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冒険者学校入学編

49.夜一

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「僕が求めている武器に黒鋼くろがねがピッタリなのは分かったのですが、ハンマーのような嵩張る武器はちょっと…… 黒鋼より強度が落ちてもいいので、できれば刀か剣がいいんです」
「ふぉっふぉ…… 実は今、この黒鋼の活用方法を研究してるとこなんじゃ。そして最近ようやく、超高温ミスリルカッターでなんとか切断加工ができるようになったのじゃ! それで作ったのが、この黒鋼の板じゃ。これをそれっぽく形を整えて柄を作れば、ほとんど斬れんが一応刀っぽい見た目にはなる。実際はただの金属の板みたいなもんじゃがな。どうじゃ?」

 ドヤ顔で黒鋼の板を見せつけてくるガンテツさん。
 黒鋼を板状に加工できたというだけで凄いのだろうが、柄を付けてもどう見てもタダの板である……
 しかし、確かに強度が高くて斬れないという条件は見事に満たしている。

「ちなみに、黒鋼と他の金属で合金を作ったりはしたことあります?」
「ぬっ? 合金…… だと……!? その発想はなかったのう…… いや、しかし……」

 ガンテツさんはぶつぶつと独り言を呟きながら自分の世界に入り込んでしまった。

 黒鋼を『洞察』した時に、他の金属との親和性が高いという情報があった。
 そこから、黒鋼を他の金属と合わせることで強度を増させるような活用方法があるのではないかと思って聞いてみたのだ。

「やってみる価値はありそうじゃ…… しかし、すぐには成果はでんじゃろうから、今回の武器に使うのは難しいぞ」
「そうですよね。今回は、先程ご提案いただいた黒鋼で刀を作っていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、任せろ!! 世界初の黒鋼刀になるじゃろうな! 腕がなるわい! あ、持ってみて分かったと思うがかなり重くなるんじゃが良いかの?」
「はい、重さは気にしないでください」

 黒鋼は色々と研究の余地がありそうだ。そこに目をつけていたガンテツさんは流石だ。

「もう既にベースはできていて形状加工だけじゃから、今日中にはできると思うぞ。そうじゃなぁ、夕方以降に受け取りに来てくれれば良いじゃろ」
「分かりました、ありがとうございます。お代はおいくらですか?」
「今回は試作品みたいなもんじゃからなぁ…… そうじゃ、この武器を使って使い心地や情報をこちらに流してくれんかの? あと定期的に武器のチェックもしたいの…… それに協力してくれれば、武器自体は無料で構わん」
「僕は助かりますが…… せめて原価分だけでもお支払いを……」
「あーあー構わん構わん。こんな斬れ味皆無の黒鋼の武器をテストしてくれる物好きなんかおらんからな。本当に儂としても助かるんじゃ」
「……分かりました。ありがとうございます」

 ガンテツさんに頭を下げる。
 確かにテスターということもあるが、恐らく両親の子どもだからサービスしてくれてるってのもあるんだと思う。



 ガンテツさんに刀の製作を依頼し、エアさんと街をブラブラする。
 エアさんにつきあい、装飾品店や服飾店でウインドウショッピングをする。
 戦いに身を置く冒険者なのでそういう物を買うことはないが、見るのは好きなのだそうだ。やっぱり女の子だ。
 色々と店を巡り足に疲労が溜まってきたため、食事処で休憩をとった。

「エアさん、今日は鍛冶屋を紹介していただいて、ありがとうございました。お陰で良い武器ができそうです」
「いいのよ、もともと私も行こうと思ってたし。街を見るのも楽しかったしね。私の実家は山の中の田舎だから、都会の店に一人で入るのはちょっと怖かったの」
「分かりますそれ! 僕も田舎村出身なので、ちょっと気後れしちゃいますよね」
「そうなのよね! ……二人とも田舎者なのに二人なら入れるってのもちょっと可笑しいわね」

 二人で田舎トークで盛り上がる。
 僕も相当田舎だと思っていたけど、エアさんは本当に森の中に住んでいたようだ。まぁエルフだし、森の中に集落があるのはテンプレですかね。
 そうこうしている内にあっという間に日が落ちてきた。

「さて、そろそろ鍛冶屋で受け取って帰りましょうか」
「そうですね。その前に、今日のお礼を。大したものではないのですが……」

 そういってエアさんに小箱を渡す。
 エアさんは驚きに目を見張く。

「ちょっ!? いつの間にこんなもの…… あ、ありがと。開けてもいいかしら?」
「どうぞ、開けてください」

 エアさんが箱を開けると、シルバーのバングルが顔を覗かせる。
 シンプルなバングルに小柄な緑色の魔石が一つ埋め込まれている。
 エアさんがじーっと見ていたので、欲しいのかなと思ってこっそり買っておいたものだ。

「『風障壁』の魔術が込められた魔石が埋め込まれているそうです。いざという時に一度だけ自動発動するものです。そんなに強力なものではありませんが……」
「これ…… あ、ありがと……」

 エアさんはバングルを箱から取り出して、腕にはめた。
 それを眺めて、頬を染めている。

「こちらこそ、今日一日付き合っていただいてありがとうございました」

 二人で笑い合い、店を出る。



 鍛冶屋に着くと、ガンテツさんが待ち構えていた。

「おう、できとるぞ。初の黒鋼刀、『夜一よいち』じゃ」

 黒い鞘から『夜一』を抜く。
 刀のサイズ以上の重さが手にかかる。同サイズの刀の二、三倍以上の重さがある。腕力的には全く問題ないからいいけど。

 刀身は黒鋼そのままで、吸い込まれるような黒である。
 形状だけは刀であるが、刃を見ると斬れ味が皆無であることが伺える。
 うん、僕の求めている性能にピッタリだ。

「裏に試用場があるから使ってみると良い。恐らく斬れんが」
「はい、ちょっと振ってみたいです」

 鍛冶屋の裏口から出ると、庭に巻藁が設置してあった。
 『夜一』を腰に下げ、巻藁の前で構える。

「ふっ!!」

 巻藁に抜刀斬りを放つ。
 腕に大きな抵抗が伝わり、やはり斬れ味はないのだと再確認できる。

 巻藁はへし折れ、上下にちぎれていた。

「……のう、これ、斬れ味がなくても食らったら死なないかの?」
「……私の剣で打ち合ったら、剣がへし折られそうね」

「んー…… ムスケルさんのパンチなら巻藁は粉々になってそうですし、彼らと打ち合うにはこれくらいの強度があってちょうどいいと思います。ガンテツさん、良い刀を作っていただき、ありがとうございます」
「これを刀と読んでいいかは微妙じゃがな。黒鋼と他金属の合金の件、もし上手く言ったらまた試作品を使ってみてもらいたいんじゃが、どうかの?」
「はい! 是非使わせてください!」
「うむ。できたら学園に連絡をいれよう。ではの、たまには武器の整備にくるんじゃぞ」
「分かりました。ありがとうございました」

 新たな刀『夜一』を携え、足取り軽く寮に帰るのであった。
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