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現世はうたたか

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 夜の帳が下りて静かになるはずの時間に花の香りが部屋に舞い降りた。

 仕事を終えて、久々に昔話したためか目が冴えてしまい 時間まで仮眠する予定が今に至ってしまった。

 暗闇の部屋に漂う 香水とは違う 生々しい花の香り。おもわず肺に入れそうになり慌てて息を吐いた
一度でも体内に入れれば最後 花本体に貪るまで欲求は終わらないだろう。

 「ゆうちゃん あの子はなぜ部屋に居ないの? 」手のひらが暗闇から伸びてきて頬に触れる 柔らかく細く長い指が唇をなぞる。

 「アリスが食べるから隠したよ」

 唇がくわっと開き何かを叫ぶ 叫び声はそのまま呪を結び部屋の隅から魔物の妖気が揺らめき立つ

アリスの身体から濃い花の香りが陽炎のように放たれより一層部屋を覆う

魔物が部屋中を隈なく探す
若い肉に(もうジジイだが)最後のキス(死)を与えるため 

男も女も彼女にマークされたものは死を覚悟しなくてはいけない。
普段からスキンシップでするキスはマーキングのカモフラージュ

彼女の中にある魔のものは彼女に限りない愛という名の魔力を与えるが 新月の夜には彼女を乗っ取り他のものから魔力を吸い取る妖魔に変貌させる

アリス本体は意識があったりなかったりで むしろあの出来事をキッカケにもう一人の人格ぐらいの解釈になっていて他人事のように受け止めているそうだ

死を与えられる名誉ある生贄は 限りない快楽を与えられ 死んだことも気づかないまま魔物に最後喰われる

花の香りは媚薬 しかも無効化する事は勇者である自分もこうなると出来ない

 息を止めるのも限界に近い 

アリスは馬乗りで顔を覗き込む
「食べなきゃアリス死んじゃうわ」

絡み合った香りと呪が身体を縛り付け意思とは関係なく指がアリスに伸びていく

アリスのわざとらしい 甘えた声で
キャハハと笑いながら指に自分の身体を与える

柔らかな肉を指に感じると勝手にアリスの服をはだけさせ 白桃のような香りを放つ胸に貪りついた

クリッとした先を甘噛みすると アリスの身体からまた匂いがたった
片方の胸を揉み解しながら服を破り捨てるようにアリスの身体から剥がす

胸から顔を離すときには媚薬を吸い込みすぎた脳から次の動きをする為にアリスの唇にむしゃぶりついた

意識を手放した瞬間 アリスのいただきますが聞こえた

それが 目を覚ましたときにあった最後の記憶だった

全裸のアリスが身体中に痣のある姿でスヤスヤと寝ている

…うん。やりすぎた

何をって ねぇ 同僚に手を出すなんてなんで奴だ て 言葉は足りないぐらい うん。て話だ

部屋に漂っていた媚薬や魔力は彼女の眠りでしっかり消えており 残るは情事の後 つまりアリスの服の残骸だ

クズになった服をゴミにまとめながら地下に降りる
酒場のある部屋より二階地下には鉄の扉がある。鍵穴はなく一見ただの鉄の壁にみえるが壁の向こう側には一つの部屋がある。

右手をつけてデコをつけ呪文を唱える

七色のプリズムに光りながら、
鉄の壁は消え去り 部屋の中では素っ裸のジジイが呪符に巻かれて転がる 中々の光景が広がっていた。

…おまたせ?

ヒッと短い悲鳴が聞こえた気もするが呪符ごと担ぎ上げアリスの寝ている部屋に連れて行く。

ジジイ姿で寝ているアリスをみてまた悲鳴を上げるので頭を叩き、アリスの指に嵌ったままの指輪に唇をつけさせた

瞬間 ジジイは元の若者の姿に戻った

「…これにこりなかったら夜に戻ってこい」

ピーターは全裸のまま部屋から出て行った。やっぱあいつはアホかもしれない

太陽のでた眩しくなった部屋でカーテンをひいてアリスの眠るベッドに潜り直した。変わらずアリスは無防備な姿で寝ている。

流石に身体が怠いので今日は休むか?
ピーター次第にして寝なおすことにした。
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