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配達完了しました
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昼休憩がもうすぐ終わるというタイミングで、俺のスマホに一件の着信が入る。
『配達完了しました』
その一文と共にうちの玄関を写した画像が添付されており、両手で抱えられるほどの大きさの段ボールがそこに鎮座していた。置き配の完了メールだ。
直近で通販サイトを利用した覚えはない。おそらく実家から食品でも届いたのだろう。その時はあまり深く考えずポケットにスマホをしまうとそのまま仕事に戻った。
就業時間が終わり、スマホを確認するとメールのアイコンに大量の通知マークがついている。そのどれもが置き配の完了通知だ。数字は36と表示されている。
すごい量だ。順番に見ていくと玄関先の写真に大小様々な荷物が増えていく。あまりにも多すぎて途中で見るのをやめてしまったほどだ。
一体なんなんだこの量は。新手の詐欺か? 嫌がらせか?
夕飯を買うことすら忘れ急いで帰宅すると、やはり写真の通り狭いマンションの廊下は荷物でいっぱいになっていた。
共同通路を占領することになったのだから、ここを利用する隣人たちはさぞかし迷惑しただろう、管理会社に連絡されていなければいいのだが……。
それからは着替えることすら許されず一つ一つ段ボールを部屋の中に運び込んでいった。一人での作業だから時間もかかり、それなりに重量もあるので腰も痛い。玄関の中だけでなく廊下、バスルーム、果ては寝室にまで侵食する段ボールを前に途方に暮れる。
しかし一体誰がこんなことを。手近な一箱に貼り付けられている宛名を確認してみることにする。あまりに急いで作業したため最低限の灯りしか点けておらず、室内は薄暗い。玄関の扉を閉めたことで余計に暗くなり文字を読むことができなかった。そのためまずは室内に荷物を入れることを優先していたため、宛名を気にしている暇などなかった。
改めて明るい場所で宛名を覗き込むと俺の名前と住所の他に送り主の情報が書かれている。が、よく言えば達筆。悪く言えば生まれて間もない赤子に筆を持たせて書かせたような文字が踊り狂っていた。
おそらく全部同じものなのだと思う。いくつか照らし合わせてみてもどれも宛名の字は同じだ。不思議なのは俺への宛名だけはPCで打ち込んだのかと疑うほど丁寧で整っている。それがまた送り主の文字との異様さを引き立てていて不気味だ。
何か知っているかと実家の両親に確認してみたが何も送っていないし、心当たりもないらしい。もしかしたら親戚か……とも思ったが、親戚には俺の住所を教えていないし親もそんなことをした覚えはないとのこと。
祖父母……は俺が生まれる前にすでに三人が鬼籍に入っており、ただ一人残っていた祖父は昨年天へと昇っていった。
念のため全ての宛名に目を通す。少しでも手掛かりが欲しい。
未だ繋がったままの電話越しの母は危ないものかもしれないからと警察に通報するようにと先ほどから何度も言い聞かせてくる。分かってはいるがこれで特になんの問題もないものだった場合、恥をかくのは自分だ。安易に110番するのは気が引けた。
適当に返事をしつつ見ていくとふと一つの箱の側面に目がいく。今まで宛名にばかり視線を奪われていて気がつかなかった。
「い」
ひらがなでただそれだけが書かれていた。水性ペンで書いたのだろうか? おそらく雨に濡れたのだろう、それは全体的にじんわりと滲んでいる。
未だ続いている母との通話は既に次の話題に移っている。荷物の件以外では用はないのだが母親が最近あったことを次々と話すため切るに切れずにいるのだ。適当に相槌を打ちつつ他に何か書いていないかとそれぞれの箱をくまなく探すと、面はバラバラだがそのどれにも何らかの文字が書き込まれていることが分かった。
「て」「め」「はい」
これが落書きでないのならなにかの識別のための記号だろうか。文字の数は一文字のもあれば四文字あるのもある。
「しんぞう」「あし」「ひぞう」「みみ」
パッと目についた文字列を頭で認識したことでずっしりとした感覚が押し寄せてくる。それと同時にスマホを握る手は冷え込み、背中をいやな汗が伝う。
ずっとしていた嫌な予感がさらにその濃度を増していく。俺の予感が正しければこの箱の中には……。
