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第十七話 神器(リッチメンの町)
しおりを挟むオリバが最初に入った大邸宅に戻った頃にはすっかり夜になっていた。
同じセリフしか言わなかったあの男に会うためだ。
魔法のせいで何もできずゴロゴロしていたが、あの男の筋肉は筋トレを欲していた。
ひとり暮らしの息子が毎日ちゃんと食事をしているか心配する母親がごとく、あの男の筋肉が十分な筋トレを与えられているのかオリバは心配したのだ。
「すみませーん! 誰かいませんか?」
オリバは大邸宅の扉を叩く。
扉が開き、昼に会ったあの男が出迎えた。
ダンベルを片手に持ち、汗をかいている。
「キミはお昼に訪ねてきたね。あのときは何もできず悪かった。悪い魔法にかかっていたんだ。それと、こんな汗だくで申し訳ない。久しぶりに筋トレしてたところなんだよ」
男は嬉しそうに話す。
オリバは耳を澄ます。
男の筋肉から歓声が聞こえてくる。
ありがとう、オリバ!
筋トレばんざい!
筋肉ばんざい!
自由かつ平等に筋トレする権利(筋利)のために戦って良かったとオリバは心から実感する。
「申し遅れたね。私はこの町の町長・マチスだ。よろしく!」
「俺はオリバです」
ふたりは力強い握手をする。
「オリバ君、キミはウラノスを倒すと言って去っていったね。そして今、私にかけられていた魔法が解けている。まさか本当にあの大魔法使いウラノスを倒したのかね?」
真剣な面持ちでマチスが尋ねる。
「はい。魔法使いボサさん、ノバさんと一緒にウラノスを倒しました。手強い相手でした」
「信じられん! 今まで何十人も冒険者が挑み敗れ去った!」
「運が良かっただけです。俺には筋肉の神様の御加護がありますから」
「たしかにキミのその体は並大抵の努力では到達できない。それほど努力したキミなら、筋肉の神様も放っておけまい」
マチスは深くうなずく。
「オリバ君、キミはこの町を救った英雄だ。私たちができることならなんでもしよう。大金持ちになることも、伯爵の称号を得ることも、絶世の美女を紹介することもできる。この町の人たちは王国内で影響力をもっていてね。さあ、遠慮せずに何でも言ってくれ!」
正直全部叶えてほしい。
あんな夢、こんな夢、いっぱいあるのだ。
……なんか無性に円盤状の甘いお菓子が食べたくなってきた。
「本当に遠慮しないでくれ。キミはこの町を救ったんだ。それに見合った報酬を受け取る権利がある。さあ、何でも言いたまえ!!」
「どら焼き……ゴホン……す、すみません。ウラノスとの闘いで疲れて変なこと言いました。俺は神器を探しにこの町に来たんです」
オリバは今までの経緯を語った。
「そうか、キミも大変だね、オリバ君。王国の運命を背負っているとは。でも、キミのその分厚い筋肉ならどんな重い運命でも背負いきれると私は信じている。この町の神器をキミに託す。ちょっと待っていてくれ」
マチスは宝物庫へ去っていった。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらくしてマチスが宝箱をかかえて戻ってきた。
「さあ、開けたまえ! キミに我が町の秘宝を託す」
マチスは宝箱をオリバの前に置いた。
オリバは宝箱を開く。
革製の幅が広い真っ黒なベルトが入っていた。
オリバも筋トレするときに使っている。
トレーニングベルトだ。
このベルトを腹に巻くとスクワットなどの筋トレで腰を怪我するリスクが下がるのだ。
「これが我が町の秘宝だ。魔王と戦うときに力を発揮するという言い伝えだよ」
「ありがとうございます。このオリバ・ラインハルト、必ず大魔王を倒します!」
「ああ、キミならできるさ、オリバ君。大魔王を倒したらこの町にまた来てくれ。私が思いつくすべてのことをしてキミをもてなすよ」
「ありがとうございます。楽しみにしてます!」
「ほんとうにこの町を救ってくれてありがとう。そして、大魔王討伐という大役をかってくれてありがとう!」
マチスは深々と頭を下げた。
「いえいえ、困ってる人を見つけたら助けるのが人間です。困ってる筋肉をみつけたら助けるのがボディビルダーです。あなたの筋肉は筋トレを欲していましたから」
「さすがだ、オリバ君。また会おう!」
ふたりはもう一度、固い握手を交わした。
◇◆◇◆◇◆◇
オリバはマチスの大邸宅を出た。
次の目的地はどこだ?
神託の地図を広げる。
神託の地図に赤い点が浮かび上がる。
王国の北側に位置する大森林の中にあるといわれる『エルフの村』を示している。
困ったな……。
オリバの表情が曇る。
エルフの村はエルフが仕掛けた魔法で隠されている。
エルフ以外には辿り着けない。
魔法が使えないオリバにはエルフの村にたどり着く方法がない。
「あれ? シャベゴリさんだ!」
オリバは声の方向を振り向く。
尖った長い耳と緑がかった金髪の髪。
細くしなやかな体。
マチスの部屋で会ったエルフの少年リックだった。
「俺はオリバだ。シャベゴリじゃない。それに喋るゴリラを『しゃべゴリ』って略すな。また料理の出前か?」
「いやー、それがさー、暗黒の魔導士が倒されたからボクたちエルフはもう必要なくなっちゃってさ。クビってやつだね! 今からボクの村に帰るとこなんだ」
「そうか……。もう稼げなくなったのか……」
「全然気にしてないけどね! 暗黒の魔導士が倒されたのは良いことだし。ボクたちエルフは人間に雇ってもらわなくても生活できるからさ。割のいい短期の仕事だったって考えるよ」
リックは明るく笑った。
「リック、ひとつお願いがある……。俺は今からエルフの村に行く。村に帰るつもりなら、俺も一緒に行かせてくれないか?」
「うん、いいよ! オリバさんが悪い人じゃないってボクには分かるからね」
理由も聞かず、リックはあっさりと返事をする。
「あっ! でも……その……エルフの村には案内するけどさ、歓迎してくれないと思うよ……。みんなマッチョが嫌いなんだ……。むかし色々あってさ……」
突然、リックが口ごもる。
「分かった。覚悟しておく。教えてくれてありがとう。リックはマッチョが嫌いじゃないのか?」
「ボクが一番好きな動物はゴリラなんだ。だからオリバさんに親近感がわくんだよね」
「それはウホありがとう! ボディビルダーとしてウホ嬉しいよ」
「『ウホ』を『とても』みたいに使ってきたっ!?」
「『ウホ』の使い方は無限大だ。リックも試しにウホッてみないか?」
「う~ん……難しいな~……そうだ! 今日の天気は晴れ時々ウホッ!」
「いい! いいぞ、リック! なかなかのウホりっぷりだ!!」
「エヘヘ、照れるな~」
リックは頬をカリカリとかく。
「リック、お前にはウホの才能がある! 頑張ればウホ検定準2級なら取得できるぞ!」
「っえ? なにそれ? こわい。そんな検定いらないよ! 取得すると何かいいことあるの?」
「もちろんだ。オフィスや戦場でウホスキルは必須だ。ウホ検定準2級を保有してたら就活は余裕だぞ。いまウホらないで、いつウホるんだっ!?」
「永遠にウホらないよっ!! あっ……そ、そろそろこの町を出発しよう。今から出発すれば『北の大森林』には夜に到着できるよ! ボクたちの村には夜しかたどり着けない仕掛けがあるんだ」
リックは話題をそらして、歩き始めた。
オリバとリックはリッチメンの町を後にした。
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