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第三十六話 大魔王 その二
しおりを挟む「さーてと、そろそろボクの攻撃ターンとさせてもらうよ」
ケロンデウスは腕をストレッチしながら、呑気に話す。
「だけどその前に……」
ケロンデウスはエレナをじぃっと眺めたあと、不敵にほほ笑む。
口を大きく開いた。
「ゲロッ!! ゲロゲロゲローー!!!」
ケロンデウスは大きな声で鳴いた。
衝撃波がオリバの体の髄にまでズシンと響く。
窓ガラスは割れ、魔王城が小刻みに揺れる。
「くっ……してやられたのう……」
エレナが悔しそうに呟く。
エレナはドレスから右足をのぞかせている。
太ももに縛られている四本の回復薬はどれも瓶が割れ、中身が床に散らばっている。
「これがボクのスキル『カエルの大合唱』さ。ガラスとか薄い板くらいなら衝撃破で破壊できる。しかも魔法では防げない。これでキミたちは魔法の無駄打ちはできなくなったね。回復薬を使って魔力を何度も回復されると面倒だからね」
ケロンデウスはニヤニヤする。
「『大合唱』って、おぬしひとりじゃろうに!」
エレナがつっこむ。
「まあね。でも、『カエル独唱』だと、なんか寂しい感じになっちゃうからね。そのへんは雰囲気的なアレだよ」
ケロンデウスはサラッと流す。
「ではボクの攻撃とさせてもらうよ! 水魔法! シャボン玉!!」
ケロンデウスの体色が青色に変化する。
ケロンデウスは右腕を上げ、その腕を斜め下に振りきった。
水かきのついている手のひらから、人ほどの大きなシャボン玉が三つ現れ、オリバたち目掛けて飛んでくる。
オリバは顔の前で腕を交差し、防御態勢をとる。
シャボン玉がオリバの腕に触れる。
破裂音とともにシャボン玉が割れ、爆風が発生する。
オリバはその爆風に吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
そのままズルズルと床に崩れ落ちた。
別のシャボン玉がルナに向かって飛んでくる。
「防御魔法! 岩の要塞!!」
ルナが床に手をつき唱える。
巨大な岩が床から突き出した。
シャボン玉の進行を拒む。
シャボン玉はその岩にぶつかり、破裂音とともに爆発する。
爆風によって巨大な岩は粉砕され、無数の破片となってルナたちのもとに飛んでくる。
「危ない! 水魔法! アイスウォール!!」
エレナはとっさに魔法を唱え、氷の壁を発生させる。
岩の破片は氷の壁に当たって弾き返された。
三つめのシャボン玉が氷の壁に向かって近づいてくる。
「おぬしら、すぐに逃げろ! この氷の壁ではあのシャボン玉は完全には防げぬ!」
エレナがそう叫んだ瞬間――
オリバがエレナとルナの前に飛び出し、背中を敵に向け、ふたりを正面から抱きしめた。
「防御スキル! トライアングル・バック!!」
オリバはふたりを抱きしめながら、背中に力をいれ、背中を左右に大きく広げる。
背中が見事な逆三角形となる。
シャボン玉が氷の壁に触れ、弾けて爆風を引き起こした。
爆風とともに無数の氷の破片がオリバたちに迫る。
オリバは爆風を背中で受ける。
オリバは吹き飛ばされるのをなんとか堪える。
「グッ……」
オリバは声を漏らした。
オリバの背中には数多の氷の破片が突き刺ささっている。
そこから血が滲みだす。
向こう側の筋肉をもってしても大魔王の攻撃は防げない。
「オリバ、大丈夫!? すぐに回復魔法をかけるわっ!」
ルナが回復魔法をオリバにかける。
「そなたは何者じゃ! 火魔法に闇魔法、挙句の果てには水魔法まで使いおる。魔法使いはひとつの魔法属性しか使えない。それが世界の道理じゃろう!」
エレナがケロンデウスを睨む。
「特殊スキルのお陰さ。このスキルこそが、ボクが歴代最強の魔王と呼ばれるゆえんなのさ」
ケロンデウスは目を細めてニヤニヤ笑う。
「それにしても、ボクの攻撃を受けて立っていられるとはさすがだね。でもこれはどうかな? さっきよりも強力な魔法だよ。火魔法! オタマジャクシ爆弾!!」
ケロンデウスの体色が赤くなる。
両手を前にだす。
ケロンデウスの目の前に大きな黒い炎が現れる。
その炎から尻尾が飛び出し、燃え盛る巨大なオタマジャクシが現れた。
オタマジャクシはまるで水中を泳ぐが如く、尻尾をヒラヒラさせてオリバたちに突撃してくる。
「オリバ、早く神器を使って! 強く念じるのよっ! 『力をお貸しください』って!!」
ルナが叫ぶ。
オタマジャクシはどんどん近づいて来る。
神器よ、頼む!
