【朗報】体型に自信のなかったこの俺が、筋トレしたらチート級の筋肉になった! ちょっと魔王倒してくる!【ラノベ】

ネコ飼いたい丸

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第三十八話 大魔王 その四

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 オリバはエレナの呼びかけに答えない。
 口から血を流して目を閉じている。

「だから言ったのに。このスキルに弱点なんてないってね。オリバ君だけじゃなくて、キミたちふたりも生きて返さないよ。楽しかったけど、ボクの秘密を知っちゃったからね」

 ケロンデウスはオリバたちに向かって近づいてくる。

 あやつを倒す方法はないものかっ!?
 ここでわらわたちは全滅してしまうのか……。

 目を覚まさないオリバの顔を見つめながらエレナは焦る。

 ふとオリバの耳に目が留まる。
 エルフのように長くなったその耳に。

「ルナ! 大魔王を倒せるかもしれぬ!! どうやってオリバにエルフの生命力を与えたのか教えるんじゃ!!」

 エレナは顔をルナに向ける。

「はぁ!? こんな時になに意味わかんないこといってるのよっ! 大魔王が近づいてくるわっ! 早くそこから逃げてっ!!」

 ルナが怒鳴る。

「ダメじゃ、逃げられん! 意識を失っているオリバをこの場に残せるわけなかろうっ!! わらわは魔力が切れてもう魔法は使えぬ。早くその方法を教えてくれいっ!!」

「意味わかんないけど……キスよ! キスして口から生命力をオリバに移したのよ!」

 釈然しゃくぜんとしない顔をしつつもルナは答える。

「そうかっ! ……ええい、ままよっ!!」

 エレナはそう吐き捨て、すぅっと深呼吸し目を閉じる。
 オリバに覆い被さった。

 エレナの唇がオリバの唇に触れる。

 ケロンデウスがふたりの前に来た。

「おやおや。こんなときに悠長ゆうちょうだね」

 キスしているふたりを見下ろしながらケロンデウスは喋り続ける。

「まあ、楽しませてもらったし、キミたちの最期くらい選ばせてあげよう。キスしながらふたりで一緒に死ぬのもロマンチックかもね。それじゃあ、さようなら!」

 ケロンデウスは右手を振り上げ、ふたりに向かって振り下ろした。

 …………。

「なにっ!!」

 ケロンデウスは驚きの声を上げ、折れている自分の右手を不思議そうに見つめる。

 オリバは床に倒れたまま右拳を天井に向けて突き立てている。
 オリバの拳がケロンデウスの攻撃を打ち返したのだ。

 オリバは立ち上がる。
 左の瞳は青色になり髪は銀色に輝く。

 右目は薄緑色、左目は青色。
 エルフのように長い耳。
 氷の民のような銀色に輝く髪。

 今のオリバはエルフと氷の民を足し合わせたような姿だ。

「上手くいきおった! わらわの生命力をそなたに移せたぞ! エルフがスピードや攻撃回避に優れた種族ならば氷のたみはその硬さが武器じゃ。オリバよ、今のそなたの拳はすべてを砕けるぞ!」

 エレナは体が半透明になっている。
 生命力をオリバに移したからだ。

「俺の勝ちだ!」

 オリバは右拳をケロンデウスに打ち込む。

 ケロンデウスは左腕で防御するがオリバの拳がケロンデウスの左腕を折り曲げる。

「肩メロン・タックル!!」

 氷の民の生命力で究極に硬くなったオリバの右肩がケロンデウスの胸に食い込む。

「ゲッ!! ゲロッ……」

 ケロンデウスは口から真っ黒い液体を吐き、床に膝を着いた。

 オリバは攻撃を止めない。

 ケロンデウスの再生能力は高い。
 ここで一気に倒すしか勝ち目はない。

 オリバはケロンデウスの左膝を蹴り、ケロンデウスを仰向けに倒す。

「これでトドメだっ!!」

 オリバは天井高く飛び上がる。

 天井を思いっきり蹴り、勢いをつけてケロンデウスの真下に急降下する。
 拳を強く握り、右腕を後ろに引き絞る。

 両腕が折れ、脚も破壊されているケロンデウスにオリバの攻撃はかわせない。
 オリバは凄まじいスピードでケロンデウスに近づく。

 ケロンデウスの腹が急激に膨らむ。
 オリバに向かって何かを吐き出した。

 真っ赤な風船のような巨大な虫がオリバの視界に広がる。

 オリバがその虫を左手で跳ねのけた瞬間――

 耳をつんざく破裂音とともに強烈な閃光が城中に広がった。

 眩しくて何も見えない――

 オリバは全力で右拳を打ち放つ。

 オリバのパンチは床に大きな穴を作った。

 ……しかし、そこにケロンデウスの姿はない。

「いやー、今のは本当に危なかったよ。やるね、オリバ君。このボクが身の危険を感じたよ。随分と前に風船虫ふうせんちゅうを捕食しておいて良かった。触れると猛烈な光を発して破裂する虫さ」

