異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~

ゼニ平

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第1部 ホワイティア支部改革編

【第21話】「終焉の時」

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 人間には、階層というものがある――
 働きアリのように這いつくばって命令を待つ者たちと、その上に立ち采配を振るう“選ばれた者”とが。

「フン、愚か者どもめ……」

 ギルド支部長・マルベックは、豪奢な椅子にもたれ、机の上のワイングラスをゆらゆらと揺らしていた。
 ホワイティア支部は、まさしく自分の王国。冒険者たちは駒にすぎず、労働力であり、搾取対象にすぎない。
 村の有力者とは癒着し、中央の政財界にも裏口を持つ。
 少々の横領や帳簿の改ざんなど、金と交渉術があればどうとでもなる。

「弱者を搾取するのは当然だろう。奴らに金を回したところで、何一つ使いこなせんのだからな」

 最近、あの☆1冒険者、四谷知久よつやともひさがなにやら騒いでいるようだが……所詮は愚か者の遠吠えだ。
 この“王の座”に牙を剥こうとは、身の程知らずにもほどがある。

――そう信じて、疑っていなかった。

☆ ☆ ☆

 ホワイティアギルド中央ホール。
 支部の冒険者たち、職員、村の関係者たちが緊張に包まれた空気の中、集まっていた。

 その中央で、知久はひとり静かに立ち、手に抱えた帳簿と証拠書類を高々と掲げた。

「皆さん、これがマルベック支部長による横領、不正会計、そして搾取の証拠です!」

 その声は支部の壁に反響し、ざわめきが一気に広がった。

「俺たちの報酬が異常に少なかった理由も、装備が貧弱だった理由も……全部、支部長が私腹を肥やしていたからだ!」

 知久の拳に力が入る。

「こんなこと、許されていいわけがない! ……マルベックを更迭するべきだ!」

「そうだ! そうだ!」

 最前列のゴルディが拳を掲げて声を上げる。
 それにつられるように、他のメンバーたちの視線が徐々に変わっていく――希望を、怒りを帯びたものに。

 だが、悠然と前に出てきたマルベックは、鼻で笑った。

「ずいぶんと愉快な演説だな」

 椅子に腰掛け、書類をちらりと一瞥すると、不敵な笑みを浮かべた。

「帳簿など、いくらでも捏造できる。経理のミスだと言えばそれまでだ。……だいたい、これはどこから持ち出したのかね? 貴様がでっち上げたものではないと、誰が証明する?」

