明日はきっと

ノガケ雛

文字の大きさ
12 / 55
第二章

第十二話

しおりを挟む
 腕の中には信じられないほど愛しい存在がいる。
 生まれたばかりの子供はしわくちゃでいて可愛い。
 紬は幸せで胸をいっぱいにさせ、大粒の涙をポロポロと零していた。

 ■

 子供が産まれてから暫く。
 紬は恭介と一緒に育児に勤しんだ。
 生まれた時より大きくなったその子は、頬っぺや手足がプクプクで、話し掛けるとニッコリ笑うことも多い。
 恭介はそんな子供が可愛くて仕方ないらしく、仕事から帰ってくると一目散に「ただいま」を言いに行く。
 もちろん紬への愛情もたっぷりなので、普段から沢山会話をし、休みの日には全員で散歩に出かけたりもした。

 そんな日常を送っていたある日の夜。
 紬は体に異変を感じて、皿洗いをしていた途中に床に座り込む。
 心臓がドクドク音を立てて、少しずつ体が熱くなっていくのを感じた。

 恭介は子供を寝かしつけ、洗濯物を畳んでいたところ、ほんのり香ってきたフェロモンに驚き、慌てて紬の元に駆けつける。

 紬は久しぶりの感覚に戸惑っていて、しゃがんだまま見上げられた恭介は、ヒクッと喉を鳴らした。


「あ、あの……ごめ、抑制剤……っ」


 紬は抑制剤がどこにあったかと記憶を辿るが、途中からモヤが掛かって思い出せない。
 視界が潤んで見えなくなってきた時、そっと恭介に抱きしめられてポロッと目から涙がこぼれていった。


「番になりたい」
「っ、」
「抑制剤は飲まないで」


 紬はハッとした後、震える手を愛しい人の背中に回し、肩に頬を擦り付ける。


「ベッド、に……連れてって……」


 恥ずかしさを堪えてそうお願いすると、恭介は頷き紬を抱っこして立ち上がる。
 そうして、一緒に眠っている恭介のベッドに辿り着いた。

 そっと柔らかいそこにおろされ、目が合うと触れるだけのキスをされた。
 紬はもう既にうっとりしながら、恭介の手が自身の服を脱がしていくのを眺める。


「バンザイして」
「ん、」
「ありがとう」


 上半身が裸になれば、頬を撫でられもう一度唇を重なる。
 その間に手がスルスル下りていき、包むように胸を揉まれる。
 紬はそれだけで快感を感じ、足をモジモジさせてしまう。
 お腹を撫でられ、下腹部に軽く圧が掛けられると、背中がくっと反れて甘く絶頂した。


 恭介が「下も脱がすよ」と言う頃には、紬は既に蕩けていて、全裸になると後孔は愛液でしとどに濡れていた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

オメガ判定されました日記~俺を支えてくれた大切な人~

伊織
BL
「オメガ判定、された。」 それだけで、全部が変わるなんて思ってなかった。 まだ、よくわかんない。 けど……書けば、少しは整理できるかもしれないから。 **** 文武両道でアルファの「御門 蓮」と、オメガであることに戸惑う「陽」。 2人の関係は、幼なじみから恋人へ進んでいく。それは、あたたかくて、幸せな時間だった。 けれど、少しずつ──「恋人であること」は、陽の日常を脅かしていく。 大切な人を守るために、陽が選んだ道とは。 傷つきながらも、誰かを想い続けた少年の、ひとつの記録。 **** もう1つの小説「番じゃない僕らの恋」の、陽の日記です。 「章」はそちらの小説に合わせて、設定しています。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

処理中です...