつは、俺がすべて排除する。……だから、俺を信じて、ゆっくり息を吸うんだ」
コクコクと頷いたノアリスは、目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返す。
そうして荒い吐息が小さくなり、怯えで曇っていた蒼い瞳が、ゆっくりと彼を映した。
「……カイゼル様」
「ああ」
その視線を正面から受け止め、カイゼルは力強く頷いた。
「たとえ戦が始まろうとも、そなたを巻き込ませはしない」
「……ほんとう、ですか」
「誓う。俺の命にかけて」
かすかな安堵がノアリスの顔に浮かんだ。
それはまだ脆く頼りないものではあるが、しかし先程よりは随分顔色もマシになった。
何度も言葉を整えては、結局声に出せない。
重苦しい沈黙の中で、ただ扉を見つめて立ち尽くす。
その時だった。
「ワンっ!」
甲高い鳴き声が中から響き、すぐに扉をカリカリと引っ掻く音が続く。
思わず苦笑が漏れる。
──ロルフに気づかれたか。
ならば、もう迷っているわけにもいかない。
カイゼルは息を吐き、ようやく拳を下ろして扉をノックした。
「は、はい……」
おそるおそる返ってきた声に、カイゼルは低く名を告げる。
「ノアリス、俺だ。カイゼルだ」
「カイゼル様……!」
安堵とも驚きともつかぬ響きが返ってきて、扉を開ける。
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「か、カイゼル様……何か……?」
「ああ、少し話がある」
「お話……? ……何か、あったのですか……?」
透き通るような蒼い瞳に怯えの影が走る。
カイゼルはほんの一瞬だけ迷いを飲み込み、静かに歩みを進めた。
「聞きたくないことだと思うが……どうか聞いてほしい」
「……はい」
彼の正面に腰を下ろすと、ノアリスは膝の上に手を置いたまま、俯いて小さく震えていた。
「戦が、始まるかもしれない」
「え……」
見る間に顔色が失われる。
喉を詰まらせるように息を乱し、胸元を押さえて必死に呼吸を整えようとする。
「ノアリス!」
慌てて隣に移動し背を支え、その細い肩を包むように撫でた。
「大丈夫だ。俺はそなたに何一つ酷いことはしない。誰にもさせない。痛いことも、苦しいこともない」
「っ、ふ……」
「俺は……本当は戦場に出るつもりだった。だが……もし俺に何かがあれば、そなたがフェルカリアに連れ戻されるかもしれない。そんなことは絶対にさせない。だから出ないことに決めた。俺はここにいる。ずっと、そばにいる」
震える身体。
その奥に過去の記憶が潜んでいるのだろう。痛みに縛られたように、彼は言葉もなく息を詰めていた。
「ノアリス、俺を見ろ」
「ぁ……か、カイゼル様……っ」
「大丈夫だ。嫌がるそなたに触れようとするやつは、俺がすべて排除する。……だから、俺を信じて、ゆっくり息を吸うんだ」
コクコクと頷いたノアリスは、目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返す。
そうして荒い吐息が小さくなり、怯えで曇っていた蒼い瞳が、ゆっくりと彼を映した。
「……カイゼル様」
「ああ」
その視線を正面から受け止め、カイゼルは力強く頷いた。
「たとえ戦が始まろうとも、そなたを巻き込ませはしない」
「……ほんとう、ですか」
「誓う。俺の命にかけて」
かすかな安堵がノアリスの顔に浮かんだ。
それはまだ脆く頼りないものではあるが、しかし先程よりは随分顔色もマシになった。
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