後輩の夜事情(2/7更新)

狂言巡

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夜明サイネリア

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 完全に消灯した部屋は暗いが、何も見えない程ではない。じきに朝になるのだろう。朧気に見える家具の輪郭が、カーテン越しの微かな光を浴びて、全体に淡い紫色を帯びている。
 床に落ちていたシャツは拾った瞬間、自分が着ていた物ではないと気づいたがそのまま袖を通した。素肌に触れた布地は薄く滑らかで、冷え切っている。元の持ち主の体温なんてとっくに忘れてしまったらしい。別に構わない。同じ熱が今も躰の奥に残っている。鈍い痛みを含みつつも、全身を包む心地よい倦怠感。情事の残滓を逃さないように、ゆっくり細く息を吐いた。腹に腕が回された。

「何やってんの」

 耳に触れる柔らかさ。低く響く声。その中に混ざった不機嫌も心配も、淡島をひどく満ち足りた気分にする。愛おしいと思う。

「しゃーないやん。喜秋くんが情熱的やさけ参ってまわ」
「情けないわね」
「そう言わんと手加減してぇな」
「やなこった」
「……っ」

 返事に吐息が混ざって、跳ねる。腹に絡み付いた大きな掌が楽しげに肌を撫で、指先で臍を引っ掻いた。くすぐったさと僅かな快感に息を飲む。背後に体重を預けた。薄いシャツ越しの体温は暖かく、淡島が凭れてもビクともしない。話の方向性を掴みかねてか、やや困惑した様子の恋人に淡島はのんびりと続けた。
 自らの胸元を撫でる。何度も何度も、しつこいくらいにつけられた情痕がそこかしこにある。ゆっくりと一つずつ指先で辿り、腹と腰、足、更に際どい付近まで、数え切れないくらいたくさん。喜秋が口付けた跡が、愛おしい熱がそこにある。その全てが、いずれ消えていく。毎朝、毎晩、淡島が確認するたびに薄れていく。目に見える跡を辿り終わって、最後に、喜秋の唇に触れた。

「寝るわよ」

 強い力で引き寄せられる。抵抗する理由もないので素直にベッドに転がり、全身を暖かく包まれて、狭くて暗くて、心地いい。きつく抱き締められるのが好きだ。閉じ込められる息苦しささえも、もっとたくさん欲しくなる。

「チューして」
「こんだけ付けてもまだ足りないの」
「アカン?」
「そうは言ってでしょ」

 予想通りの返事に嬉しくなって、淡島は甘えるように鼻先を胸元に寄せた。差し出した項に喜秋が触れて、荒々しく歯を立てる。柔らかさも生温さも他愛ない痛みも、全て同じ熱に変わる。肌の上に残り、胸の奥を焦がす。時に苦しくなる程のその熱を、両腕でしっかりと抱き締める。そして水底にゆっくりと沈むように、恋人達は眠りに落ちていった。
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