青春チャンプルー(4/1更新)

狂言巡

文字の大きさ
33 / 39

奪われた視線

しおりを挟む
 秋の気配を感じるある日の事だった。
 香山倫太朗は恋をした。 敵情視察という名目で、友人と共に魔麟学園を訪れた。そしてトイレに行ってくると仲間と少しばかり別れた時の事だ。校舎内のトイレで用を足し、体育館へ通じる渡り廊下を歩く倫太朗はふと中庭へ視線を向け、思わず足を止めた。
 赤や黄に色付く木の間、一人の少女が宙を仰いでいる。赤い簪で結い上げられた黒髪は陽に透けてキラキラと輝いていた。肌は白く、頬は桃のように淡く色づき、今は閉じられたままの唇は朝露を受けた椿のように紅い。丹念に磨きこまれたような、ガラス玉のような目が印象的だった。

(綺麗、だ)

 細身だとか胸が大きいだとか、モデルのような体型の女は見慣れているはずだったのに。倫太朗は今まで女に苦労せず、大概は向こうから猛烈なアプローチを受け、自分の許容範囲内の女性であれば受け入れてきたのだが、いわゆる【来る者拒まず去る者追わず】タイプであり、生まれてからこの方、人に対して執着を持った事が無かったため、きっと自分は淡白なタイプなのだろうと思っていた。
 ところがどっこいどうした事か。柄にもなくときめいてしまった倫太朗は、食い入るように少女を見つめる。魔麟学園の制服を着ているし……間違いなく此処の生徒なのだろうが、学年までは判らない。迷ったふりして、名前でも聞いてみようか。そう思うが、余所様の学校内で軟派のような真似をするのは気が引ける。けど、こんなに自分の胸を打つような子を前に、名前を聞かないというのもどうかと思うし……。

「おっ……」

 アレコレ考えていると少女の視線がこちらへ向き、倫太朗はドキッとした。目が合うとまた瞳の美しさが際立つというか……。無表情ではあるが、だからこそ顔立ちの良さが引き立ち、目を奪われる。
 一際強い秋の風が吹いた。木枯らしの中で彼女は一礼して、何故かハッとしたように目を見開く。初めて表情らしい表情を見せたが……何だか可愛い。無表情だと冷たい感じがしたが、表情が表れると幼い感じがして可愛さがあらわれる。
 もっと彼女のことを知りたい。名前を聞きたい。言葉を交わしてみたい。そう思った倫太朗は中庭へ向け、一歩を踏み出した。だが、少女は踵を返し、走り去ってしまって……追いかけへんと……! 思い立つと同時に足を踏み出そうとした直後。

「香山、何をしていんだい!?」

 がすんと、いつの間にやら背後に来ていたらしい悪友の声と、鋭い蹴りによって阻まれてしまう。

「ちょっ、何をするのだマリア!」

 倫太朗は反射的に振り返って、ハッとして視線を戻す。既に彼女の姿はなかった。後に残るのは秋色に染まる中庭だけ……。名も分からないまま彼女は姿を消してしまった。けど、倫太朗の目にはハッキリと彼女の姿が焼き付いている。
 ――また、彼女に逢いたい。今度こそ名前を聞いて、言葉を交わしてみたい。ささやかだが強い想い。
 生まれて初めて香山倫太朗は――(するりと、こころはうばわれた)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...