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第1部 ホワイティア支部改革編
【第20話】「動き出す歯車」
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ホワイティア支部の空気が、確かに変わり始めていた。
ゴルディも、ミロリーも、アゼリアも、そしてトキワも――
皆が、それぞれのやり方で、この支部を変えようとしている。
かつては傍観していたギルドの他のメンバーたちも、今では密かに俺たちの動きを支持し、陰ながら協力してくれる者が増えてきた。
「……これが“うねり”ってやつか」
知久は書庫の隅で、帳簿のコピーを睨みつけながら呟いた。
横領、不正会計、不自然な経費処理……
数字の羅列が、何より雄弁にマルベックの悪行を語っていた。
「もはや言い逃れできるレベルじゃないな……」
だが――
「これをそのまま突きつけたところで、奴がのらりくらりと逃げ切ったら意味がない」
「……それは、あり得る話だ」
ゴルディが眉をひそめながら頷く。
「マルベックの野郎は狡猾だ。帳簿だって表向きはギリギリのラインで取り繕ってやがるし、中央や村の有力者との繋がりもある。多少の不正なら、もみ消す力を持ってる」
「酷い……」
小さく呻いたのはミロリーだった。拳を握り、俯いたその肩が震えている。
「真っ向勝負じゃ勝ち目がない。だからこそ……こっちにも、切り札が要る」
そのとき――
「知久! 来たわ!」
支部の廊下を駆けてきたアゼリアが、息を弾ませながら封筒を掲げた。
「来たか……!! 中身、見られてないよな?」
「当然でしょ。あんな小心者に、この手紙を開ける度胸なんてないわよ」
手紙を受け取った知久は、封に不審な痕跡がないか念入りに確認する。封はきっちりと閉じられ、破られた形跡はない。
そして、慎重に中を開封して手紙を読んだ。
しばらく沈黙が場を支配したが、読み終わった知久が、ふぅ、と息を吐いた。
「……問題なし。これで、全ての手札が揃ったな」
「よっしゃ! 大将、これであのクソ支部長の鼻を明かしてやれるぜ!」
ゴルディが拳を握り、笑みを浮かべる。ミロリーも、アゼリアも、その目に決意の光を灯していた。
知久はふと思い出し、ゴルディに訊ねた。
「なあ、ゴルディ。おっさんは、どうしてこんなにあっさり協力してくれたんだ?」
ゴルディは肩をすくめて、苦笑交じりに語り始めた。
「……昔よ。ある若い商人がいてな。そいつは地道に商売をやってたが、ある日マルベックに声をかけられたんだ。“ホワイティア支部に商品を卸せば、高値で買い取ってやる”ってな。夢を見ちまったのさ。販路が広がるって話に乗せられて、在庫を全部抱えてここに来ちまった」
初めて聞く話に、アゼリアもミロリーも、驚いて顔を見合わせている。
「でも、奴は支払いを一方的に遅らせたうえに、“ギルドへの寄付”なんて言って、商品を全部持っていきやがった。契約書もザルで、訴えても無駄。信用も資金も失って、結局ギルドでタダ同然で働く羽目になった」
知久は息を呑んだ。
「まさか、その商人って……」
「情けねぇ話だろ?」
静かに語るその背中には、深い悔しさと、捨てきれぬ怒りがにじんでいた。
「……あいつを恨む理由なら、語り尽くせねえほどあるさ。でもな、もう一度騙されるだけじゃなく、誰かが立ち上がるなら、手を貸す意味があると思ったんだ」
ゴルディは知久をまっすぐ見た。
「あんた、変えるんだろ? この場所を。あんた自身は自分のためなんて言わねぇが――俺にはわかる」
知久は小さく息をついた。
「俺は、前の世界で労働に潰された。働いて、働いて……心も身体も壊れて、気がついた時には全部遅かった。だから今度は……もう間違えたくないんだ。今度こそ、守りたいんだ。自分も、誰かも」
「バカね、あんた。なんでも自分がやらないといけないと思うからよ」
アゼリアが呆れたように笑って言う。
「違いない」
そう言って、知久は机に突っ伏した。
「はあ……まだ支部に来てそんなに経ってないってのに、俺は何をやってるんだか」
「なんだかんだ言って、大将は“働き詰めの戦士”だもんな」
ゴルディの皮肉交じりの冗談に、知久も小さく笑った。
「でも今回は……ちゃんと、終わらせる」
それは、かつての人生で叶わなかった“やり直し”の誓いでもあった。
押しつけられた仕事に耐え続け、壊れるまで声を上げられなかった過去。
──二度と、あんな風にはならない。
知久はゆっくりと立ち上がった。眼差しに、確かな決意を宿して。
