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真っ白な覚悟
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先週の大掃除でピカピカに磨かれた等身大の鏡に映っているあたしが着ているのは、誕生日に買ってもらった真っ白なダッフルコート。
「汚れたら目立つわよ?」
そんなママの言葉は押し切った。……うん、それはわかってるんだけど。そう言ったあたしの表情に、ママは一瞬目をパチクリさせた後、ニッコリ笑ってレジへと向かってくれた。――その時のあたしは、自分に値の張る服を買ってくれたというのに、全然そっちへの余裕なんて持ち合わせていなかった。良くも悪くも一点集中型な自分はプレゼントのことより、その先の「こと」で頭がいっぱいいっぱいだったんだ。
あたしの誕生日。センパイが言ってくれた「誕生日おめでとう」の言葉と、くしゃりと頭を撫でてくれた大きな掌のあったかさ。プレゼントはなかったけど、あたしには誰がくれた物より、それが嬉しかった。普段はなかなか見せてくれない、優しい色をした瞳であたしを見てくるものだから。そっと閉じ込めていた気持ちが、ドアから溢れてきてどうしようもなくなって。云いたいと思った。伝えたいと思った。
――あたしが、センパイをどれほど想っているかという気持ちを。そして、それに選んだ日がクリスマスイブ。乙女すぎかなとは思ったけれど、どうせ上手くいきっこないコイゴコロだから。泣ける日も考えると終業式の日しかなくて、部活も休みだし。今日はその当日! センパイとの待ち合わせ時間は刻一刻と迫っている。
「話したいコトがあるんですけど」
一昨日の部活後にそう切り出すと、意外とあっさり快諾してくれた。受験勉強で忙しくないのかなとは思ったけど。センパイがいいのならいっか。学校が終わって、イヴのその日に会ってくれるなんて! あたしは内心浮かれてしまった。どうせうまくいきっこない恋だというのは解ってる。でも、それを意味する言葉を声に乗せる、その瞬間までは夢を見ていられるから――。
もう一度、鏡を見ると。嬉しそうなのに泣きそうな、そんな複雑な顔をした自分がそこにいた。パン! と音を立てて両頬を叩く。自然と寄ってくるもやもやを振り払うように、ニッコリ鏡に向かって笑ってみせた。
――よし、オッケー! いつもの自分の顔に戻ったのをキチント確認して、これまた新品の編み上げブーツの紐を締める。ドアを閉めるとき、一瞬映った、翻った白いダッフルコートの裾。変に目に焼きついた。――そうよ、これはあたしの勝負服。アナタ色に染まりたい! そんな隠れたイミでもあるんだけど。それ以上に真っ白い気持ちでセンパイに向かいたいの。
――あたしの全てを見てほしいから。受け取ってくれなくたって構わない、ただあたしの気持ちを聞いてくれればそれで満足!
「……蓬義センパイ、大好きです」
ポツリと呟いた予行練習はヒヤッとした空気に融けて、あたしはグッと深呼吸すると走り出した。
「汚れたら目立つわよ?」
そんなママの言葉は押し切った。……うん、それはわかってるんだけど。そう言ったあたしの表情に、ママは一瞬目をパチクリさせた後、ニッコリ笑ってレジへと向かってくれた。――その時のあたしは、自分に値の張る服を買ってくれたというのに、全然そっちへの余裕なんて持ち合わせていなかった。良くも悪くも一点集中型な自分はプレゼントのことより、その先の「こと」で頭がいっぱいいっぱいだったんだ。
あたしの誕生日。センパイが言ってくれた「誕生日おめでとう」の言葉と、くしゃりと頭を撫でてくれた大きな掌のあったかさ。プレゼントはなかったけど、あたしには誰がくれた物より、それが嬉しかった。普段はなかなか見せてくれない、優しい色をした瞳であたしを見てくるものだから。そっと閉じ込めていた気持ちが、ドアから溢れてきてどうしようもなくなって。云いたいと思った。伝えたいと思った。
――あたしが、センパイをどれほど想っているかという気持ちを。そして、それに選んだ日がクリスマスイブ。乙女すぎかなとは思ったけれど、どうせ上手くいきっこないコイゴコロだから。泣ける日も考えると終業式の日しかなくて、部活も休みだし。今日はその当日! センパイとの待ち合わせ時間は刻一刻と迫っている。
「話したいコトがあるんですけど」
一昨日の部活後にそう切り出すと、意外とあっさり快諾してくれた。受験勉強で忙しくないのかなとは思ったけど。センパイがいいのならいっか。学校が終わって、イヴのその日に会ってくれるなんて! あたしは内心浮かれてしまった。どうせうまくいきっこない恋だというのは解ってる。でも、それを意味する言葉を声に乗せる、その瞬間までは夢を見ていられるから――。
もう一度、鏡を見ると。嬉しそうなのに泣きそうな、そんな複雑な顔をした自分がそこにいた。パン! と音を立てて両頬を叩く。自然と寄ってくるもやもやを振り払うように、ニッコリ鏡に向かって笑ってみせた。
――よし、オッケー! いつもの自分の顔に戻ったのをキチント確認して、これまた新品の編み上げブーツの紐を締める。ドアを閉めるとき、一瞬映った、翻った白いダッフルコートの裾。変に目に焼きついた。――そうよ、これはあたしの勝負服。アナタ色に染まりたい! そんな隠れたイミでもあるんだけど。それ以上に真っ白い気持ちでセンパイに向かいたいの。
――あたしの全てを見てほしいから。受け取ってくれなくたって構わない、ただあたしの気持ちを聞いてくれればそれで満足!
「……蓬義センパイ、大好きです」
ポツリと呟いた予行練習はヒヤッとした空気に融けて、あたしはグッと深呼吸すると走り出した。
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