平穏な生活があれば私はもう満足です。

火あぶりメロン

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55 怒られた

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王都を離れ、魔の森の上空を飛ぶ頃には、周囲はすっかり真っ暗だった。幸い、方向は既に固定されていて、微力ですが、月の光も手伝ってくれる。まっすぐ飛べば家に帰れるはずだ――あ、もう神竜様が見えた。

「ただいま、神竜様。ごめんね、勇者たちに絡まれて遅くなっちゃった。」

勇者の話を聞いて、普段俺を無視している神竜様がこちらを向いた。あら~、まさか昔の勇者たちも神竜様にちょっかいを出したのか?俺は明かりを灯し、料理をしながら神竜様に今日あったことを話した。一応、これはトイエリさんの命令だと事前に伝えておいた。話が終わると、この子はいつも通り再び眠りについた。

ふむふむ、そっか、お疲れ様。勇者ざまぁね。そっかそっか、ざまぁですね。うんうん。勝手に神竜様のセリフを妄想するのも結構楽しい。

王城の食材は質が高い。でも俺の舌ではその違いが全く分からない。料理のスキルは、この半年の自炊生活でかなり上達したと思う。少なくとも男料理以外にも、日本の料理っぽいものがいくつか作れるようになった。食材の違いが全く分からないのはやっぱり、この姫様の舌の問題だよね、うん。

夕飯を食べ終わったら、ようやくお風呂の時間だ。決闘で結構動き……したっけ?あの決闘、俺はただ前に歩いただけのような気がするなぁ……まぁいいや。汗をたくさんかいたし、いい運動だよね。特に最後、小勇者へのダイレクトアタックは気持ち良かった。

元々今日はマリアンヌを連れて来る予定だったけど、仕方ない。来週にしよう……でも来週は貴族のパーティーか。あの重そうなドレスを着ないといけないのか。

流石にこの世界に来てからずっと女装している、慣れはしているけど、パーティードレスは未だにコスプレみたいな感じで恥ずかしい。帝国にいた時はずっと着ていたんじゃないかって?……あの時はメイドさんしか会えなかったし、それにずっと脱出方法や魔法の練習、おまけにお嬢様風を真似していたから、気にする余裕がなかった。ノーカウントだよね。……あ、お礼として王様たちに渡す予定の茶葉を渡すのを忘れてた。来週渡そう。

何だか今晩はいつも以上に寒い。もうすぐ正月かな?魔法で周囲の空気の温度を上げ、自作のカレンダーを見る。もうすぐ元の世界のクリスマスだ。もうこんな時期か。この時期、会社は忙しいよね。……これをさて置き、早速寝て、椿ちゃんの膝枕を堪能しよう!膝枕は漫画やゲーム、アニメでよく見たけど、どんな感じなんだろう。楽しみ~~!



翌日、例の水玉の痛みで目が覚めた………。魔力を放出し、周囲の空気を温暖化させる。何の夢を見たんだっけ?起きた時には忘れてたよ。

トイエリさん……約束と違うじゃないか!!でもまぁ、彼女も仕事があるから仕方ない。呼ばれる前に楽しみはお預けだ。

先週鉱石を買わなかったので、アクセサリーは作れない。畑作業が終わったらまた暇になる。暇なので新しい下着を作り始めた。こういうのをたくさん作っても別に問題はない。下着作りには結構慣れてきたし、試しに服でも作ってみようかな。ゆっくり作ればいい時間潰しになるし、誰にも見せないから元の世界の服を作ってもいいよね。昔、とある派遣社員がゲームのパクリ装備を既に作ったし。自宅用では大丈夫でしょう、今度王都に行く時は色んな生地を買っちゃおう。


結局この一週間も膝枕は叶わなかった。トイエリさん、忙しいみたいだね。まぁ、それよりも――やっと来たよ!今日は全く楽しめない貴族のパーティーの日だ!ワーイ~タノシミ!……なんて思えるわけない。

