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番外編
ひより
時間が来ると仙波は髪を解いて小さく息を吐いた。
初めて契約を結んでくれたお客さん。
なので、より仕事に身が入る。
額に浮かんだ汗を拭い、立ち上がった。
その部屋は時雨の寝室で、大きいサイズのベッドが置かれている。
ぼんやりそこを見ていた仙波は、ふと『こんな広い家に一人で住んでるんだなぁ』と何気なく思った。
寂しくないのかな、と最後に掃除のために移動させた物を元の場所に戻していると、視界に入った指輪が二つ。
二つはサイズが異なっていて、けれど全く同じデザインだった。
仙波は『もしかして、誰かと住んでた……?』とジッと指輪を眺める。
そんな時、「仙波さん」と時雨から声が掛かって驚いて振り返る。
「は、はい!」
「そろそろ時間、ですよね。」
「あ、はい。すみません。すぐ行きます」
仙波は少しバタバタしてリビングで待つ時雨の元に行く。
時雨はテーブルに飲み物とお菓子を置いて待っていて、仙波はそれをキョトン……と眺める。
「どうぞ」
「ぁ、ありがとうございます……」
仙波はまさかこれを自分のために用意してくれたのだと知り、嬉しいさに頬を緩める。
椅子に座り、「いただきます」と言って用意されているお茶を飲む。
ちょうど喉が渇いていたので、潤う感覚にホッとする。
「仙波さんはどうして今のお仕事されてるんですか?やっぱり掃除が得意だから……?」
時雨が何気なしに言う。
仙波は小さく口角を上げた。
「確かに得意ではあるんですけど……なかなか、就職先がなくて。今ではこの仕事も合ってるなと思うんですけど、元は仕方なく……。」
「そうなんですね……」
「やっぱり性別の事があるので、定期的に長期で休まなきゃいけなくなるし……」
時雨は仙波の言葉に胸をキュッと締め付けられた。
発情期のことを言っているのだとすぐにわかる。
時雨自身、紬が発情期の時は仕事を休んでいた。
いつからかそれを煩わしく思ってしまい、酷い言葉を紬にぶつけて番を解消するだなんて、最低なことをして。
「市谷さん……?大丈夫ですか……?」
「……すみません。あんまりプライベートなこと、聞いちゃダメですよね。」
「あ、いや、全く!お気になさらないでください!」
時雨が顔を曇らせたので、仙波は話題を変えようと「そういえば!」と明るく言って両手を叩く。
「あの、さっき掃除をしていたら指輪があって!もしかしてどなたかと一緒に暮らしていらっしゃっるんですか?」
「!」
時雨はハッと目を見開き、それから薄く笑う。
「前は……二人で暮らしてました。」
「前は……?」
「はい。番だったんですよ。」
時雨は別れを告げた時の紬の表情を思い出して呼吸が速くなる。
「え……じゃあ、市谷さんって……αかΩ……?」
「αです」
「!」
仙波は目を見開き、少し居心地悪そうに両手を握る。
「……番と、暮らしてました。この家で。」
「でも、番ならずっと一緒にいるはずじゃ……」
仙波はそこまで言って慌てて口を閉じた。
もしかすると、死別したのかと思って。
「俺は、番を捨てたんです。」
「……え?」
「発情期が煩わしくなって、番を捨てた。」
時雨は仙波を見ることも出来ずに俯いた。
初めて契約を結んでくれたお客さん。
なので、より仕事に身が入る。
額に浮かんだ汗を拭い、立ち上がった。
その部屋は時雨の寝室で、大きいサイズのベッドが置かれている。
ぼんやりそこを見ていた仙波は、ふと『こんな広い家に一人で住んでるんだなぁ』と何気なく思った。
寂しくないのかな、と最後に掃除のために移動させた物を元の場所に戻していると、視界に入った指輪が二つ。
二つはサイズが異なっていて、けれど全く同じデザインだった。
仙波は『もしかして、誰かと住んでた……?』とジッと指輪を眺める。
そんな時、「仙波さん」と時雨から声が掛かって驚いて振り返る。
「は、はい!」
「そろそろ時間、ですよね。」
「あ、はい。すみません。すぐ行きます」
仙波は少しバタバタしてリビングで待つ時雨の元に行く。
時雨はテーブルに飲み物とお菓子を置いて待っていて、仙波はそれをキョトン……と眺める。
「どうぞ」
「ぁ、ありがとうございます……」
仙波はまさかこれを自分のために用意してくれたのだと知り、嬉しいさに頬を緩める。
椅子に座り、「いただきます」と言って用意されているお茶を飲む。
ちょうど喉が渇いていたので、潤う感覚にホッとする。
「仙波さんはどうして今のお仕事されてるんですか?やっぱり掃除が得意だから……?」
時雨が何気なしに言う。
仙波は小さく口角を上げた。
「確かに得意ではあるんですけど……なかなか、就職先がなくて。今ではこの仕事も合ってるなと思うんですけど、元は仕方なく……。」
「そうなんですね……」
「やっぱり性別の事があるので、定期的に長期で休まなきゃいけなくなるし……」
時雨は仙波の言葉に胸をキュッと締め付けられた。
発情期のことを言っているのだとすぐにわかる。
時雨自身、紬が発情期の時は仕事を休んでいた。
いつからかそれを煩わしく思ってしまい、酷い言葉を紬にぶつけて番を解消するだなんて、最低なことをして。
「市谷さん……?大丈夫ですか……?」
「……すみません。あんまりプライベートなこと、聞いちゃダメですよね。」
「あ、いや、全く!お気になさらないでください!」
時雨が顔を曇らせたので、仙波は話題を変えようと「そういえば!」と明るく言って両手を叩く。
「あの、さっき掃除をしていたら指輪があって!もしかしてどなたかと一緒に暮らしていらっしゃっるんですか?」
「!」
時雨はハッと目を見開き、それから薄く笑う。
「前は……二人で暮らしてました。」
「前は……?」
「はい。番だったんですよ。」
時雨は別れを告げた時の紬の表情を思い出して呼吸が速くなる。
「え……じゃあ、市谷さんって……αかΩ……?」
「αです」
「!」
仙波は目を見開き、少し居心地悪そうに両手を握る。
「……番と、暮らしてました。この家で。」
「でも、番ならずっと一緒にいるはずじゃ……」
仙波はそこまで言って慌てて口を閉じた。
もしかすると、死別したのかと思って。
「俺は、番を捨てたんです。」
「……え?」
「発情期が煩わしくなって、番を捨てた。」
時雨は仙波を見ることも出来ずに俯いた。
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