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第二章
第37話
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◇
ノアリスとの会話を終え、カイゼルは少し余韻に浸りながらも、政務室へと向かった。
頭の片隅でまだノアリスの顔がちらつくが、目の前には待ったなしの書類と宰相イリエントの存在があった。
政務室に入ると、出会い頭にイリエントが口を開く。
「なんですか、その顔は」
「……俺は王だった気がするが。まずは挨拶をするのが礼儀ではなかったか」
「おっと、失礼しました。ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
にやりと笑うイリエントに、カイゼルは深いため息をつく。その表情の読みやすさに、イリエントは楽しげに目を細めた。
「……どうやら、余程顔に出ていたらしいな」
「ええ、とても。今のご様子では、政務の話など一切耳に入らなさそうです」
「……」
カイゼルは眉を寄せたまま沈黙した。反論しようにも、否定の言葉が喉で詰まる。
イリエントは書類を机に置き、そっと王に視線を戻した。
「まさか、ノアリス様と何か進展でも?」
「……進展、とは」
「はは、惚けても無駄ですよ。お部屋を出て行かれた時と、今とでは全く表情が違いますから」
カイゼルは小さく舌打ちした。だがイリエントのからかう視線を振り払えず、ほんの一瞬だけ視線が泳ぐ。
その様子で答えを悟ったイリエントは、満足げに口角を上げた。
「なるほど。上手く想いをお伝えできたのですね」
「……本当に余計なお喋りが過ぎるぞ、イリエント」
低く釘を刺す声には、どこか照れ隠しの響きも混ざっていた。
「しかし、大事なことでしょう。戦のこともお話されたのですよね? そのうえで、進展が?」
「……戦のことには酷く脅えていた。フェルカリアでのことを思い出したのだろう。俺が戦場に出ないと言うと、自分のせいだと責めていて、少し……怒ってしまった」
「あら。ノアリス様に甘い陛下が怒るとは」
「……ここにいない方がいいと言うから、つい」
イリエントが苦笑する。カイゼルは深く椅子に腰かけた。
心の中で、ノアリスの不安や涙がまだ残っていることを自覚しつつも、冷静を装う。
「ここにいてくれと頼んだ。どこにも行かないでくれと」
「……そうですか」
「好きだと、伝えた。……ノアリスはまだそういった感情に疎いようだから、少しずつ受け入れてほしいと」
「よかったですね。しかし、まだ世継ぎ問題は解決しておりません。本当に陛下の妻となり王妃として立つのであれば、子供は産めません。妾妃様方のもとに陛下が通うことは、理解してもらわねばなりませんよ」
浮かれる時間も与えることの無い宰相だ。
「わかっている。……その事で、お前に調べてほしいことがある」
「なんでしょう」
カイゼルはずっと気になっていた、ノアリスの卵についてのことを口にした。
「ノアリスの卵についてだ。フェルカリアは万能薬と言っていたが……、あれを作るには精を注ぐ必要がある」
「ええ、そうでしたね」
「精を注いで成すことのできる卵だ。それであるならば、普通、一時的に卵には命が宿るものだと思わないか」
「……」
イリエントの目に徐々に暗がりが広がる。
「……まさか、その卵に……?」
「わからない。ただの、俺の憶測に過ぎない」
「……もしも、その卵に──子供がいたのだとしたら、それは、あまりにも惨い」
「ああ。だからそうはあってほしくないが、」
「すぐに調べます」
鋭く目を細め、ひと礼をしたイリエントは執務室を出ていった。
カイゼルは一人、深い思考に沈む。
ノアリスとの時間の余韻を胸に抱えつつも、現実の問題に向き合うため、再び視線を机上に落とした。
ノアリスとの会話を終え、カイゼルは少し余韻に浸りながらも、政務室へと向かった。
頭の片隅でまだノアリスの顔がちらつくが、目の前には待ったなしの書類と宰相イリエントの存在があった。
政務室に入ると、出会い頭にイリエントが口を開く。
「なんですか、その顔は」
「……俺は王だった気がするが。まずは挨拶をするのが礼儀ではなかったか」
「おっと、失礼しました。ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
にやりと笑うイリエントに、カイゼルは深いため息をつく。その表情の読みやすさに、イリエントは楽しげに目を細めた。
「……どうやら、余程顔に出ていたらしいな」
「ええ、とても。今のご様子では、政務の話など一切耳に入らなさそうです」
「……」
カイゼルは眉を寄せたまま沈黙した。反論しようにも、否定の言葉が喉で詰まる。
イリエントは書類を机に置き、そっと王に視線を戻した。
「まさか、ノアリス様と何か進展でも?」
「……進展、とは」
「はは、惚けても無駄ですよ。お部屋を出て行かれた時と、今とでは全く表情が違いますから」
カイゼルは小さく舌打ちした。だがイリエントのからかう視線を振り払えず、ほんの一瞬だけ視線が泳ぐ。
その様子で答えを悟ったイリエントは、満足げに口角を上げた。
「なるほど。上手く想いをお伝えできたのですね」
「……本当に余計なお喋りが過ぎるぞ、イリエント」
低く釘を刺す声には、どこか照れ隠しの響きも混ざっていた。
「しかし、大事なことでしょう。戦のこともお話されたのですよね? そのうえで、進展が?」
「……戦のことには酷く脅えていた。フェルカリアでのことを思い出したのだろう。俺が戦場に出ないと言うと、自分のせいだと責めていて、少し……怒ってしまった」
「あら。ノアリス様に甘い陛下が怒るとは」
「……ここにいない方がいいと言うから、つい」
イリエントが苦笑する。カイゼルは深く椅子に腰かけた。
心の中で、ノアリスの不安や涙がまだ残っていることを自覚しつつも、冷静を装う。
「ここにいてくれと頼んだ。どこにも行かないでくれと」
「……そうですか」
「好きだと、伝えた。……ノアリスはまだそういった感情に疎いようだから、少しずつ受け入れてほしいと」
「よかったですね。しかし、まだ世継ぎ問題は解決しておりません。本当に陛下の妻となり王妃として立つのであれば、子供は産めません。妾妃様方のもとに陛下が通うことは、理解してもらわねばなりませんよ」
浮かれる時間も与えることの無い宰相だ。
「わかっている。……その事で、お前に調べてほしいことがある」
「なんでしょう」
カイゼルはずっと気になっていた、ノアリスの卵についてのことを口にした。
「ノアリスの卵についてだ。フェルカリアは万能薬と言っていたが……、あれを作るには精を注ぐ必要がある」
「ええ、そうでしたね」
「精を注いで成すことのできる卵だ。それであるならば、普通、一時的に卵には命が宿るものだと思わないか」
「……」
イリエントの目に徐々に暗がりが広がる。
「……まさか、その卵に……?」
「わからない。ただの、俺の憶測に過ぎない」
「……もしも、その卵に──子供がいたのだとしたら、それは、あまりにも惨い」
「ああ。だからそうはあってほしくないが、」
「すぐに調べます」
鋭く目を細め、ひと礼をしたイリエントは執務室を出ていった。
カイゼルは一人、深い思考に沈む。
ノアリスとの時間の余韻を胸に抱えつつも、現実の問題に向き合うため、再び視線を机上に落とした。
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