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第2部 港町の黒焔鬼編
【第24話】「黒焔の夜」
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祭りの夜。
カラーポルトの空は、灯火と熱気で昼間のように明るかった。
屋台の匂い、笑い声、楽団の音。
まるで街全体が跳ねているような盛り上がりだ。
だが――その中を、ひとりだけ必死の形相で走る男がいた。
知久だ。
「……セファ、どこだ……!」
人の波が壁のように立ちはだかる。
花火の打ち上げを待つ人々の歓声とざわめきのせいで、前に進むのがやっとだった。
(くそっ……まずいってのに……!)
焦りに汗が滲む。
セファは――その人ごみの外側、花火台の全体を見渡せる場所に立っていた。
ルネがそばにいる。
人々の笑顔を横目に、セファは警戒そのものの表情で会場を見渡していた。
「なんだろう、この感じ……胸が、ざわつく……」
《グラン・マリヌス》の紋章が、小さく震えるように感じた。
☆ ☆ ☆
その時、舞台の方からひときわ大きな歓声が上がった。
「総督だ!」「ご当主様も!」
ヴォイド・アッシュヤードと、息子ヴィーノが姿を現したのだ。
白銀の装束に身を包んだヴォイドは、人々に片手を挙げて応える。
まさに“支配者”の風格だった。
対して、ヴィーノはいつもの無表情。
その目の奥に、いつもより深い影が落ちているように見えた。
知久は屋台の裏からその様子を凝視した。
(……何をする気なんだ、一体!?)
暗がりの下で、嫌な予感が確信に変わりつつあった。
☆ ☆ ☆
「それでは、我が王家の《炎の加護》をもって――!」
ヴォイドが天に向かって手を掲げた。
赤い炎が灯る。
柔らかい光が夜を照らし、観衆が沸いた。
「きれい……!」
「すごい、さすが王族!」
炎は導火線へ、ゆっくりと触れる。
花火打ち上げの合図だ。
――その瞬間だった。
「……父上」
ヴィーノが、ひどく静かな声で囁いた。
「私は、ただの一度も……彼らのことを忘れたことはありません」
次の刹那。
ずぶっ。
黒い閃光が、ヴォイドの背中を貫いた。
「……え?」
舞台の上で、ヴォイドの身体が前にのめり、崩れ落ちる。
観衆は理解が追いつかない。
「きゃあああああっ!!」
最初の悲鳴が上がる。
ヴィーノの手には――漆黒の炎をまとった剣。
「ヴィ、ヴィーノ……何を……して……!」
父が振り返ろうとしたが、黒焔が身体を焼き尽くした。
その光景は、花火を待ちわびた人々の脳裏に焼き付いた。
「聞け! カラーポルトの民よ!!」
ヴィーノの声が響き渡った時。
バシュッ。
導火線に触れた花火が、夜空へ舞い上がる。
――轟音。
だが、それはいつもの色鮮やかな花火ではなかった。
夜空に咲いたのは、墨のような黒。
渦を巻く黒炎が、ゴウゴウと燃え広がる異様な花。
その火花が落ち、街に降り注いだ瞬間――
「私が――《黒焔鬼》だ」
それは、宣告だった。
黒焔が暴風のように広がり、街の灯を覆い隠していく。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
空を焦がす黒い閃光。
花火台、会場、屋台が次々と黒炎に包まれた。
「セファァァァッ!!」
知久の叫びは、爆ぜる黒焔にかき消されていった。
カラーポルトの祭りの夜。
それは“希望の灯”ではなく、“黒焔の災厄”の夜として刻まれることになる
カラーポルトの空は、灯火と熱気で昼間のように明るかった。
屋台の匂い、笑い声、楽団の音。
まるで街全体が跳ねているような盛り上がりだ。
だが――その中を、ひとりだけ必死の形相で走る男がいた。
知久だ。
「……セファ、どこだ……!」
人の波が壁のように立ちはだかる。
花火の打ち上げを待つ人々の歓声とざわめきのせいで、前に進むのがやっとだった。
(くそっ……まずいってのに……!)
焦りに汗が滲む。
セファは――その人ごみの外側、花火台の全体を見渡せる場所に立っていた。
ルネがそばにいる。
人々の笑顔を横目に、セファは警戒そのものの表情で会場を見渡していた。
「なんだろう、この感じ……胸が、ざわつく……」
《グラン・マリヌス》の紋章が、小さく震えるように感じた。
☆ ☆ ☆
その時、舞台の方からひときわ大きな歓声が上がった。
「総督だ!」「ご当主様も!」
ヴォイド・アッシュヤードと、息子ヴィーノが姿を現したのだ。
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まさに“支配者”の風格だった。
対して、ヴィーノはいつもの無表情。
その目の奥に、いつもより深い影が落ちているように見えた。
知久は屋台の裏からその様子を凝視した。
(……何をする気なんだ、一体!?)
暗がりの下で、嫌な予感が確信に変わりつつあった。
☆ ☆ ☆
「それでは、我が王家の《炎の加護》をもって――!」
ヴォイドが天に向かって手を掲げた。
赤い炎が灯る。
柔らかい光が夜を照らし、観衆が沸いた。
「きれい……!」
「すごい、さすが王族!」
炎は導火線へ、ゆっくりと触れる。
花火打ち上げの合図だ。
――その瞬間だった。
「……父上」
ヴィーノが、ひどく静かな声で囁いた。
「私は、ただの一度も……彼らのことを忘れたことはありません」
次の刹那。
ずぶっ。
黒い閃光が、ヴォイドの背中を貫いた。
「……え?」
舞台の上で、ヴォイドの身体が前にのめり、崩れ落ちる。
観衆は理解が追いつかない。
「きゃあああああっ!!」
最初の悲鳴が上がる。
ヴィーノの手には――漆黒の炎をまとった剣。
「ヴィ、ヴィーノ……何を……して……!」
父が振り返ろうとしたが、黒焔が身体を焼き尽くした。
その光景は、花火を待ちわびた人々の脳裏に焼き付いた。
「聞け! カラーポルトの民よ!!」
ヴィーノの声が響き渡った時。
バシュッ。
導火線に触れた花火が、夜空へ舞い上がる。
――轟音。
だが、それはいつもの色鮮やかな花火ではなかった。
夜空に咲いたのは、墨のような黒。
渦を巻く黒炎が、ゴウゴウと燃え広がる異様な花。
その火花が落ち、街に降り注いだ瞬間――
「私が――《黒焔鬼》だ」
それは、宣告だった。
黒焔が暴風のように広がり、街の灯を覆い隠していく。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
空を焦がす黒い閃光。
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「セファァァァッ!!」
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