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初恋デビュー
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藤野紫は、自覚がない。
「おはよう紫ちゃん!」
「はよう、近いぞ」
起きて、学校へ行き、勉強して、部活に行って、帰って、寝る。いつもと変わらない日常風景。だが最近になって変わってしまったことが一つ。
近頃、何故だか美浦伊織の姿が妙に輝いて見えるのだ。光に当たるとサファイアのように輝くブルネットの髪の毛にキャラメル色の丸い双眸と、彼はもともとキラキラしい風貌の人間だ。だが、紫はそんな表面的なものを気にしているのではない。伊織の存在自体が輝いているように見えるのだ。
笑顔を向けられれば、周りにキラキラと星のようなものが浮かんでいるように見えるし、真剣に合気道の稽古をしている時は飛び散る汗の一つ一つが煌めいて見える。先程だって『おはよう』という笑顔が朝の太陽にも負けないくらい眩しく輝いていた。絶対何かキラキラした光の粒が彼の周りに飛んでいた。しかし、他の人間からも同じように見えているわけではないらしい。
『……あたしには美浦さんが輝いているようには見えないけど』
以前あずみに話してみたところ、何故か物凄く疲れたような顔でそう言われた。最初は自分の目に何か異常があるのではないかと疑った。しかし伊織以外の人間は特に輝いて見えないし、最近学校で受けた検査でも視力自体こそ相変わらずかなり悪いものの、他は特に異常なしだった。ならば一体何だというのだろう。
目に異常がないのなら、もしかして脳に何か問題があるのだろうか。大事にならない内に脳神経外科でも受診してみるべきか……と考えているうちに学校に着いた。自転車を停めて教室へ向かっていると、伊織が紫の方を向いて笑った。その周りにやはりまたキラキラが見える。そして出会った時から妙に距離が近い。
「……何ぞ」
ただでさえ常に距離を詰められているのに、さらにキラキラと眩しい笑顔で見つめられて、思わず目を細めてしまいそうになる。やはり目がおかしいのだろうか。しかし伊織は気にした様子もなく楽しそうに歩いている。
「紫ちゃんってやっぱりすっごくキラキラしてるなーって思っただけ!」
そう言って、伊織が白い歯を見せてにっこりと笑う。また星が飛ぶ。眩しい。というか、今彼は何と言った。
「は? 何を言うのか。イオ、キラキラしておるのはお前様の方であろ」
「へ? あたし?」
「ああ。何故か最近お前様の姿が妙に輝いて見えるのよ。私には私自身はそうは見えぬが、お前様には私が輝いて見えるのか?」
「えっ!? あ、い、いやそうなんだけどえーっと……」
紫がぐいっと顔を近付けると、伊織は顔を赤くして目を逸らしてしまった。この反応からすると、本当に自分は伊織が輝いて見えるように伊織からは自分が輝いて見えているのかもしれない。たぶん近付きすぎて眩しかったのだろう。伊織は目がいいから紫よりきつく感じるのかもしれない。悪い事をしたと反省する。
「ふむ……だがお前様にも同じ現象が起きておるという事は、私の目か脳がおかしくなったわけではないのだろうか?」
「はぁ!?」
「最近お前様のことが輝いて見えると言うたであろ? 以前はこのような事は起きず、お前にしか起こらぬゆえもしや目か脳に異常を来たしておるのではと思ったのだが……」
「はああああ~……」
「む?」
紫が正直に考えていたことを話すと、さっきまで赤い顔でそわそわしていた伊織はがっくりと肩を落とした。一体何なのだ。
「やれ、どうした」
「ううん、なんでもないわぁ……ただちょーっとあまりにアレで驚いたっていうか何ていうか……」
伊織がもう一度はあっとため息を吐く。情けないはずのそんな表情すら相変わらず眩しく見える。不思議だ。
「……まあね? 紫ちゃんのそれは別に病気でもなんでもないから安心していいわよ。同じ症状のあたしが保障するから」
「誠か? それなら一体何だというのよ」
「それは……まあ、そのうちちゃんと判るわよ、そしたらもっかいあたしに教えて頂戴。とりあえず悪いもんじゃないから大丈夫……まあある意味脳がおかしくなってるかもだけど……」
何故か涙目になりながら話す伊織に、そういうものかと納得する。とりあえず対象は違えど向こうにも同じ現象が起きていることが分かったし、病気などではないなら安心だ。紫が住む世界のすぐ傍で、目を凝らしても見えない奇妙なものが蠢いている事を認めざるを得ない。
しかし、目にも脳にも異常がないとすれば何故こんなものが見えているのだろうか。自分で考えに考えぬくか、誰かに相談して決めるのがよいのか。運に任せるのが最適か……紫はまた悩む事になった。