王妃様がドレスは用意すると言っていたので、いつもの学園の制服で行くことにした。畑で薬草を採り、神竜様に挨拶をしてから出発する。

「神竜様、この前言った通り、今日は王様から勇者に勝ったお祝いパーティーなので、城で一泊します。明日、買い出しの後できるだけ早く帰りますね。」

いつものように王都へ向かう。そういえば、フードなしで王都を歩くのは今日が初めてではないか?!ヤバい、ちょっと緊張してきた。西門で並んでいると、前後のおじさんとお姉さんに話しかけられた。

お姉さんに「髪を触らせて」と言われたが、流石にそれは無理。知らない人に髪を触られるのは怖い。向こうも謝ってくれたので、この話はそれで終了。そんな感じで西門に到着した。

「身分書をお願いします。」
「はい。」
「アイリスさん、こんにちは!俺のこと覚えてます?」
「いいえ。」
「先週話したマークですよ。」
「いいえ、覚えていません。」
「俺はジークだ!よろしく!」
「僕はロビンだ!」
「いいえ、覚えていません。もう行っていいですか?」
「はい、どうぞごゆっくり。」

西門の衛兵たちってこんなに情熱的だったっけ?まぁ~あの決闘が未だに話題になっているんだろうね。仕方ない、仕方ない。それにしても、冒険者ギルドに向かう途中でも……。

「アイリスちゃん、おはよう!」
「おはようございます。」
「アイリスだ!本物だ!俺はルース!」
「いいえ、覚えていません。」
「アイリスちゃん、またうちで買い物してね。」
「いいですよ、安くしてくださいね。」

何だろう、急にみんな挨拶しに来る。勇者って本当に嫌われてたんだな。まぁ、俺の髪はインパクトが強いから、一目見たら忘れられない自信はある。今日は初日だから、みんなもそのうち慣れるだろう。我慢、我慢。そんな感じで冒険者ギルドに到着した。

中に入ると、皆の視線が一斉に俺に集まった。さすがに俺も若干引いたけど、無視して食堂で朝ご飯を食べることにした……が、俺が座ると、知らない男性冒険者たちが周りに集まってきて、一緒に朝ご飯を食べ始めた。

「こんにちは、アイリスちゃん。朝は何を食べる?」
「こんにちは……です。」
「え?!これ外語?」
「ね~アイリスちゃん、かわいいですね。恋人はいるの?」
「……バク…バク。」
「あんたら嫌われるぜ。アイリスちゃん、俺の筋肉を見てみろ!」
「……バク…バク。」
「アイリス!」「アイリスちゃん!」

よし、食べ終わったら、すぐに薬草を売ろう。周りの蝿がうるさい。

「おはようございます、マリアンヌ。これはいつもの薬草です。それと先週の……うん?どうしたの?」

マリアンヌはカウンター越しに俺の頬を力いっぱいつねった。痛い!

い~は~い~ほ~痛いよ。」
「そんな条件で決闘を受けたあなたへの罰です。ついでに、これは皆に心配させた罰でもあります。」
ほ~へ~は~は~い~ごめんなさいほ~へ~は~は~い~ごめんなさい!」

マリアンヌは手を放した。ガチで力いっぱいつねった……やるな。

「言い訳を話しなさい。」
「それは仕方ないですよ。がそう命令したから、あの勇者たちがまさかあんな要求を出すなんて、考えもしなかったわ。」
「上って……あの上?!」
「上よ、上。」

俺は指で上を指した。

「そうですか。確かに、それなら受けないとダメですよね。」
「そうです。まさか三人の嫁たちの前であんな変態要求をするなんて、王様や他の貴族たちも引いてましたよ。」
「でも勝てて良かったわ。次はないようにね。」
「ごめんなさい。」


しーーーーーーん。


ん?朝の冒険者ギルドってこんなに静かだったっけ。周りを見ると、全員がこの茶番を見ている。いや~恥ずかしいね。

「皆様、お騒がせして申し訳ありません。」
「お騒がせして申し訳ありません。」

マリアンヌと俺は反射的に謝った。その後、ギルドはいつも通りの雰囲気に戻った。

「とにかく、次はそんな条件を受けないように。あなたなら別の方法で解決できますよね。分かったか!」
「かしこまりました!」
「宜しい……では先週のお金をまとめて精算しますね。」
「マリアンヌ、これから城に行かないとダメなので、私も色々話したいけど、お金は明日取りに来ます。」
「そうですか。あ!確かに今晩は城でパーティーがあるわよね。ギルマスも招待されたわ。」
「なるほど。では、マリアンヌもギルマスの嫁として一緒に行くんですか?」
「よ!嫁ではないわ!……わたし、今日は行かないの。念のためね。」

