狭間の祈り手 -聖王大陸戦記 Ⅰ-

ムロ☆キング

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一章 影に潜むもの

幕間・白き影

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 手許の蝋燭が放つ弱々しい明り。それを頼りに石畳の廊下を進む。地下の空気は涼しいが通路は狭く、圧迫感がある。昼間に見上げた、雲一つない晴れ模様が恋しくなる。

 真っすぐに道を進む。すると最奥に設けられた、とある部屋へたどり着く。その戸を五度、トン、トン、トトン、トン、トトン……と独特な拍子で叩く。戸が内側から開かれ、同時に素早く潜り込む。

「おお。来たな。今回の任務はご苦労だった。多少、想定外の出来事はあったが、無事に終えられて何よりだった」
 
 座る椅子が小さく見える大男に促され、木製の椅子に腰をおろすと、机を挟んで向き合う形になる。この部屋はほかに何もない。揺れる蝋燭の明かりだけが、二人分の影を作り出している。

「で、どうだった。見つかったか」

「いえ。やはり何も見つかりませんでした」

暗殺者やつらが持ち去ったと思うか?」

「見習いの話が事実なら、大きな木箱ひとつ分の量です。いくらなんでも邪魔でしょう。私だったら、逃げる時には捨てていきます」

 眼鏡の位置を指で直しながら、そう答える。

「同意見だ。回収は諦めよう。で、入手経路については?」

「傭兵組合に出された依頼によると、コールバインは学術都市フォッセンブルグに向かうことになっていました。これは見習いの話とも一致してますから、間違いないでしょう。取引の品となった『ベラドゥンナの花』の出どころは、あそこで間違いない」

 屈むようにして話を聞いていた男は、背もたれに寄りかかり、天を仰ぐ。

「秘術士の総本山。神秘を追い求める者たちの学び舎、か。『老人たち』の協力を得ることは、難しかろうな」

「しかし、危険な幻覚作用を起こす薬剤の材料です。それにあの花が自生しているという情報自体、何年もない。効能だって公表されていないんです。それを一介の行商人が入手して、製法まで知っていた。何故です」

「知っているのは、フランチェスカ最高司教くらいか。医療用に使われている植物だから、彼女が治める領地内で栽培、管理しているわけだが」

「彼女が情報を?」

「それはない。何の得にもならんからな。地位も名誉も、富すらも彼女には足りている。そもそも、そんなモノを求める人間じゃあない。見習いも、宿に待機していたから直接取引は見ていない。相手が誰かもわからないそうだ」

「……最高司教から提言があった際に、王からの布告ができていれば……」

「王は賢きお方だ。必要性は見抜かれていた。色々とご苦労があったのだろう」

「教会内だけでなく、王政にも派閥が? この状況で何を考えているのか……王の貴きお考えを察することもできぬとは」

「ここで文句を言っても仕方あるまい。暗殺者アサシンどもは取り逃がしてしまったし、目的も分からん。誰が商人コールバインを殺したのかもな。まずは、地道に手がかりを追うしかないだろう。王には儂から話しておく」

「では学術都市での調査ですか。早速、あの三人を向かわせましょう」

「王都外で自由に活動するとなれば、あやつらしか頼れん。だが先約があってな」

「先約?」

「そう訝しむな。新任助祭研修の話は聞いてるだろう。あれに参加してもらわなければならん。今回は特殊な事情があってな。信頼できる人間に頼みたい。それを終えるまでは、王都内の調査を進めていくしかないな」

 わかりました。そう返事をして腰を上げた矢先、手で制止される。

「そういえば、あの女司祭はどう思う?」

 先程までの表情とは違い、笑みが浮かんでいる。面白がっているような眼だ。

「たしか、カンナという名だったろ」

「表向き探求派である、フランチェスカ最高司教の教え子。その割には、といえばいいのか、納得すればいいのか分かりませんが、感情が先行する人種ですね。あんまり好ましくはありません」

 あの司祭が発現させた閃光の秘術。あれを騎士たちは合図と勘違いして突入していったのだ。偶然の一致とはいえ、一歩間違えれば計画が潰れる。まったく迷惑な話だ。

「せっかくの段取りが無駄になるところでした」

「まあ、お前さんが使用人に扮して潜り込んだのだしな。気持ちは分からんでもない。しかし何事も、計画通りには進まんものだ。それに、ああいう人間が窮地を打破するきっかけになるもんだ。上手く手綱を握ることは、お前さんの成長にも繋がる」

 言われれば、そういう考え方もあるかとは思うが、納得はできない。

「調査はこちらでもやっておく。また何かわかればお前たちに連絡しよう。王の『白き影』にな」

「よろしくお願いします。それではこれで……。失礼します。騎士団長」
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