「せなか」「め」「あし」「じんぞう」「へそ」「かんぞう」「しんぞう」「しょうちょう」「こし」「のど」「した」「じんぞう」「たんのう」
文字を追うたびに全身から血の気が引いていく。俺は震える手で箱の一つを選ぶとカッターを入れる。こんな状況になってもなお警察に連絡するのを躊躇した。なにか、なにか確証が欲しい。テープが切られ隙間ができると意を決してそこに指を差し込んでみた。
次の瞬間俺は声にならない叫びをあげ、尻もちをつくように倒れ込んだ。激痛に悶える暇もないほど、俺の身体は恐怖に慄いていた。
手放したスマホからは心配した母親が同じく叫んでいるのだろう、だがそれがノイズとしか認識できないほど今の俺には目の前のものに意識が集中してしまう。
開けた箱にはひらがなで「あたま」と書かれていた。
近隣住民と母親の通報によりすぐ警察官が来てくれたらしいが詳しくは覚えていない。ただ鍵をかけ忘れていたのが幸いし中に入ってきた彼らによってすぐに俺は保護され病院に運ばれたそうだ。
駆け付けた警察官が到着する頃には、俺は床を叩きながら大きな笑い声をあげて暴れていたらしい。そう警察経由で聞かされた見舞いに来た母に心配半分、呆れ半分といった感じで話された。全く覚えていない。
箱の中に入っていたのはどれも切断された人体で、当たり前だがまず真っ先に俺が疑われ何度も同じことを聞かされたが、心当たりがないのだからなにも答えられることはない。
それ以降は箱の中身と目が合ったショックでずっとぼうっとしていた。母親も警察から何が起きたのか聞き出そうとしているが、そう簡単に捜査内容をバラすようなことはしないだろう。
この短時間でわかっていることといえば、箱の中に入れられていたものは全て切断された人体であるということのみ。そして詳細は聞かされていないが、おそらく利用された運送会社にも既に聞き込みをしているはずだが、何も聞かされてはいない。
ひとまず病室のテレビをつけてニュースに切り替える。だがどこを見ても一切何も語られている気配がない。スマホを取り出しSNSやニュースアプリをチェックしてみたがそこにも何も書かれていなかった。
その日は病院で一泊し、翌日一旦帰宅した母が実家に置いていた俺の着替えを持ってやってきてくれた。着替えている間に退院手続きも済ませてくれていた。母のありがたみを感じていると、昨日やってきた刑事とまたロビーで再会した。
犯人の心当たりやらなにかトラブルはなかったかなどと話した内容は昨夜とほぼ変わらない。もうほとほとうんざりするが向こうも必死なのだろう。
全てを終えて俺のところに母が戻ってくるとあっさり解放され家路に就くことを許してくれた。最後にあの荷物の『中身』は同一人物のものだったのか。そう聞いてみたところ、刑事はなんともいえない顔をして口ごもってしまった。守秘義務があるにしても様子がおかしいがそれ以上は聞けるような雰囲気ではなかった。
退院してからはまっすぐに母と実家に戻っていった。とてもじゃないが自分の住む家に帰る気にはなれない。まだ犯人がわからないし正直言って怖い。
その後は親父に頼み込んで退去手続きをしてもらった。家具は使えるものだけ持っていこうと思ったがどうしても気分的に気持ち悪い。なので全て処分した。しばらくは実家に置いてもらうことにして少しずつまた揃えようと思う。
願わくは、こっちにもまた同じような荷物が届けられないことを祈っている。今日は実家の犬を抱いて寝よう。
被害にあった彼の知らぬところで刑事たちもまたひどく困惑していた。検視結果によると人体は全て同一人物のもので間違いないらしい。このことで論理的な解を出せる者はいない。誰一人として答えられないのだ。
『配達完了しました』
その一文と共にうちの玄関を写した画像が添付されており、両手で抱えられるほどの大きさの段ボールがそこに鎮座していた。置き配の完了メールだ。
直近で通販サイトを利用した覚えはない。おそらく実家から食品でも届いたのだろう。その時はあまり深く考えずポケットにスマホをしまうとそのまま仕事に戻った。
就業時間が終わり、スマホを確認するとメールのアイコンに大量の通知マークがついている。そのどれもが置き配の完了通知だ。数字は36と表示されている。
すごい量だ。順番に見ていくと玄関先の写真に大小様々な荷物が増えていく。あまりにも多すぎて途中で見るのをやめてしまったほどだ。
一体なんなんだこの量は。新手の詐欺か? 嫌がらせか?