あ、そっか。俺の外見は結構変わったから平気だけど、マリアンヌが変装したとしても、貴族がいる場所はできる限り避けるべきだよね。

「なるほど。ごめんなさい、行かない方がいいですね。私は今晩城で一泊して、明日また来ます。ちなみに出張の件は大丈夫ですか?」
「はい、副ギルマスに許可を出しました。あなたが明日お金を取りに来る時、一緒に出発できます。」
「了解しました。明日お迎えに来ますね。」
「はい、お願いします。」

朝のギルドは忙しい。これ以上マリアンヌの仕事を邪魔するのは良くない。それに王妃様が待っていると思うので、早めに城に向かおう。


------------------------------------


騎士団寮経由で王城に向かい、メイドさんに案内されたのは見たことのない豪華な部屋。こんな立派な扉……ここって客室じゃないよね?

「王妃様、アイリス様が到着いたしました。」
『入って。』

その部屋は……王妃様の私室だった!帝国の姫様の部屋よりも広い!この部屋、何畳あるんだ?!めちゃくちゃ豪華で、まるでタワーマンションの最上階の一室に入ったような気分だ。キッチン以外の設備は全て揃っているし、暖炉の魔道具も2つある。温かくて居心地が良すぎる。もしここにネット環境があれば、最高の引きこもり生活が送れそうだ。

「お、おはようございます、王妃様。」
「おはよう。ようやく来たわね、アイリス。待っていたわ。」
「お待たせして申し訳ありません。」
「良いのよ、気にしないで。さぁさぁ、こちらへ。」

一応、ここにはメイドさんが数人いるから、いつものように気楽な会話は難しい。しかし、王妃様は何故かテンションが高い。そして、周りにはたくさんのドレスが……ま、まさか……。

「あ、あの、これは。」
「どれがあなたに似合うか分からないから、似合いそうなドレスを全部持ってきましたのよ。わたくし、男の子が2人いるから、ずっと娘が欲しかったの。お腹の子も女の子だったらいいなって思っているの。なんだかあなたを見ると娘がいるみたいで、とても嬉しいの。」

や、やられた!着せ替え人形にされる!

でも、まさか王妃様が太ったのではなく妊娠していたとは。ドレスのデザインが上手すぎてお腹を完璧に隠している。この年齢での出産は大変じゃない?……まぁ仕方ない。着せ替え人形になってやるか。

「アイリスは可愛いから、どれも似合いそう。」
「は、はは。あ、ありがとうございます。ドレスを着る経験がほとんどないので、お手柔らかにお願いします。」
「では、先にお風呂に入りましょうか。」

メイドたちに手慣れた様子で、今着ている服を一瞬で剥ぎ取られ、皆の前で裸にされてしまった。

「え?いやーーー!」

胸と大事な部分を隠しながら、低くしゃがむ。俺は元の世界でも銭湯に行ったことがなく、ずっと童貞を守ってきたため、他人に裸を見られたこともない!帝国にいるときはこの身体もまだ他人感が強くて、マリアンヌたちがお風呂を手伝うときは何とも思わなかったが、今はもうこの身体に馴染んでしまっている。知らない人に見られると、とても恥ずかしい。

「あらまぁ~、アイリスちゃんは意外と綺麗なお胸がありますわね。」

大きな王妃様にそう言われても、嫌味にしか感じられない!それに俺をしれっとちゃん付けしたね、この人!メイドたちはしゃがんだ俺にタオルを渡し、俺も思わず涙を流しながらお風呂場へと連れて行かれた。全身をすみずみまで洗われ、やっとお風呂が終わった。

タオルを巻いて、再び王妃様の前に待機した…が、しかし、ちょっと変だ。ソファに座っている王妃様は、真剣な表情で俺を見つめている。

(え?王妃様の雰囲気がいつもと違う。俺、何かやらかしたのか?!裸にされたのはこっちなのに?)

「アイリスちゃん、これは何ですか?」
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