ちょっと奇妙な話

狂言巡

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モテモテ

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 大瀧朝凪おおたきあさなぎの友人、黒松歌留多くろまつかるたは江戸時代から続く骨董屋の娘である。その所為か何なのか、いるだけでその場の「物」を魅了する。彼女が家に来ると、妙な緊張感が漂う。全ての物が騒めき、人間や動物の形をした、つまり目のある者は友人を凝視する。目のない物も、恥ずかしがったり、ちょっとでも意識を引こうとする。
 弟がいつだったか壁にかけていったお面は笑わせたいのか変顔を始め、弟の彼女が買ってきた人形はくるくると踊り、祖母が作ってくれた編みぐるみ達はぴょんぴょん跳ねていた。バイクの模型はドリフトを決める。目覚まし時計の文字盤にいる少女は恥ずかしがって顔を手で隠してしまった。シールをためて引き換えたカップに描かれた猫は、にゃあんと活字の鳴き声をあげる。友人が譲ってくれたカレンダーのイケメンが頬を染めつつもカッコよくウインクをキメて歌留多にアピールをし出したのを見て、朝凪は驚きを通り越して呆れたような表情になる。
 だが、その騒めきも一瞬のことだ。理由は二つある。一つ、彼らはまだ新参の付喪神。人間でいえば生後何か月程度の赤ちゃんだ、行動範囲など知れている。またみんな元の位置で静かに置物へと戻っていく。集まっていた視線もすぐに霧散し、物は物としての存在意義を果たし始めた。

「今日もモテモテだったな」
「悪い気はしないけど……」

 そしてもう一つの理由。

 歌留多がいつも鞄に着けている根付。曾祖母の代から娘に受け継がれているのだとか。上には上がいるのである。
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