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第1部 ホワイティア支部改革編
【第8話】「倉庫の後始末と、見えたほころび」
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「よーし、最後の棚まで片付いたな……」
昼下がりの陽が差し込む倉庫で、3人は肩で息をしながら立ち尽くしていた。
戦いの余波で穴だらけになった床を埋め、雑然と積み上げられていた木箱を分解し、使える備品を選り分けて、一覧表にまとめる。ホコリまみれの布や錆びた武器の残骸も山ほどあった。
「まさか、冒険者になって最初の大仕事が“ゴミの山との戦い”になるとはね……」
アゼリアが腰に手を当てて、わざとらしくため息をつく。
「筋肉痛、明日が怖いです……」
「明日だけで済むといいけどな……」
──それでも、終わった。
ゴルディが支部の入口で待っていて、3人の顔を見るなり、ぱっと笑った。
「おお、戻ったか! お疲れお疲れ! 倉庫、すごかったろ?」
「ホコリと粘液と、あと……なんかよくわからないキノコが生えてました」
「キノコ!? ま、まぁ、それは後で処理しとく……たぶん」
「それで……その、報酬はどこで?」
恐る恐る切り出すと、ゴルディは一瞬、表情を曇らせた。
「……支部長から直接受け取ってくれ。ただ……まぁ、言わなくても分かると思うけど……」
その言葉が不穏すぎたが、顔を見合わせて、意を決して支部長室のある階段を上がった。
──ドアの向こうから、聞こえてくる。
「ええ、ええ。その件はよろしくお願いしますとも」
「もちろんです。では後ほど……」
聞こえたのは、マルベックの馴れ馴れしい声と、誰かと取り引きしている気配だった。
──悪い予感しかしない。
「チッ。貴様らか。何用だ」
「何って、任務終わったんで、報酬を……」
依頼書を掲げて見せると、マルベックはふんと鼻を鳴らし、机の引き出しから硬貨を数枚、乱暴に放り投げた。
──チャリン、チャリン。
「10Z……だけ?」
「え、待って!? ちょっと! これだけ!? パン一個も買えないって!?」
アゼリアが叫ぶ。ミロリーは、手の中の小さな硬貨を見つめながら声を漏らした。
「少ない……です……」
「元々の報酬、500Zって聞いてたんだけど……」
「当然だ。貴様らは研修中だ。それに、登録費、保険費、宿代──それらを差し引いた。何も問題はない」
「問題しかないだろうが!!」
思わず声を荒げた。アゼリアの表情も、怒りで真っ赤だ。
「ふざけないでよ! 一日中、埃まみれで働いたのよ!? あれでこれ!? どこがまともな報酬よ!!」
「わ、私たち、頑張ったのに……」
「文句があるなら辞めればいい。……だが」
マルベックの目が鋭く細まる。
「ここを出ていった者は、“裏切り者”としてブラックリスト入りだ。他のギルドも、冒険者登録を認めない。──お前たちは、二度と冒険者にはなれん」
──脅しかよ。
この支部は、最初からそういう仕組みで回ってる。
最初から労働者を搾取する前提で作られてる。文句を言えば潰す、逃げようとすれば業界から締め出す。
まるで──前の世界のブラック企業と同じじゃないか。
「……次は、ちゃんと交渉します」
知久はそう言って、硬貨を一枚だけ受け取り、部屋を出た。
アゼリアとミロリーも、後ろに続く。
廊下に出た瞬間、誰もが言葉を失っていた。
……だけど、もう黙っているつもりはなかった。
「働いたら、働いた分だけ報酬がもらえる──そんな“当たり前”を、俺たちで作るしかない」
そう言うと、2人が目を見開いた。
「ふ、ふーん? べ、別にあんたが言う前から思ってたし? タダ働きなんてまっぴらだから!」
「わ、私も……お金、ちゃんと稼いで仕送りしたいんです。田舎の家族のために……」
──小さいけれど、確かな決意だった。
