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第2部 港町の黒焔鬼編
【第23話】「聞かされた真実」
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祭りの昼。
カラーポルトの中心通りには、色とりどりの布と旗が揺れ、屋台の香ばしい匂いが風に乗って流れていた。楽団が奏でる陽気な音楽に合わせ、街の人々が笑い、踊り、食べ、祝祭の雰囲気は最高潮に達している。
ギルド員たちはというと――。
「ちょっと! こっちの荷運び、急いで!」
「はいっ!」
「テントの準備が遅れてる! セファ、指示を!」
「はい! こっちは私がやるから、ルネおば様は怪我しないように後ろにいてください、です!」
セファはルネを伴いながら、町の中央広場を駆け回っていた。
表情は引き締まっているが、その動きには迷いがない。ギルド員たちは自然と彼女の後を追い、その指示に従って次々と仕事をこなしていった。
遠く離れた屋根の上から眺めながら、知久は胸の奥に温かなものを感じていた。
だが、今は自分の役割を遂行しなければならない。
知久はポーチからドリンクの缶を取り出すと、そのまま走り出した。
☆ ☆ ☆
《ナイトシーカー》を飲んだ知久は、総督府の奥へと忍び込んでいた。
隠密用の姿を完全に消す強力なドリンクだが、その分持続時間は短い。
慎重に、息を殺しながら進む。
(ヴィーノ総督が黒焔鬼なら、きっと今日、何か動くはずだ)
華やかな祭りの裏で、ここだけは異質な静けさに包まれていた。
やがて、奥の控室から低い声が漏れてくる。
「……こんな祭り、くだらん。民の歓声など聞くだけで胸が悪くなる」
知久の心臓がひやりと冷える。
(この声……確か……ヴォイド・アッシュヤードか)
続いた声は、ヴィーノのものだった。
「父上。民は今日を楽しみにしていました。祝いの日に、そんな言葉は――」
「黙れ、ヴィーノ。本来ならば私はこんなところにくるべき人間ではないのだ。おのれグレンめ……王子だからと調子に乗りおって!! 長年国のために尽くしてきたこの私に向かってくだらない嫌疑をかけおって!!」
「父上。声を抑えてください。不敬罪になります」
「構うものか!! それとも、この総督府に私に害をなす人間がいるとでも言うのか?」
「滅相もありません」
どうやら、エナから聞いていた通りのようだった。中央からの追及を逃れるために、わざわざカラーポルトまで避難してきたということらしい。
だが次の言葉は、知久の思考を凍りつかせた。
「……それで、先ほどの話だが。リヴェラと……ダリオン、だと?」
ヴィーノの声がかすかに震えた。
「覚えていますか? 十年前の支部長と副長の名です」
「……ふん。くだらん連中だったな。支配体制に歯向かった愚か者だ。処分されて当然だろう」
「――っ」
知久の呼吸が止まる。身体が、勝手に強張った。
その瞬間――
「確か……殺したのは、お前だったな?」
知久の手が震え、足元の棚に足をぶつけてしまった。
――ガンッ!
(まずい!!)
反射的に息を止める。
「今の音はなんだ!!」
ヴォイドの声が爆発した。
足音がこちらへ迫る。
しかし――。
「父上、落ち着いてください。風で何かが倒れたのでしょう。」
「しかし、今確かに――!」
「心配なさることはありません。父上の仰るように、この総督府内に、あなたに害をなすものなどおりはしないのですから」
落ち着いた声で言い切るヴィーノ。
(助けられた、のか?)
だが今は逃げるしかなかった。
《ナイトシーカー》の効果が切れる寸前。
知久は影のようにその場を離れ、外の通路へ飛び出した。
(セファに伝えないと……!)