 声を張りながら、彼は辺りを睨め回す。

「貴様らは☆1冒険者だ。剣も魔法もまともに使えない、無能の烙印を押された連中だ。そんな者たちを雇ってやっているのは、誰だと思っている?」

 静まり返ったホールに、マルベックの声だけが響く。

「私だ。私がいなければ、この支部も貴様らの生活も崩壊する。……それでも私を更迭しようというのか?」

 アゼリアもミロリーも、苦しそうに表情を歪めた。

「無能なやつほど労働者の権利を主張する。滑稽だな」

「それは詭弁だ」

 知久の声が遮るように響いた。鋭く、静かで、揺るがない。

「俺たちは確かに☆1冒険者だ。剣をまともに振れない剣士、いつも魔法を失敗する魔法使い。妙な加護しかない奴もいる」

 その言葉に、ミロリーがそっと下を向き、アゼリアが唇を噛みしめる。

「でも、俺たちは変われる」

 その時、ホールの入口から声がした。

「私たちは、いつまでも弱いままじゃないです~!」

 振り返れば、トキワと共に、中年の男が立っていた。
 男は、村長に仕える小間使いだった。

「私が……見ました。マルベック様が、村長と共謀して、ギルドの物資や資金を横流ししているのを……!」

 一瞬にして空気が変わる。

「この裏切り者がッ!」

 村長が怒鳴り、男に詰め寄ろうとする。
 だが、それを遮るように、トキワが勇気を振り絞って立ちはだかった。

「どきなさい、トキワ!!」

「いやです!!」

 小さく震えながらも、拳を握りしめ、視線をそらさない。
 そうしているうちに、村長はギルドメンバーによって押さえつけられた。

「……ありがとう」

 知久がぽつりと呟いたその瞬間――
 ギルドの扉が、重く静かに開かれた。

「ほう、“中央”の名前を軽々しく出すとはな」

 声とともに現れたのは、荘厳な鎧に身を包み、王家の紋章を輝かせた男。

「グ、グレン様……!」

 アゼリアが声を漏らす。

「……兄貴!」

 グレン・フレーヴェント。王家の血を引くアゼリアの兄であり、中央から派遣された高官だった。
 マルベックの顔がみるみるうちに蒼白になる。

「な、なぜ……ここに……?」

「私用だ。だが、君の噂は以前から聞いていた」

 彼は静かに証書を取り出す。

「ホワイティア支部には、極秘に監査官を派遣していた。その報告が、すでに中央に届いている」

 その隣に立っていたのは――フードを深く被った人物。帳簿を渡してきた、正体不明の人物だった。

「監査の結果、君が裏で依頼内容を改ざんし、他国と接触していた証拠も上がっている。背任行為どころか、売国の疑いがある」

「ち、違う! 私は知らなかった! 誰かが勝手に──」

「言い逃れは許されない!」

 グレンの声が静かに、だが鋭く広間に響く。
 その言葉は冷徹な刃のようで、マルベックの反論の芽を容赦なく切り捨てた。

 誰ひとり、マルベックを庇おうとしない。
 冒険者たちも、村の者も、ギルド関係者すら──皆の視線は冷たく、彼に向けられていた。
 もう、かつての支配力も、恐怖も、ここには存在しない。

「こ、この私が……こんな……っ!」

 焦りと怒りが混ざったような声。
 マルベックは信じられないものを見る目で、自分の手を震わせていた。

「そうだ……四谷知久よつやともひさ……!!」

 突如、その目が知久を捕える。
 赤く濁った瞳が、狂気じみた執念に染まっていた。

「貴様……あの時の……!!」

「……え?」

 知久の目がわずかに揺らぐ。
 なぜか知久には、彼の”声”が二重に聞こえた。
 マルベックと……もう一人。
 もう二度と聞くことはないと思っていた声。

「貴様が死んだせいで!! 我が社は倒産したのだぞ!! 貴様のようなゴミの命程度で!! マスコミが押し寄せ、裁判になって……!! 莫大な借金を背負うことになったのだぞ!!」

「……な、なにを言っているんですか……?」

 場の空気が凍りつく。
 アゼリアとミロリーが、ぎこちない笑みを浮かべて声を漏らす。

「追い詰められて、おかしくなっちゃったの……?」
 
 知久の中に、いくつもの記憶が閃光のように蘇る。

「……マルベック。まさか、あんた……」

──冷たい声でノルマを押しつけてきた男。
──誰かが倒れても「代わりはいくらでもいる」と言い捨てた男。

四谷知久よつやともひさ……!!! 貴様ああああああああ!!!」

 怒声と共に、マルベックが狂ったように知久へと突進する。

「《アース・フォール》!」

 ミロリーの魔法が発動した瞬間、マルベックの足元の床が陥没し、深い落とし穴が現れた。

「ぐわあっ!? ぐおおおおおおっ!!」

 マルベックの叫び声が空しく響く。
 その姿は、まるで過去の業が自身を呑み込んでいくかのようだった。

「ナイスコントロール、ミロリー!」

 アゼリアが声を上げると、ミロリーは赤くなりながらも、小さくガッツポーズをした。

 だが──

「許さん……!! 許さんぞ貴様ああああ!!! また、お前が私を……!!!」

 穴の中でわめき散らすその姿は、すでに醜悪な亡者のようだった。
 過去に囚われ、呪いのような怨嗟を知久に投げ続けるその姿を、知久はただ見下ろしていた。

 グレンが一歩前に出て、静かに宣言する。

「マルベック支部長。貴殿には、本日をもって、すべての権限を剥奪する」

 その瞬間、ホワイティア支部を覆っていた長い影が、ついに──終焉を迎えた。
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