「この組織にこびりついた黒い汚れを……全部、洗い流してやる!」
そして、拳を強く握りしめた。
「決戦は――明日だ!」
ゴルディも、ミロリーも、アゼリアも、そしてトキワも――
皆が、それぞれのやり方で、この支部を変えようとしている。
かつては傍観していたギルドの他のメンバーたちも、今では密かに俺たちの動きを支持し、陰ながら協力してくれる者が増えてきた。
「……これが“うねり”ってやつか」
知久は書庫の隅で、帳簿のコピーを睨みつけながら呟いた。
横領、不正会計、不自然な経費処理……
数字の羅列が、何より雄弁にマルベックの悪行を語っていた。
「もはや言い逃れできるレベルじゃないな……」
だが――
「これをそのまま突きつけたところで、奴がのらりくらりと逃げ切ったら意味がない」
「……それは、あり得る話だ」
ゴルディが眉をひそめながら頷く。
「マルベックの野郎は狡猾だ。帳簿だって表向きはギリギリのラインで取り繕ってやがるし、中央や村の有力者との繋がりもある。多少の不正なら、もみ消す力を持ってる」
「酷い……」
小さく呻いたのはミロリーだった。拳を握り、俯いたその肩が震えている。
「真っ向勝負じゃ勝ち目がない。だからこそ……こっちにも、切り札が要る」
そのとき――
「知久! 来たわ!」
支部の廊下を駆けてきたアゼリアが、息を弾ませながら封筒を掲げた。
「来たか……!! 中身、見られてないよな?」
「当然でしょ。あんな小心者に、この手紙を開ける度胸なんてないわよ」
手紙を受け取った知久は、封に不審な痕跡がないか念入りに確認する。封はきっちりと閉じられ、破られた形跡はない。
そして、慎重に中を開封して手紙を読んだ。
しばらく沈黙が場を支配したが、読み終わった知久が、ふぅ、と息を吐いた。
「……問題なし。これで、全ての手札が揃ったな」
「よっしゃ! 大将、これであのクソ支部長の鼻を明かしてやれるぜ!」
ゴルディが拳を握り、笑みを浮かべる。ミロリーも、アゼリアも、その目に決意の光を灯していた。
知久はふと思い出し、ゴルディに訊ねた。
「なあ、ゴルディ。おっさんは、どうしてこんなにあっさり協力してくれたんだ?」
ゴルディは肩をすくめて、苦笑交じりに語り始めた。
「……昔よ。ある若い商人がいてな。そいつは地道に商売をやってたが、ある日マルベックに声をかけられたんだ。“ホワイティア支部に商品を卸せば、高値で買い取ってやる”ってな。夢を見ちまったのさ。販路が広がるって話に乗せられて、在庫を全部抱えてここに来ちまった」
初めて聞く話に、アゼリアもミロリーも、驚いて顔を見合わせている。
「でも、奴は支払いを一方的に遅らせたうえに、“ギルドへの寄付”なんて言って、商品を全部持っていきやがった。契約書もザルで、訴えても無駄。信用も資金も失って、結局ギルドでタダ同然で働く羽目になった」
知久は息を呑んだ。
「まさか、その商人って……」
「情けねぇ話だろ?」
静かに語るその背中には、深い悔しさと、捨てきれぬ怒りがにじんでいた。
「……あいつを恨む理由なら、語り尽くせねえほどあるさ。でもな、もう一度騙されるだけじゃなく、誰かが立ち上がるなら、手を貸す意味があると思ったんだ」
ゴルディは知久をまっすぐ見た。
「あんた、変えるんだろ? この場所を。あんた自身は自分のためなんて言わねぇが――俺にはわかる」
知久は小さく息をついた。
「俺は、前の世界で労働に潰された。働いて、働いて……心も身体も壊れて、気がついた時には全部遅かった。だから今度は……もう間違えたくないんだ。今度こそ、守りたいんだ。自分も、誰かも」
「バカね、あんた。なんでも自分がやらないといけないと思うからよ」
アゼリアが呆れたように笑って言う。
「違いない」
そう言って、知久は机に突っ伏した。
「はあ……まだ支部に来てそんなに経ってないってのに、俺は何をやってるんだか」
「なんだかんだ言って、大将は“働き詰めの戦士”だもんな」
ゴルディの皮肉交じりの冗談に、知久も小さく笑った。
「でも今回は……ちゃんと、終わらせる」
それは、かつての人生で叶わなかった“やり直し”の誓いでもあった。
押しつけられた仕事に耐え続け、壊れるまで声を上げられなかった過去。
──二度と、あんな風にはならない。
知久はゆっくりと立ち上がった。眼差しに、確かな決意を宿して。
「この組織にこびりついた黒い汚れを……全部、洗い流してやる!」
そして、拳を強く握りしめた。
「決戦は――明日だ!」
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