「おはよう紫ちゃん!」
「はよう、近いぞ」
起きて、学校へ行き、勉強して、部活に行って、帰って、寝る。いつもと変わらない日常風景。だが最近になって変わってしまったことが一つ。
近頃、何故だか美浦伊織の姿が妙に輝いて見えるのだ。光に当たるとサファイアのように輝くブルネットの髪の毛にキャラメル色の丸い双眸と、彼はもともとキラキラしい風貌の人間だ。だが、紫はそんな表面的なものを気にしているのではない。伊織の存在自体が輝いているように見えるのだ。
笑顔を向けられれば、周りにキラキラと星のようなものが浮かんでいるように見えるし、真剣に合気道の稽古をしている時は飛び散る汗の一つ一つが煌めいて見える。先程だって『おはよう』という笑顔が朝の太陽にも負けないくらい眩しく輝いていた。絶対何かキラキラした光の粒が彼の周りに飛んでいた。しかし、他の人間からも同じように見えているわけではないらしい。
『……あたしには美浦さんが輝いているようには見えないけど』
以前あずみに話してみたところ、何故か物凄く疲れたような顔でそう言われた。最初は自分の目に何か異常があるのではないかと疑った。しかし伊織以外の人間は特に輝いて見えないし、最近学校で受けた検査でも視力自体こそ相変わらずかなり悪いものの、他は特に異常なしだった。ならば一体何だというのだろう。
目に異常がないのなら、もしかして脳に何か問題があるのだろうか。大事にならない内に脳神経外科でも受診してみるべきか……と考えているうちに学校に着いた。自転車を停めて教室へ向かっていると、伊織が紫の方を向いて笑った。その周りにやはりまたキラキラが見える。そして出会った時から妙に距離が近い。
「……何ぞ」
ただでさえ常に距離を詰められているのに、さらにキラキラと眩しい笑顔で見つめられて、思わず目を細めてしまいそうになる。やはり目がおかしいのだろうか。しかし伊織は気にした様子もなく楽しそうに歩いている。
「紫ちゃんってやっぱりすっごくキラキラしてるなーって思っただけ!」
そう言って、伊織が白い歯を見せてにっこりと笑う。また星が飛ぶ。眩しい。というか、今彼は何と言った。
「は? 何を言うのか。イオ、キラキラしておるのはお前様の方であろ」
「へ? あたし?」
「ああ。何故か最近お前様の姿が妙に輝いて見えるのよ。私には私自身はそうは見えぬが、お前様には私が輝いて見えるのか?」
「えっ!? あ、い、いやそうなんだけどえーっと……」
紫がぐいっと顔を近付けると、伊織は顔を赤くして目を逸らしてしまった。この反応からすると、本当に自分は伊織が輝いて見えるように伊織からは自分が輝いて見えているのかもしれない。たぶん近付きすぎて眩しかったのだろう。伊織は目がいいから紫よりきつく感じるのかもしれない。悪い事をしたと反省する。
「ふむ……だがお前様にも同じ現象が起きておるという事は、私の目か脳がおかしくなったわけではないのだろうか?」
「はぁ!?」
「最近お前様のことが輝いて見えると言うたであろ? 以前はこのような事は起きず、お前にしか起こらぬゆえもしや目か脳に異常を来たしておるのではと思ったのだが……」
「はああああ~……」
「む?」
紫が正直に考えていたことを話すと、さっきまで赤い顔でそわそわしていた伊織はがっくりと肩を落とした。一体何なのだ。
「やれ、どうした」
「ううん、なんでもないわぁ……ただちょーっとあまりにアレで驚いたっていうか何ていうか……」
伊織がもう一度はあっとため息を吐く。情けないはずのそんな表情すら相変わらず眩しく見える。不思議だ。
「……まあね? 紫ちゃんのそれは別に病気でもなんでもないから安心していいわよ。同じ症状のあたしが保障するから」
「誠か? それなら一体何だというのよ」
「それは……まあ、そのうちちゃんと判るわよ、そしたらもっかいあたしに教えて頂戴。とりあえず悪いもんじゃないから大丈夫……まあある意味脳がおかしくなってるかもだけど……」
何故か涙目になりながら話す伊織に、そういうものかと納得する。とりあえず対象は違えど向こうにも同じ現象が起きていることが分かったし、病気などではないなら安心だ。紫が住む世界のすぐ傍で、目を凝らしても見えない奇妙なものが蠢いている事を認めざるを得ない。
しかし、目にも脳にも異常がないとすれば何故こんなものが見えているのだろうか。自分で考えに考えぬくか、誰かに相談して決めるのがよいのか。運に任せるのが最適か……紫はまた悩む事になった。
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