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第十九話 森の暴れん坊
しおりを挟む「しまった! 奴らに囲まれた! オリバさん、注意して!」
リックが叫んだ。
リックの額から冷や汗が流れる。
オリバとリックは完全に包囲されている。
それらはふたりを取り囲み、ふたりの周りをグルグルと走り回っている。
「奴らの正体はなんだ!? リックは知ってるのか?」
「……うん、知ってるよ。この森一番の暴れん坊……。森の守護者たるボクたちエルフの言うことも聞いてくれない。こいつらには手を焼いてるんだ……」
「誰なんだ?」
「霊獣キングゴリラの一味だよ……」
リックがそう言った瞬間、前方の茂みが大きく揺れた。
「ウホォォォーー!!」
森全体に響き渡る咆哮とともに巨大ゴリラが現れた。
3メートルはあろうか。
なぜかキャップ帽子を斜めに被っている。
茂みの中に隠れていた子分のゴリラたちも姿を現す。
数十匹のゴリラにオリバたちは囲まれている。
「下がってろ、リック。俺が倒す!」
オリバはストレッチを始める。
「待って! ボクたちエルフは森の守護者。この森に住む生き物を傷つけたくないんだ。だからこいつらには手を焼いてるんだ……。ボクの魔法で逃げよう」
「……わかった。ここはお前たちエルフが守ってきた森だ。お前の判断に任せる」
「ありがとう! 今からゴリラたちの動きを封じるよ。その隙に後ろに逃げて! 森魔法! ルーツ・ハンド!!」
リックは手にしていた木の枝を地面に突き立てる。
地面から無数の木の根が現れ、ゴリラたちの足に巻き付く。
「ウホ?」
「ウッホ!?」
「ウッヒョ!?」
「ウッ、ゲホゲホ……」
ゴリラたちは口々に驚きの声を上げる。
風邪気味のゴリラもいるようだ。
リックとオリバはうしろに全力で走り出す。
ゴリラたちはふたりを捕まえようとするが足に木の根が絡んで動けない。
――いけるっ!
――逃げ切れる!
ゴリラたちの脇をすり抜けたとき、オリバはそう確信する。
頭上を何かが通り過ぎた。
……なんだあれは?
オリバがそう思った瞬間――
オリバの体は宙に浮き、背中から地面に激しく叩きつけられた。
リックも背中から地面に打ちつけられる。
地面に倒れたまま目を開けると、数多のそれがオリバの上を通り過ぎてゆく。
それを見た瞬間、オリバはキングゴリラ一味から逃げれないと悟る。
その物質はオリバの『向こう側の筋肉』をもってしても抗えず、すべての力を無効にする。
そう……『バナナの皮』だ。
ゴリラたちはふたりに向かって情け容赦なくバナナの皮を投げつけてきたのだ。
どれほどオリバの脚力が強かろうと、その力を発揮できる足場が必要だ。
だがしかし……バナナの皮は滑る。
ヌルヌル滑る。
摩擦や抵抗の概念なぞこの世に存在しないかのごとくよく滑る。
オリバもリックもバナナの皮を踏み、滑って転んで地面に叩きつけられたのだ。
ふたりが起き上がったときにはもう、ゴリラたちに取り囲まれていた。
辺り一面、バナナの皮の海だ。
もう逃げられない。
「ごめん……作戦失敗だよ……。できれば避けたかったけど戦おう!」
リックは覚悟を決める。
「わかった。俺がキングゴリラを倒す。俺がキングゴリラと戦っているあいだ、リックは子分のゴリラたちを抑えてくれ」
「任せて! でも……命は奪わないでね……。彼もこの森の生き物だからさ……」
「安心しろ。筋肉は優しい心に宿るものだ。俺は無益な殺生はしない」
「ありがとう! それを聞いてホッとしたよ」
リックがほほ笑んだ。
「さあ、キングゴリラよ、いつでも攻撃してこい。お前の攻撃が戦闘開始の合図だ」
オリバは両手を腰にあてる。
全身に力を入れ、背中(広背筋)を大きく左右に広げる。
ボディビルの規定ポーズ『フロント・ラットスプレッド』だ。
正面を向いているのに背中の横幅の広さ、逆三角形の体型をアピールできるポーズだ。
オリバの背中の筋肉はまるでムササビのように左右に広がっている。
オリバのことを仲間だと勘違いしたムササビがオリバのもとに集まってくる。
キングゴリラはオリバのポーズをじっと見つめる。
キャップ帽子に手をやり、帽子の中から何かを取り出してオリバの前に投げ捨てた。
マイクだ。
カラオケとかで使うあのマイクだ。
「キングゴリラがマイクを投げてきた。どういう意味かわかるか?」
オリバはリックに聞く。
「……なるほどね、そういうことか……。このマイクを使って勝負するってことだよ」
リックはこのマイクの意味が分かったようだ。
「マイクを使って勝負? ゴリラがどうやってマイクを使うんだ?」
「この森のゴリラには伝統的な決闘方法があるんだよ。縄張り争いが起こるとこの方法で決着をつける」
「どんな決闘なんだ?」
「それはずばり……」
「ずばり……?」
「……ゴリラップ!! ゴリラによるラップだよ!」
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