 ケロンデウスはオリバの前に立っている。
 まだ体の傷は回復しきれていない。

「無駄だ。俺に同じ手は通用しない」

 オリバはケロンデウスを睨む。

「問題ないさ。もうあれを使う必要はない。今からボクは奥の手を使うからね! 目覚めよ! ドラゴンの王・暗黒竜あんこくりゅう!!」

 ケロンデウスの体がさらに一回り大きくなる。
 全身が固い鱗で覆われ、目は炎のように赤く輝く。
 背中からは漆黒の翼が飛びだし、ドラゴンのような尻尾が生える。

「これがボクの最終形態だ! 閻魔と暗黒竜の力を獲得した魔王、それがボクだ! すべての魔王を統べる真の王とうたわれる大魔王さっ!!」

 ケロンデウスはドラゴンのような尻尾を鞭のようにして床を何度か叩いた。
 地震が起きたかのように大地が揺れる。

「な、なんじゃあれは……。あんな魔力見たことがないっ!! 漆黒の魔力の中に青色と赤色の魔力が混じっておる! こんなことが起こりうるのか……」

 エレナが呆然ぼうぜんと大魔王を見つめる。

「オリバ君、キミはエルフと氷の民から生命力を分けてもらいその体になった。ボクは閻魔と暗黒竜を捕食してこの体になった。どっちが世界最強か決着をつけようじゃないかいっ!!」

 ケロンデウスは尻尾を地面に打ちつけ大きな音をだした。
 その音が戦いの合図だ。

 ケロンデウスは渾身こんしんの右パンチをオリバに打ち込む。
 オリバも渾身の右パンチを打ち放つ。

 ケロンデウスの拳がオリバの胸にめり込み、オリバの拳はケロンデウスの頬を捉える。

「ぐはぁ……」

 オリバは血を吐いて後ずさる。

 ケロンデウスも牙が折れダメージを受けている。
 だが、傷はすぐに回復してゆく。
 自然治癒力が飛躍的に高くなっている。

「ボクのほうがずっと強いみたいだね。キミのその力は長く持たない。借りてる生命力を使い果たしたらおしまいさ。でもボクは数時間この体でいられるよ。ダメージを受けてもすぐ治癒する。キミの負けだよ、オリバ君」

 ケロンデウスは勝ち誇った声で言い、オリバに詰め寄る。

 ふたりは激しい殴り合いを繰り広げる。
 しかし、オリバが二発攻撃するたびにケロンデウスは三発攻撃してくる。

 ケロンデウスは防御を一切せず攻撃に専念してくる。
 オリバはケロンデウスの顔や首など急所を攻撃するがダメージを与えてもすぐ回復してしまう。

 オリバの傷はどんどん増える。
 ケロンデウスは無傷だ。

「ルナ、エレナ! 今すぐ逃げろ! こいつには勝てないっ!!」

 オリバはケロンデウスと殴り合いながら叫んだ。

 大魔王に勝てる可能性が一切ない――

 俺の体もそろそろ限界だ……。

 オリバは殴り合いの中で大魔王との圧倒的な実力差を実感する。

「なにバカなこと言ってんのよっ!! あんたを置いて逃げられるわけないでしょっ!」

 ルナが怒鳴る。

「そうじゃ! そなたを置いて逃げるなんて真似、できるわけなかろうっ!」

 エレナも続く。

「頼む! 俺の最期の頼みだ! 逃げてくれっ!!」

 オリバが悲痛な声で叫びこう続けた。

「ケロンデウスの秘密を知ってるのは俺たち三人だけだ! お前たちふたりは逃げ帰ってこいつの秘密を世界に公開してくれっ! こいつに勝てる方法が見つかるかもしれない。今の俺じゃこいつに絶対勝てない。犠牲はひとりで十分だ!!」

「ふざけないでっ! あんたを見殺しにしろっていうの!? 何もできずにお父さんとお母さんを見殺しにした私に、今度はあんたを見殺しにしろっていうの!?」

 ルナは目に涙を浮かべて怒鳴った。

「ルナ、落ち着くのじゃ! オリバが正しいぞ! 魔力の切れた魔法使いふたりがここにいて何になる!? 足手まとい以外のなにものでもなかろう!」

 エレナがルナをなだめる。

「いやよっ! いやっ!! 絶対ここから動かない! オリバを見捨てて逃げるくらいなら、ここで死んだほうがマシよっ!!」

 ルナは叫ぶ。
 その瞳から涙が流れる。

 乾いた音が響いた。

 エレナはルナの頬を叩いた。

「……いきなりなにすんのよっ!! 私のことなんて何にもしらな……」

 ルナはエレナの顔をみて言葉を失った。

 エレナは泣いていた。
 青く澄んだ瞳から大粒な涙がとめどなくこぼれ落ちる。

「わらわだってこんな選択しとうない! 惚れた男を見殺すなぞしとうないわっ! わらわひとりの命ならオリバとともにここで最期を迎えたいっ! じゃが……わらわは氷の国の女王。氷の民を守る義務がある。ケロンデウスの秘密を世界に広めなくてはならぬのだ!! ルナよ、そなたもエルフの村のおさじゃろう! 自分だけの命だと思うでないぞっ!!」

 エレナは拳を強く握り、泣きながら歯を食いしばる。

「……わかったわよ。私はエルフの村の長、ルナ・バレンタイン! 村人の命は私が守るっ! ……行きましょう!」

 ルナは覚悟を決める。
 たとえこの先一生、オリバを見捨てたことを後悔しようとも、村長としての役目を果たそうと。

 ふたりは泣きながら扉に向かって走りだす。

「逃がさないよ」

 ケロンデウスは漆黒の翼で羽ばたき、ふたりを追った。


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