俺に力を貸してくれ――
オリバは心の中で願う。
手首に巻いている神器・リストラップが光り始めた。
それと同時に、ルナが分け与えたエルフの生命力にオリバの体が反応する。
オリバの耳がエルフのように長くなる。
黒い瞳は薄緑色に、黒い髪は緑がかった金髪へと変化する。
今のオリバは筋肉ムキムキなエルフのようだ。
オリバはオタマジャクシを拳で殴る。
オタマジャクシは煙となって消えた。
「なにっ! ボクの魔法を打ち消しただと……。これでどうだ! 闇魔法! 屍フェスティバル!!」
ケロンデウスが床に手をつける。
十数体の屍が床から湧き出し、オリバに襲いかかる。
次々と飛びかかってくる屍をオリバは殴り倒す。
オリバに殴られた屍は煙となって消えていく。
「まさかボクの魔法を打ち消す神器が存在するとはね……」
ケロンデウスの顔から余裕の表情が消える。
「でも、ボクには勝てないよ。ボクは物理攻撃も強い」
ケロンデウスはニヤッと笑い、姿を消す。
ケロンデウスはオリバの真上に飛び上がり、そのまま落下し、オリバにかかと落としを食らわせた。
オリバは両腕でかかと落としを食い止める。
かかと落としの衝撃で床が広範囲に渡って凹む。
それでもオリバは潰れない。
オリバの腰に巻いている神器トレーニングベルトが光っている。
この神器によってオリバの体幹は強化され、防御力が飛躍的に上がっているのだ。
「ボクの渾身の一撃を食い止めるとはっ! 腰に巻いてるその神器のおかげか……」
ケロンデウスは驚いた表情をはじめてみせる。
「だが、ボクのスピードにはついてこれまい!」
ケロンデウスは飛び跳ね、壁にぺたりと張り付く。
壁から反対側の壁へと自由自在に高速で飛び跳ねまわる。
オリバはケロンデウスにパンチを打ち込む。
ケロンデウスには当たらない。
ケロンデウスは自由自在に飛び跳ねまわり、オリバの隙をついて攻撃してくる。
「くっ……あのカエルの動きが速すぎて魔法で狙い撃ちできない。広範囲の攻撃魔法だとオリバも巻き込んじゃうし……」
ルナがふたりの戦いを見ながら歯ぎしりする。
オリバの攻撃は当たらず、ケロンデウスの攻撃は当たる。
オリバの体にダメージが少しずつ蓄積してゆく。
ケロンデウスの拳がオリバのみぞおちに深く食い込んだ。
渾身の一撃だ。
オリバは思わず膝を床につく。
くそっ……空中を自由に動きまわれれば、あいつの動きについていけるのに……。
オリバは腹を押さえながら心の中で呟く。
オリバが履いている神器・シューズが輝き始める。
体が急に軽くなったように感じる。
オリバはケロンデウスに飛びかかる。
ケロンデウスは斜め上に飛び跳ね、壁の高い場所にパタリと張り付く。
オリバは空中に見えない階段があるかのようにケロンデウスめがけて空中を走る。
ケロンデウスは反対側の壁へ飛び跳ねて逃げる。
オリバは追う。
ケロンデウスが反対側の壁に到着する前に、オリバはキックを食らわせて、ケロンデウスを床に叩き落とした。
「やるなっ! ここまでボクを追い詰めるとは……。でも、ボクの治癒力を甘く見るなよ!」
ケロンデウスが床から起き上がる。
体の傷がみるみる塞がっていく。
ケロンデウスはオリバに飛びかかり、パンチやキックを繰り出す。
オリバのスピードに勝てないと悟り、真正面からオリバと殴りあうことを選んだ。
オリバは両腕で頭や首や腹などの急所を守りつつ攻撃する。
ケロンデウスは一切防御をせずに100パーセントの力を攻撃に回す。
オリバのパンチがケロンデウスの頭をとらえ、頭からドス黒い血が流れる。
それでもケロンデウスは防御しない。
痛がる素振りさえ見せない。
「ボクは痛みを感じないっ! 体が壊れてもすぐもとに戻るぞ!!」
ケロンデウスが不敵に笑う。
オリバとケロンデウスの激しい殴り合いが繰り広げられる。
打撃の技術はオリバのほうが上だ。
オリバの攻撃が三発当たるごとにケロンデウスは一発しか当たらない。
ケロンデウスの治癒力でも回復が間に合わない。
ケロンデウスの体に少しずつ傷が増えてゆく。
「オリバ、頑張って!! このままいけばこのカエルを倒せるわよっ!!」
ルナは回復魔法をオリバにかけながら応援する。
オリバは攻め続ける。
ケロンデウスの体はボロボロになり、攻撃力も落ちている。
このまま押しきる!!
オリバは心の中で叫ぶ。
「ゲロッゲロッゲロッ! 面白いっ! このボクをここまで追い詰めるとはね……」
ケロンデウスは殴られながらも笑いながら喋る。
「いいだろう……。ボクの本当の力をみせてあげよう! 目覚めよ! 奈落の王・閻魔!」
ケロンデウスの体が急激に大きくなった。
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