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1章 We love, because He first loved us.
名前を呼んで
見間違えかと思った。
呼び出しなんて絶対ありえないと思っていた部屋番号がピカッと赤く光っている。
603号室…
ケイくんからだ!
珍しくナースコールが鳴ったので早足で向かう。
何かあったのか、少し不安を抱えて声をかけた。
「失礼します!
ケイくん、どうしたの?」
チラッ「……」
おぉ…やっぱり無視される感じですか…。
ナースコールを押してくれたはいいものの、呼びかけにも無視するから、体調が悪いのかと思ってきたんだけど…機嫌の方が悪いみたいだった。
ユイトやソウタと違って、物がほとんどないケイくんのベッド周りは殺風景と言えるほどシンプル。
そこに携帯だけがポンと投げ出されていて、誰かと連絡を取っていたのか通知が来ていた。
「……ねぇ、」
「!」
「なに、どうしたの??」
嬉しいきもちが勢い余って、つい食い気味な返事に眉根を顰めるケイくん。
何か逡巡した後、濁すように「やっぱりいい」と突き放すように言われてしまった。
機嫌も取れないヤツは不合格だと言うように、さっさと帰れと手を振って布団に潜ってしまう。
「せっかく来たのにそれは無いよー…
何かあった?教えてほしいな」
そっぽを向いたまま布団からはみ出た頭に呼びかける。
絶対怒るよなと思いつつ、頭を撫でてみたい欲求を握りしめて返事を待った。
「……」
ダメかぁ…ケイくんの初めての呼び出しに全力で答えたかったのに。
「はぁ…わかった。何かあったらまた押してね」
トボトボ戻ろうとすると後ろからボソッと言う声が聞こえる。
ん?
今、何か聞こえた?
気のせいかとそのまま部屋を出て行こうとすると、今度はちゃんと聞こえる声で
「ねぇ、… 待って。」
「ケイくん?」
──────────────────────
「はぁ……」
ポチポチと入力作業中、気を抜くと漏れ出るため息。
あー…ダメダメ!集中しないと。
「さっきからどうしたんだよ、佐久眞先生。」
隣で記録を書く予定だったはずの天満先生は、やる気がなさそうに椅子にだらっと腰掛け、携帯をいじってサボっていた。
オレが記録を書く前からPCを陣取っていたのに、まだ気が乗らないらしく、娯楽代わりにオレの話を聞いてくれるようだ。
「天満先生…ケイくんのことなんですけど、」
「まぁ、悩むって言ったらそうだろうな笑」
何があったんだよ、と、どうせ大したことではないとわかっていても聞いてくれる優しい先輩。
「ケイくんがオレの名前を呼んでくれないんですよ。」
「へー?そうだっけ?」
画面をスクロールしながらの、微妙に関心の薄い反応だけど気にせず話す。
その方が言いやすいし。
「昨日呼び出しがあったんで行ってきたんです。
そしたら、明日外出したいって突然言ってきたんですよ。」
「珍しいな。ていうか、ナースコール押したんだ。」
そうなんです!
すごいでしょ~なんて少し脱線しながら、話を続けた。
「どこ行くのって聞いても何も言わないんです。
『一応外出はできるけど、時間と場所によっては付き添いが必要になるよ』って言ったんですけど、理由も何も言ってくれなくて。
言えないならとりあえず俺がついていくって言ったら、お前はイヤだって…泣」
思い出すとショックが蘇ってくる。
お前って…そんな悪い言葉、ユイトあたりから教えてもらったんだろうけど使ってほしくないよ。
「遊びに行くとかならわからなくも無いけど。」
「それなら遊びに行くって言えばいいじゃないですかぁ…」
「マジで理由なし?」
「はい」
息抜きかなぁとか、たまには一人になりたいよねって思うけど、昨日の感じだとそうは見えなかった。
「…前科持ちだしな笑
まあ、それは許可は出せないとして、名前呼んでくれない方が来んなって拒否されるよりマシじゃないの?」
「両方イヤですよ!」
話しているうちに熱が入る。
溜め込んでいた鬱憤を晴すように、渦巻いていた感情はもう止められなかった。
完全にPCに入力する手は止まっていたし、天満先生もながら聞きをやめて真剣に聞いていた。
「今までのことを思いかえしてみれば、これまで一度も名前を呼ばれてないってことに気づいたんです。
オレ、結構ショックで…
繕西先生はちゃんと呼んでいるのに、なんでオレだけ…って。
なんか若干、下に見られている気もするし…」
「そんなこと笑
それなら俺もだし、國吉先生もじゃないか?」
「こんなに頑張っているのに…泣」
「おいおい、泣くなよ笑
報われてないだけだって。」
「まぁ、繕西先生は一番上だし、事情も知ってるだろうから呼びやすいんじゃないか?」
「そんなのわかってますよ…」
目に滲んだ涙はもう大人だからこぼれないけれど、大袈裟に落ち込んでみて、天満先生が慰めてくれるのを期待する。
「単純に信頼されてないってことか、海外育ちだからそういうとこわからないだけかもよ。
そんなに気すんなって。な?」
医者という立場、先生と呼ばれることはよくある。
それに甘えて天狗になっているわけじゃ無い。
それでも、ケイくんとはまだ1ヶ月しか経っていないわけだけど、他の子と比べても明らかに壁があるのだ。
繕西先生との一件で頼られたと思っていたのに、全然そんなことなくて内心ショックを隠しきれない。
結局外出は出来ないと、事情を話した國吉先生に突っぱねられ『じゃあ、繕西先生は?』とまさかの人選に、再び頭を殴られたような衝撃を感じた。
「繕西先生は忙しい。他当たって」
國吉先生がぶっきらぼうに言い放つと、ケイくんは黙ってしまった。
やっぱ俺じゃダメなんだ…
また涙が目の端を滲ませる。
顔に力を入れて阻止しているのを、横で見ていた天満先生は肩を震わせて笑いを堪えていた。
どうしても佐久眞先生と呼んでほしい!
あの無愛想で生意気なケイくんに呼んでもらえたら、もっと絆が強くなるはず。
ついでに笑っているところも見たいな。
好き嫌いせずご飯も食べて欲しいし、相談とかあれば一番に乗ってあげたい。
なんでもしてあげたいって思うのは、ケイくんが可愛いからなんだろうか。
対して庇護欲をくすぐるわけでもないのにどうしてケイくんだけそう思うんだろう?
他の子にもそう思う時があるけど、それはSubで、患者だから。こんなに強く思うことはないし、理由ははっきりしてる。
素直な疑問を天満先生に言うと
「執着とか?こだわりみたいなもん?Domっぽいじゃん。そういうのいいね」なんて言ってくる。
Domっぽいのか。
確かに天満先生、自分の担当の子に誘導してまで、させたいことやらせるし、言わせてる。
出来なかったらすぐお仕置きしてるし、この前なんかユイトを泣かせてまで大声でおねだりさせてた。
ヤバいDomだな、天満先生って。
…そうだ、ケイくんにも言わせるようにプレイに持っていけばいい。
具体的にどうするかは天満先生には相談しないでおこう。
その方が賢明な気がする…。
感想 3
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