夕飯を買うことすら忘れ急いで帰宅すると、やはり写真の通り狭いマンションの廊下は荷物でいっぱいになっていた。
共同通路を占領することになったのだから、ここを利用する隣人たちはさぞかし迷惑しただろう、管理会社に連絡されていなければいいのだが……。
それからは着替えることすら許されず一つ一つ段ボールを部屋の中に運び込んでいった。一人での作業だから時間もかかり、それなりに重量もあるので腰も痛い。玄関の中だけでなく廊下、バスルーム、果ては寝室にまで侵食する段ボールを前に途方に暮れる。
しかし一体誰がこんなことを。手近な一箱に貼り付けられている宛名を確認してみることにする。あまりに急いで作業したため最低限の灯りしか点けておらず、室内は薄暗い。玄関の扉を閉めたことで余計に暗くなり文字を読むことができなかった。そのためまずは室内に荷物を入れることを優先していたため、宛名を気にしている暇などなかった。
改めて明るい場所で宛名を覗き込むと俺の名前と住所の他に送り主の情報が書かれている。が、よく言えば達筆。悪く言えば生まれて間もない赤子に筆を持たせて書かせたような文字が踊り狂っていた。
おそらく全部同じものなのだと思う。いくつか照らし合わせてみてもどれも宛名の字は同じだ。不思議なのは俺への宛名だけはPCで打ち込んだのかと疑うほど丁寧で整っている。それがまた送り主の文字との異様さを引き立てていて不気味だ。
何か知っているかと実家の両親に確認してみたが何も送っていないし、心当たりもないらしい。もしかしたら親戚か……とも思ったが、親戚には俺の住所を教えていないし親もそんなことをした覚えはないとのこと。
祖父母……は俺が生まれる前にすでに三人が鬼籍に入っており、ただ一人残っていた祖父は昨年天へと昇っていった。
念のため全ての宛名に目を通す。少しでも手掛かりが欲しい。
未だ繋がったままの電話越しの母は危ないものかもしれないからと警察に通報するようにと先ほどから何度も言い聞かせてくる。分かってはいるがこれで特になんの問題もないものだった場合、恥をかくのは自分だ。安易に110番するのは気が引けた。
適当に返事をしつつ見ていくとふと一つの箱の側面に目がいく。今まで宛名にばかり視線を奪われていて気がつかなかった。
「い」
ひらがなでただそれだけが書かれていた。水性ペンで書いたのだろうか? おそらく雨に濡れたのだろう、それは全体的にじんわりと滲んでいる。
未だ続いている母との通話は既に次の話題に移っている。荷物の件以外では用はないのだが母親が最近あったことを次々と話すため切るに切れずにいるのだ。適当に相槌を打ちつつ他に何か書いていないかとそれぞれの箱をくまなく探すと、面はバラバラだがそのどれにも何らかの文字が書き込まれていることが分かった。
「て」「め」「はい」
これが落書きでないのならなにかの識別のための記号だろうか。文字の数は一文字のもあれば四文字あるのもある。
「しんぞう」「あし」「ひぞう」「みみ」
パッと目についた文字列を頭で認識したことでずっしりとした感覚が押し寄せてくる。それと同時にスマホを握る手は冷え込み、背中をいやな汗が伝う。
ずっとしていた嫌な予感がさらにその濃度を増していく。俺の予感が正しければこの箱の中には……。
「せなか」「め」「あし」「じんぞう」「へそ」「かんぞう」「しんぞう」「しょうちょう」「こし」「のど」「した」「じんぞう」「たんのう」
