上 下
55 / 208

第55話

しおりを挟む
***


 体が痛い。寝返りをうとうとして体に走った痛みに涙が浮かぶ。
 隣に凪さんはいない。どこにいるんだろう。
 声を出そうとして、それと同時に部屋のドアが開いて凪さんが顔を覗かせた。


「あ、真樹、おはよう。体はどう?」
「……凪さん」


 声が少し枯れている。喉も若干痛い。
 傍に来た彼は苦笑しながら俺の頬を撫でる。


「ごめんね、初めてだったのに無理させて。水持ってくるから待ってて」
「ありがとう、ございます」


 部屋を出て直ぐに水を持って戻ってきた彼。
 彼の手を借りて体を起こし、水を飲むと喉が潤った。


「あの……昨日寝ちゃって、ごめんなさい……。」
「俺が無理させたんだ。大丈夫」
「……すごく、気持ちよかった、です……。」
「うん。俺も」


 急に凪さんに抱きしめてほしくなって、彼の服の袖を掴む。


「凪さん、抱きしめてほしい……です。」
「可愛いなぁ、本当。」


 ギュッと抱きしめられ、大好きな匂いを嗅いだ。
 背中に回る手がゆっくり撫でたかと思うと、腰を摩ってくれた。


「痛む?」
「ちょっと」
「今日はここで寝て過ごそうね」
「うん」


 チラッと時計を見ると午前十時。
 トイレに行こうと彼の手を借りて立ち上がった時に気が付いた。体がさっぱりしている。
 昨日あれだけしたのにどうしてだと思ったが、答えは一つしかない。凪さんがしてくれたんだ。


「凪さん、お風呂入れてくれた?」
「いや、体は拭いただけだよ。お湯はもう少ししたら沸くから、お風呂入るかなと思って呼びに来たんだ。ちょうど真樹が起きててよかった。」
「そうなんだ……。ありがとうございます」


 産まれたての子鹿みたいに足がプルプルしている。
 トイレまで連れて行ってもらって、その間に凪さんが着替えを取りに行き、トイレから出るとまたお風呂場まで連れて行ってくれた。


「本当、ごめんね。無理させて……」
「大丈夫です。足プルプルしてるのも面白いし。ただちょっと、お手を煩わせてしまいますが……」
「俺のせいなんだから気にしないで。お風呂は一人で入れそう?もし無理なら……」
「大丈夫です!」


 きっと一緒に入ろうとするだろうと思って食い気味に伝える。
 お風呂場に入り大きなガラスの前に立つ。


「……すっご」


 アルファのオメガに対する独占欲は強いって聞くけど、これは凄い。

 体の至る所にキスマークがあって、ついそれをそっと撫でる。
 服を着ていれば隠れる所ばかり。考えて付けてくれたのか。やっぱり彼は優しい人だ。


 髪と体を洗い、湯船に浸かる。
 深く息を吐いて脱力する。
 ああ、癒される。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:38,198pt お気に入り:2,778

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

BL / 連載中 24h.ポイント:1,164pt お気に入り:9,997

不機嫌な子猫

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:712

俺には義兄がいてそれは俺が通う精神科の主治医らしい

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:937

運命に抗え【第二部完結】

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,641

君と番になる日まで

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:1,489

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,847

転生者オメガは生意気な後輩アルファに懐かれている

BL / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:1,349

ヘタレαにつかまりまして

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,746

処理中です...