前世で失ったものを、今度こそ守るために。
この場所を、変えてやる。
昼下がりの陽が差し込む倉庫で、3人は肩で息をしながら立ち尽くしていた。
戦いの余波で穴だらけになった床を埋め、雑然と積み上げられていた木箱を分解し、使える備品を選り分けて、一覧表にまとめる。ホコリまみれの布や錆びた武器の残骸も山ほどあった。
「まさか、冒険者になって最初の大仕事が“ゴミの山との戦い”になるとはね……」
アゼリアが腰に手を当てて、わざとらしくため息をつく。
「筋肉痛、明日が怖いです……」
「明日だけで済むといいけどな……」
──それでも、終わった。
ゴルディが支部の入口で待っていて、3人の顔を見るなり、ぱっと笑った。
「おお、戻ったか! お疲れお疲れ! 倉庫、すごかったろ?」
「ホコリと粘液と、あと……なんかよくわからないキノコが生えてました」
「キノコ!? ま、まぁ、それは後で処理しとく……たぶん」
「それで……その、報酬はどこで?」
恐る恐る切り出すと、ゴルディは一瞬、表情を曇らせた。
「……支部長から直接受け取ってくれ。ただ……まぁ、言わなくても分かると思うけど……」
その言葉が不穏すぎたが、顔を見合わせて、意を決して支部長室のある階段を上がった。
──ドアの向こうから、聞こえてくる。
「ええ、ええ。その件はよろしくお願いしますとも」
「もちろんです。では後ほど……」
聞こえたのは、マルベックの馴れ馴れしい声と、誰かと取り引きしている気配だった。
──悪い予感しかしない。
「チッ。貴様らか。何用だ」
「何って、任務終わったんで、報酬を……」
依頼書を掲げて見せると、マルベックはふんと鼻を鳴らし、机の引き出しから硬貨を数枚、乱暴に放り投げた。
──チャリン、チャリン。
「10Z……だけ?」
「え、待って!? ちょっと! これだけ!? パン一個も買えないって!?」
アゼリアが叫ぶ。ミロリーは、手の中の小さな硬貨を見つめながら声を漏らした。
「少ない……です……」
「元々の報酬、500Zって聞いてたんだけど……」
「当然だ。貴様らは研修中だ。それに、登録費、保険費、宿代──それらを差し引いた。何も問題はない」
「問題しかないだろうが!!」
思わず声を荒げた。アゼリアの表情も、怒りで真っ赤だ。
「ふざけないでよ! 一日中、埃まみれで働いたのよ!? あれでこれ!? どこがまともな報酬よ!!」
「わ、私たち、頑張ったのに……」
「文句があるなら辞めればいい。……だが」
マルベックの目が鋭く細まる。
「ここを出ていった者は、“裏切り者”としてブラックリスト入りだ。他のギルドも、冒険者登録を認めない。──お前たちは、二度と冒険者にはなれん」
──脅しかよ。
この支部は、最初からそういう仕組みで回ってる。
最初から労働者を搾取する前提で作られてる。文句を言えば潰す、逃げようとすれば業界から締め出す。
まるで──前の世界のブラック企業と同じじゃないか。
「……次は、ちゃんと交渉します」
知久はそう言って、硬貨を一枚だけ受け取り、部屋を出た。
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廊下に出た瞬間、誰もが言葉を失っていた。
……だけど、もう黙っているつもりはなかった。
「働いたら、働いた分だけ報酬がもらえる──そんな“当たり前”を、俺たちで作るしかない」
そう言うと、2人が目を見開いた。
「ふ、ふーん? べ、別にあんたが言う前から思ってたし? タダ働きなんてまっぴらだから!」
「わ、私も……お金、ちゃんと稼いで仕送りしたいんです。田舎の家族のために……」
──小さいけれど、確かな決意だった。
前世で失ったものを、今度こそ守るために。
この場所を、変えてやる。
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