とある高台夫婦の事情(5/25更新)

狂言巡

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黄昏の家/所有と証左

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「茜さん。マーキングって知ってる?」
「ん~? 動物が縄張り作るヤツ? それがどうしたの」
「別に……」

 気づいていないからとはいえ、惜しげも無く恥ずかしげもなく、首に残る痕を隠そうともせず。話題に出した所為か、ゆっくり首に触れる指が妙に扇情的に見えて、目が逸らせない。片手で掴めそうな白くて細い首にある赤い痕は、まるで花弁のようだった。

「……人間もマーキングすると思う?」
「何で私に聞くの」
「他の旦那に聞いてみてよ」
「自分で聞けばいいのに」

 茜は相変わらず新刊から目を離そうとしない。

「面倒臭いよ」

 絶対、ロクな反応なんて返ってこない。よく見れば、赤いのだけでなく薄く紫に染まっているのもある。きっと内出血でも起こしているのだろう。この確実に人間がつけた歯型はきっと。
 きっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっと!
 自分が知らないうちに、この家のだれかが付けたのだろう。胸を焦がすのは焦燥感、消失感、疎外感、ただ純朴な殺意。





「あのさ、首の後ろの……」
「ボディペイントですよ、風雅さんがやってくれました」

 紅いアネモネの花言葉を、雲雀は知らない。
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