心臓が激しく脈打つ。
走りながら、知久は奥歯を強く噛みしめた。
――リヴェラとダリオンを殺したのは、ヴィーノ。
では黒焔鬼は。
では、あの優しさは。
嘘なのか。本物なのか。
「……くそっ、セファに偉そうなこと言えないな……俺だって、どっちかわからないんだから!!」
それでも、伝えなければならない。
今日、祭りの日に。
何かが起こる。
知久は夜の人込みへ向かって走り出した。
胸の奥には、誰よりも守りたい少女――
セファの姿が、強く浮かんでいた。
カラーポルトの中心通りには、色とりどりの布と旗が揺れ、屋台の香ばしい匂いが風に乗って流れていた。楽団が奏でる陽気な音楽に合わせ、街の人々が笑い、踊り、食べ、祝祭の雰囲気は最高潮に達している。
ギルド員たちはというと――。
「ちょっと! こっちの荷運び、急いで!」
「はいっ!」
「テントの準備が遅れてる! セファ、指示を!」
「はい! こっちは私がやるから、ルネおば様は怪我しないように後ろにいてください、です!」
セファはルネを伴いながら、町の中央広場を駆け回っていた。
表情は引き締まっているが、その動きには迷いがない。ギルド員たちは自然と彼女の後を追い、その指示に従って次々と仕事をこなしていった。
遠く離れた屋根の上から眺めながら、知久は胸の奥に温かなものを感じていた。
だが、今は自分の役割を遂行しなければならない。
知久はポーチからドリンクの缶を取り出すと、そのまま走り出した。
☆ ☆ ☆
《ナイトシーカー》を飲んだ知久は、総督府の奥へと忍び込んでいた。
隠密用の姿を完全に消す強力なドリンクだが、その分持続時間は短い。
慎重に、息を殺しながら進む。
(ヴィーノ総督が黒焔鬼なら、きっと今日、何か動くはずだ)
華やかな祭りの裏で、ここだけは異質な静けさに包まれていた。
やがて、奥の控室から低い声が漏れてくる。
「……こんな祭り、くだらん。民の歓声など聞くだけで胸が悪くなる」
知久の心臓がひやりと冷える。
(この声……確か……ヴォイド・アッシュヤードか)
続いた声は、ヴィーノのものだった。
「父上。民は今日を楽しみにしていました。祝いの日に、そんな言葉は――」
「黙れ、ヴィーノ。本来ならば私はこんなところにくるべき人間ではないのだ。おのれグレンめ……王子だからと調子に乗りおって!! 長年国のために尽くしてきたこの私に向かってくだらない嫌疑をかけおって!!」
「父上。声を抑えてください。不敬罪になります」
「構うものか!! それとも、この総督府に私に害をなす人間がいるとでも言うのか?」
「滅相もありません」
どうやら、エナから聞いていた通りのようだった。中央からの追及を逃れるために、わざわざカラーポルトまで避難してきたということらしい。
だが次の言葉は、知久の思考を凍りつかせた。
「……それで、先ほどの話だが。リヴェラと……ダリオン、だと?」
ヴィーノの声がかすかに震えた。
「覚えていますか? 十年前の支部長と副長の名です」
「……ふん。くだらん連中だったな。支配体制に歯向かった愚か者だ。処分されて当然だろう」
「――っ」
知久の呼吸が止まる。身体が、勝手に強張った。
その瞬間――
「確か……殺したのは、お前だったな?」
知久の手が震え、足元の棚に足をぶつけてしまった。
――ガンッ!
(まずい!!)
反射的に息を止める。
「今の音はなんだ!!」
ヴォイドの声が爆発した。
足音がこちらへ迫る。
しかし――。
「父上、落ち着いてください。風で何かが倒れたのでしょう。」
「しかし、今確かに――!」
「心配なさることはありません。父上の仰るように、この総督府内に、あなたに害をなすものなどおりはしないのですから」
落ち着いた声で言い切るヴィーノ。
(助けられた、のか?)
だが今は逃げるしかなかった。
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(セファに伝えないと……!)
心臓が激しく脈打つ。
走りながら、知久は奥歯を強く噛みしめた。
――リヴェラとダリオンを殺したのは、ヴィーノ。
では黒焔鬼は。
では、あの優しさは。
嘘なのか。本物なのか。
「……くそっ、セファに偉そうなこと言えないな……俺だって、どっちかわからないんだから!!」
それでも、伝えなければならない。
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