青春チャンプルー(4/1更新)

狂言巡

文字の大きさ
32 / 39

初恋デビュー

しおりを挟む
 藤野紫は、自覚がない。





「おはよう紫ちゃん!」
「はよう、近いぞ」

  起きて、学校へ行き、勉強して、部活に行って、帰って、寝る。いつもと変わらない日常風景。だが最近になって変わってしまったことが一つ。
  近頃、何故だか美浦伊織みうらいおりの姿が妙に輝いて見えるのだ。光に当たるとサファイアのように輝くブルネットの髪の毛にキャラメル色の丸い双眸と、彼はもともとキラキラしい風貌の人間だ。だが、紫はそんな表面的なものを気にしているのではない。伊織の存在自体が輝いているように見えるのだ。
  笑顔を向けられれば、周りにキラキラと星のようなものが浮かんでいるように見えるし、真剣に合気道の稽古をしている時は飛び散る汗の一つ一つが煌めいて見える。先程だって『おはよう』という笑顔が朝の太陽にも負けないくらい眩しく輝いていた。絶対何かキラキラした光の粒が彼の周りに飛んでいた。しかし、他の人間からも同じように見えているわけではないらしい。

 『……あたしには美浦さんが輝いているようには見えないけど』

  以前あずみに話してみたところ、何故か物凄く疲れたような顔でそう言われた。最初は自分の目に何か異常があるのではないかと疑った。しかし伊織以外の人間は特に輝いて見えないし、最近学校で受けた検査でも視力自体こそ相変わらずかなり悪いものの、他は特に異常なしだった。ならば一体何だというのだろう。
  目に異常がないのなら、もしかして脳に何か問題があるのだろうか。大事にならない内に脳神経外科でも受診してみるべきか……と考えているうちに学校に着いた。自転車を停めて教室へ向かっていると、伊織が紫の方を向いて笑った。その周りにやはりまたキラキラが見える。そして出会った時から妙に距離が近い。

 「……何ぞ」

  ただでさえ常に距離を詰められているのに、さらにキラキラと眩しい笑顔で見つめられて、思わず目を細めてしまいそうになる。やはり目がおかしいのだろうか。しかし伊織は気にした様子もなく楽しそうに歩いている。

 「紫ちゃんってやっぱりすっごくキラキラしてるなーって思っただけ!」

  そう言って、伊織が白い歯を見せてにっこりと笑う。また星が飛ぶ。眩しい。というか、今彼は何と言った。

 「は? 何を言うのか。イオ、キラキラしておるのはお前様の方であろ」
 「へ? あたし?」
 「ああ。何故か最近お前様の姿が妙に輝いて見えるのよ。私には私自身はそうは見えぬが、お前様には私が輝いて見えるのか?」
 「えっ!? あ、い、いやそうなんだけどえーっと……」

  紫がぐいっと顔を近付けると、伊織は顔を赤くして目を逸らしてしまった。この反応からすると、本当に自分は伊織が輝いて見えるように伊織からは自分が輝いて見えているのかもしれない。たぶん近付きすぎて眩しかったのだろう。伊織は目がいいから紫よりきつく感じるのかもしれない。悪い事をしたと反省する。

 「ふむ……だがお前様にも同じ現象が起きておるという事は、私の目か脳がおかしくなったわけではないのだろうか?」
 「はぁ!?」
 「最近お前様のことが輝いて見えると言うたであろ? 以前はこのような事は起きず、お前にしか起こらぬゆえもしや目か脳に異常を来たしておるのではと思ったのだが……」
 「はああああ~……」
 「む?」

  紫が正直に考えていたことを話すと、さっきまで赤い顔でそわそわしていた伊織はがっくりと肩を落とした。一体何なのだ。

 「やれ、どうした」
 「ううん、なんでもないわぁ……ただちょーっとあまりにアレで驚いたっていうか何ていうか……」

  伊織がもう一度はあっとため息を吐く。情けないはずのそんな表情すら相変わらず眩しく見える。不思議だ。

 「……まあね? 紫ちゃんのそれは別に病気でもなんでもないから安心していいわよ。同じ症状のあたしが保障するから」
 「誠か? それなら一体何だというのよ」
 「それは……まあ、そのうちちゃんと判るわよ、そしたらもっかいあたしに教えて頂戴。とりあえず悪いもんじゃないから大丈夫……まあある意味脳がおかしくなってるかもだけど……」

  何故か涙目になりながら話す伊織に、そういうものかと納得する。とりあえず対象は違えど向こうにも同じ現象が起きていることが分かったし、病気などではないなら安心だ。紫が住む世界のすぐ傍で、目を凝らしても見えない奇妙なものが蠢いている事を認めざるを得ない。
  しかし、目にも脳にも異常がないとすれば何故こんなものが見えているのだろうか。自分で考えに考えぬくか、誰かに相談して決めるのがよいのか。運に任せるのが最適か……紫はまた悩む事になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...