37 / 42
第三十七話 大魔王 その三
しおりを挟む「いいだろう……。ボクの本当の力をみせてあげよう! 目覚めよ! 奈落の王・閻魔!」
ケロンデウスの体が急激に大きくなる。
背丈は2メートルを超え、全身が筋肉に覆われる。
その体はオリバよりも筋骨隆々だ。
二本の角が頭に生え、口から牙が飛び出る。
漆黒の顎髭が首一面を覆っている。
「これがボクの本当の力さ。捕食した相手の力を自分のものにできる。筋肉魔人王もこの力を利用して作り上げたのさ。ボクの体内にあの三人を取り込んで融合させ、吐き出したんだよ。ボクの秘密を知ったからには、キミたちは生かしておけないよ」
ケロンデウスはオリバを睨み、そのあとルナとエレナにも目を向ける。
「嘘よっ! 奈落の王・閻魔を倒せるわけないじゃないっ!! 魔王ベルゼブブだって閻魔には手を出せなかったわっ!」
ルナはケロンデウスを睨み返す。
「キミがそう思うのも無理はないねぇ。閻魔は本当に強かったからね。まあ、この魔法を見ればキミも納得するだろう。ボクはもともと水魔法属性なのさ。なのに闇属性魔法が使えるのは閻魔の力のお陰なのさ。これがあいつの魔法だよ。闇魔法! 閻魔の裁き!!」
漆黒の魔法陣がケロンデウスの前に現れる。
そこから漆黒の液体がレーザーのようにルナに向かって放たれる。
「防御魔法! 氷山!!」
エレナが唱えると、ルナの前に巨大な氷の塊が現れる。
漆黒の魔法が氷の塊に触れた瞬間、氷の塊は音も立てずに消えてなくなった。
「くっ……防御魔法! 大樹の防御壁!!」
ルナが床に手をつけながら魔法を唱える。
巨大な樹が床から飛び出し、ルナを守る。
しかし、漆黒の魔法が触れると巨大な樹は音も立てずに消失した。
漆黒の魔法は減速せず、ルナめがけてただ一直線に突き進む。
ルナの視界一杯に漆黒の魔法が広がる。
ルナは目をつぶった――
耳をつんざくような爆音が響く。
ルナが目を開けると、そこにはオリバが立っていた。
両腕を顔の前で交差し防御態勢をとっている。
「ふむ……。その神器は厄介だね。ボクが放つ魔法ならなんだって打ち消してしまう」
ケロンデウスは感心したように神器をまじまじと眺める。
「こやつの言っていることは本当じゃ! 奈落の王・閻魔は特殊な攻撃魔法を使える。そう書物で読んだことがある。触れるだけで他の魔法を打ち消せるというものじゃ!」
エレナが厳しい表情を見せる。
エレナには大魔王に勝つ方法が思い浮かばない。
「でもね、閻魔が『奈落の王』と謳われたのはこの特殊な攻撃魔法のお陰だけじゃないんだよ。彼が『奈落の王』と呼ばれたのはその怪力ゆえにさ」
ケロンデウスは右手を高々と上げ、拳を握りしめる。
そのまま腕を勢いよくおろし、拳で床を叩いた。
轟音とともに床が真っ二つに裂ける。
「それじゃ、反撃開始とさせてもらうよ」
ケロンデウスは不敵にほほ笑み、オリバに殴りかかる。
「防御スキル! トウモロコシ・アブズ!!」
オリバは腹筋に力を入れ、筋肉を固くする。
その硬さは世界最高の硬度を誇るオリハルコンをも凌ぐ。
しかも、神器トレーニングベルトを腹に巻いて防御力が飛躍的に上がっている。
オリバはケロンデウスの拳を腹筋で受ける。
「ぐはぁ……」
ケロンデウスの拳がオリバの腹筋にめり込んだ。
オリバは口から血を吐き倒れこむ。
息が吸えない――
声も出せず、床に這いつくばることしかできない。
「これが閻魔の怪力さ。いくらキミの筋肉が凄かろうと閻魔の筋肉には勝てないってことさ」
床に這いつくばっているオリバをケロンデウスは楽しそうに眺めている。
「俺はまだやれるっ!! 筋肉は決して裏切らないっ!」
オリバはふらつきながらも立ち上がる。
両方の拳を顔の前に待ってきて、ファイティングポーズをとる。
「いいだろう。力の差を教えてあげよう」
ケロンデウスもファイティングポーズをとる。
オリバが前に進み出る。
ケロンデウスはオリバの頭めがけてパンチを繰り出す。
紙一重でオリバはそのパンチをかわす。
ケロンデウスにわずかな隙が生まれる。
オリバは右拳をケロンデウスの顔にぶち込んだ。
倒れない――
オリバの渾身の一撃を頭に受けてもケロンデウスは倒れない。
殴られた状態のままオリバを睨みつけている。
ケロンデウスの右拳がオリバの腹をとらえる。
オリバは後ろに吹き飛び、壁に激突した。
「オリバ! しっかりして!!」
ルナが駆け寄り回復魔法を唱える。
ルナは息を切らし、手が震えている。
魔法を使いすぎて魔力がほとんど残っていない。
「わらわが時間を稼ぐ! わらわも魔力はもう残っておらぬ。これが最後の魔法じゃ。攻撃魔法! 氷の槍!!」
エレナは右手を上げる。
右手の周りに大量の冷気が集まってくる。
