狼と猫の食卓(1/3更新)

パンケーキ

　ある日の昼より少し前の時間帯。リオンと黒猫がこれから作ろうとしているのはパンケーキだ。『パンケーキ』と一口に言い表しても、レシピは多種多様である。重ねて、この家の住む人間達は各々で好みが違う。甘党からは粗食派もいる。美味しい物を食べてほしいと料理ができる家人はレシピを変える時は変えていた。

「今日のパンケーキの材料は『これ』だよ」

　講師兼助手のリオンが指し示す台の上に乗った材料。薄力粉に卵に牛乳に……そしてある食材が黒猫の目に入る。

「お豆腐、ですか」
「入れると、もちもちの食感が楽しめるよ」
「なるほど」

　黒猫は非常に感心していた。豆腐は、普段たれをかけてそのまま食べたりハンバーグのタネに使う絹ごし豆腐である。パンケーキに豆腐を入れるという発想が今までの黒猫には無かった。早速、調理に取りかかる。絹ごし豆腐をしっかり水切りしてから、ボウルに入れてなめらかになるまで混ぜる。リオンの制止が入るまで混ぜた。次に銀色のボウルに卵や牛乳を入れて丁寧に混ぜる、そしてホットケーキミックスを入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜた。丁寧に混ぜていく。

「慣れればあっという間だよ」
「私も慣れないといけませんね。皆さんに美味しい物を食べてもらいたいですから」

　春の陽だまりのような笑みを浮かべて黒猫は言う。いよいよ、焼く作業に取りかかる。テフロン加工のフライパンに油を引いて弱火にし、生地をそっと流し込み、透明な蓋を被せて蒸し焼きにする。

「この辺でひっくり返す」
「解りました。穴が開いてきたらですね」

　蓋を開けて黒猫はパンケーキの生地をひっくり返した。また蓋をする。何分か焼いた。同じように生地を合計で四枚焼く。焼けたパンケーキを皿にのせるとリオンは別のボウルに生クリームを注ぎ込んで、電動泡立て器を入れて混ぜる。機械を使っても結構重労働だ。生クリームがホイップクリームになったら、少しズラして重ねられた焼けたパンケーキの上に乗せていく。チョコレートソースは銀、自家製ハチミツは白のシロップ入れに入れた。

「ハイ完成。上出来だ」
「先生のご指導あっての事です。蒼龍さんと世鷹さんが今日お帰りですから」
「絶対あの二人、二枚以上食べるよ」
「お二人が満足するまで焼きます。私のパンケーキ作りの練習にもなりますから」
「頑張り屋さんだね」
「そ、そうですかね……私はそんなつもりはないのですけど。あの、甘くないトッピングを作りましょうか」
「ハーブやオニオンを入れてみようか」

　保育士が用事の頭を撫でるような褒め方に、黒猫は困惑してしまう。嬉しくないわけではないのだが。
　それから数種類のトッピングを増やし、皿をテーブルに載せたと同時、リオンは窓から長兄と末弟の愛車が屋敷に入ってきた事に気づいた。