文字を追うたびに全身から血の気が引いていく。俺は震える手で箱の一つを選ぶとカッターを入れる。こんな状況になってもなお警察に連絡するのを躊躇した。なにか、なにか確証が欲しい。テープが切られ隙間ができると意を決してそこに指を差し込んでみた。
次の瞬間俺は声にならない叫びをあげ、尻もちをつくように倒れ込んだ。激痛に悶える暇もないほど、俺の身体は恐怖に慄いていた。
手放したスマホからは心配した母親が同じく叫んでいるのだろう、だがそれがノイズとしか認識できないほど今の俺には目の前のものに意識が集中してしまう。
開けた箱にはひらがなで「あたま」と書かれていた。
近隣住民と母親の通報によりすぐ警察官が来てくれたらしいが詳しくは覚えていない。ただ鍵をかけ忘れていたのが幸いし中に入ってきた彼らによってすぐに俺は保護され病院に運ばれたそうだ。
駆け付けた警察官が到着する頃には、俺は床を叩きながら大きな笑い声をあげて暴れていたらしい。そう警察経由で聞かされた見舞いに来た母に心配半分、呆れ半分といった感じで話された。全く覚えていない。
箱の中に入っていたのはどれも切断された人体で、当たり前だがまず真っ先に俺が疑われ何度も同じことを聞かされたが、心当たりがないのだからなにも答えられることはない。
それ以降は箱の中身と目が合ったショックでずっとぼうっとしていた。母親も警察から何が起きたのか聞き出そうとしているが、そう簡単に捜査内容をバラすようなことはしないだろう。
この短時間でわかっていることといえば、箱の中に入れられていたものは全て切断された人体であるということのみ。そして詳細は聞かされていないが、おそらく利用された運送会社にも既に聞き込みをしているはずだが、何も聞かされてはいない。
ひとまず病室のテレビをつけてニュースに切り替える。だがどこを見ても一切何も語られている気配がない。スマホを取り出しSNSやニュースアプリをチェックしてみたがそこにも何も書かれていなかった。
その日は病院で一泊し、翌日一旦帰宅した母が実家に置いていた俺の着替えを持ってやってきてくれた。着替えている間に退院手続きも済ませてくれていた。母のありがたみを感じていると、昨日やってきた刑事とまたロビーで再会した。
犯人の心当たりやらなにかトラブルはなかったかなどと話した内容は昨夜とほぼ変わらない。もうほとほとうんざりするが向こうも必死なのだろう。
全てを終えて俺のところに母が戻ってくるとあっさり解放され家路に就くことを許してくれた。最後にあの荷物の『中身』は同一人物のものだったのか。そう聞いてみたところ、刑事はなんともいえない顔をして口ごもってしまった。守秘義務があるにしても様子がおかしいがそれ以上は聞けるような雰囲気ではなかった。
退院してからはまっすぐに母と実家に戻っていった。とてもじゃないが自分の住む家に帰る気にはなれない。まだ犯人がわからないし正直言って怖い。
その後は親父に頼み込んで退去手続きをしてもらった。家具は使えるものだけ持っていこうと思ったがどうしても気分的に気持ち悪い。なので全て処分した。しばらくは実家に置いてもらうことにして少しずつまた揃えようと思う。
願わくは、こっちにもまた同じような荷物が届けられないことを祈っている。今日は実家の犬を抱いて寝よう。
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