冷気の中から氷でできた長い槍が現れた。
エレナは氷の槍を投げ放つ。
氷の槍は回転しながら猛スピードでケロンデウスに向かって一直線に飛んでゆく。
ケロンデウスは両腕をだらんと下げたまま無防備に突っ立っている。
氷の槍はケロンデウスの左胸に命中する。
氷の槍が粉々に砕け散る乾いた音が城中に響き渡る。
ケロンデウスの胸にかすり傷ひとつついていない。
「ありえぬ……。氷魔法最高の攻撃力を誇る『氷の槍』じゃぞっ! まともにくらって無傷でいられるわけなかろうっ!!」
エレナは両手を床につきながら叫んだ。
立っていられないほど消耗している。
「オリバの治療は終わったわ。もう……私には魔力が残っていない……」
ルナは息を切らせながら呟く。
「おやおや、もう魔力切れかい? まあ、キミたちみたいな魔力の貯蓄量がすくない種族がS級魔法を連発すれば当然だね。最初に回復薬を壊しておいて正解だったよ」
ケロンデウスはニヤッと笑う。
オリバは立ち上がり、ケロンデウスに向かって歩いてゆく。
「オリバ君、まだやるのかい? もう魔法で助けてもらえないよ? キミの後ろにいるふたりは魔力切れだ。魔法が使えない魔法使いなんて、ただの足手まといさ」
ケロンデウスは呆れたように肩をすくめる。
ケロンデウスは強い。
パワーでは勝てない。
しかし、スピードなら俺のほうが勝っている。
オリバはそう分析し、戦い方を変える。
オリバはボクサーのように前後左右にステップを踏み始めた。
ケロンデウスの前で自由自在に舞い踊る。
ケロンデウスはパンチを繰り出すがオリバは軽やかにパンチをかわす。
ケロンデウスの攻撃が当たらない。
一撃あたれば致命傷を受けるそのパンチも当たらなければ恐れるに足りない。
焦りとイラつきでケロンデウスの攻撃がどんどん雑になってくる。
ケロンデウスの大振りなパンチをオリバはしゃがみ込んでかわす。
隙が生まれた。
オリバはケロンデウスの首にパンチを当て、すぐに後ろに飛び跳ね、再びケロンデウスの攻撃を回避することに神経を集中させる。
この攻防を繰り返す。
ケロンデウスに傷が少しずつ増えてゆく。
オリバの攻撃はケロンデウスの治癒スピードに勝っている。
ふいにケロンデウスが両手を前に突き出し、手のひらを開いた。
「お前の魔法は効かないぞ」
オリバは動じない。
「これは魔法じゃない。閻魔のスキルさ。閻魔はただの怪力バカじゃない。武術に優れていたのさ。これが閻魔のスキル『鬼殺し』だ!」
ケロンデウスは体の前で円を描くように腕をゆっくり動かす。
右手が円を描き、その次に左手が円を描く。
それを交互に繰り返す。
オリバに少しずつ近づいてくる。
隙がないっ!
こっちから攻撃したら殺られる――
オリバの本能がそう言っている。
ケロンデウスはじりじりと距離を詰めてくる。
オリバは足元に転がっている岩の破片を蹴飛ばす。
ケロンデウスの顔に向かって岩は一直線に飛んで行く。
岩はケロンデウスの前で突然消えた。
音も立てずに細かい粉となって床に落ちてゆく。
「無駄だよ。そんな小細工は通じないよ。このスキルに弱点なんてない」
ケロンデウスは前進してくる。
あと少しでケロンデウスの射程圏内に入る。
そうなればオリバに勝ち目はない。
オリバは必死に打つ手を考える。
これしかない……。
一か八か、やるしかない。
オリバは覚悟を決める。
ケロンデウスが一歩踏み出した瞬間――
オリバはケロンデウスに背を向け、後ろに向かって宙返りする。
後ろに飛び跳ねている最中でも神器のスニーカーの力で空気中を走り回る。
オリバはケロンデウスを飛び越し、ケロンデウスの背後に着地する。
ケロンデウスはまだこっちを振り向けていない。
チャンスだ――
オリバはケロンデウスの後頭部めがけてパンチする。
ケロンデウスは後ろを向いたまま、背泳ぎをするかのように右腕を後ろに回し、オリバのパンチを撃ち落とした。
オリバはバランスを崩し前のめりの態勢になる。
ケロンデウスは振り向きざまに己の全体重を左肘にのせ、オリバの腹に肘打ちを食らわせた。
オリバは後ろに吹き飛び、壁に激突し、そのまま前のめりに床に倒れた。
「オリバ、大丈夫かっ! こんなに傷つきおって……。わらわに魔力が残っておれば……」
近くにいたエレナがオリバの頬に手をやり悔しそうに呟いた。
オリバはエレナの呼びかけに答えない。
口から血を流して目を閉じている。
「だから言ったのに。このスキルに弱点なんてないってね。オリバ君だけじゃなくて、キミたちふたりも生きて返さないよ。楽しかったけど、ボクの秘密を知っちゃったからね」
ケロンデウスはオリバたちに向かって近づいてくる。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる