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第11話 結婚式
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城の外側からエマの部屋の窓をノックする。
王女の部屋に俺が入れるわけがない。
部屋の扉は親衛隊が守っている。
こんなことはしたくないがどうしてもエマに聞きたいことがあった。
「ノーズさん!? こんな夜中に一体どうしたのですか?」
驚きつつも、エマは窓を開ける。
泣き腫らした目。
片手に握っているハンカチはびっしょり濡れている。
「こんな夜中に悪いな、エマ。お前が明日に結婚すると聞いてどうしても今日、聞いておきたいことがあったんだ」
「その話ですか……」
下を向くエマ。
「俺が立ち入る問題じゃないことは分かっている。だが、それでも聞かせてくれ。こんなつらそうな顔をしているお前を見たことがない。エマ、本当にツルスベスキーと結婚したいのか?」
「これは王族でも変えられないルールなんです。ツルスベスキーさんと結ばれれば、この国はより栄えます。ツルスベスキーを恐れて、他の国から攻められることもありません」
「それは分かる。だが、俺が聞きたいのはお前の気持ちだ、エマ。お前はツルスベスキーと結婚したいのか?」
「私の気持ちは関係ありません! 国の繁栄のために結婚相手を選ぶのは珍しいことではないんです。私はこの国の王女です。市民の人たちのように恋愛を楽しみ、好きな人と結婚するなんて夢は物心ついたときに捨て去りました!」
涙目で俺をにらむエマ。
ハンカチをぎゅっと握り締めている。
「そうか……お前はほんとうにそれでいいんだな……?」
胸が苦しくなる。
俺はエマが婚約破棄してくれることを無意識に期待してここに来たのかもしれない。。。
「はい、私は……構いません……。それに……ツルスベスキーさんもかわいそうな人なんです。昔は静かで優しい人でした。あの事件以来、すっかり変わってしまったんです……」
「あの事件? もともと知り合いだったのか?」
「はい、ツルスベスキーさんとは小さいころからの知り合いです。あの方は大司祭の家系ですので王族とも頻繁に交流がありました。その頃のツルスベスキーさんは普通の子どもで戦いはむしろ弱いほうでした。ツルスベスキーさんと私、それに私の侍女だったアリアの三人は同い年だったこともあり、三人でよく遊びました。」
懐かしそうに目を細めるエマ。
「大司祭の家系のせいで、ツルスベスキーさんは仲の良いお友達が誰もいなかったんです。聖典に背く言動をすれば罰せられます。みんなそれを警戒して本音で話せないんです。大司祭の家系はそれほど力があるんです」
謁見の間で聞いた精鋭20人が投獄された話を思いだす。
エマは話を続ける。
「ツルスベスキーさんはいつもひとりで本を読んでいました。いつも少し寂しそうでした。でも、私の侍女だったアリアは違いました。普通の友達として接していました。ツルスベスキーさんもアリアと話しているときだけは楽しそうでした」
「侍女だった? 今はこの城で働いていないのか?」
「はい……アリアは12歳の若さで亡くなりました。あれは6年前の話です……」
そう言ってエマは6年前の事件を語り始めた。
*******
「ツルスベスキーは本当にどんくさいな~。エマ様を見習いなさい」
宮殿の中庭。
空は気持ちよく晴れている。
アリアは縄跳びを失敗したツルスベスキーさんをからかっている。
「そんなこといっても……僕は運動より読書が好きなんです!」
「暗いな~ツルスベスキーは。難しい聖書ばっかり読んでるからそうなるんだよ。本なんかより運動のが楽しいよ! ねぇ、次は何して遊ぼっか!?」
アリアはツルスベスキーさんを恐れていない。思ったことを素直に口に出す。
アリアと言い合いしながらも、ツルスベスキーさんも楽しそう。
「エマ様は何をされたいですか?」
アリアは私のほうを向く。
「そうですね。私は花束を摘んでブーケを作りたいですわ」
「承知いたしました! すぐに道具を持ってきます。あれ? 急に空が曇りはじめました……」
空を見上げるアリア。
空がどす黒い雲で覆われている。
春なのに悪寒がする。
雨も降り始める。
「うっ……なんか気持ち悪い……邪悪な気配がします……」
前かがみになってお腹を抱えるツルスベスキーさん。
カーンカーン!
宮殿内に警報が鳴り響く。
「なっ、なにあれ!?」
アリアは空を指さす。
その先には大きなコウモリのような生き物が空中を旋回している。
「あれはガーゴイルです! なんで悪魔が宮殿に……。牙に猛毒を持っています。あいつに噛まれると助かりません。絶対に噛まれないでください!」
不安そうにガーゴイルを見つめるツルスベスキーさん。
旋回を止めるガーゴイル。
こっちに顔を向ける。
「気づかれたっ! エマ様、ツルスベスキー! 二人はそこの木の後ろに隠れていてください。私があいつを倒します」
アリアは強い。王女の護衛ができるように特殊な訓練を積んでいる。
アリアは袋から2個の小さな十字架を取り出す。
「僕がおとりになります。二人はその隙に逃げてください。あいつは僕の聖職者の魔力を嗅ぎつけてここに来たんだと思います」
「あんたはそこに隠れていなさい! 私より弱いくせになに言ってるの!」
「これは僕のせいです! 二人に迷惑はかけれません!!」
「うるさいわねっ! 私はあんたより100倍強い。それにこの十字架には強力な魔術が込められているの! あんたは黙ってそこで見ていないさいっ!!」
「でもっ!」
「うるさいっ! 私がこうしたいのっ! あんたがガーゴイルから逃げきれる訳ないじゃない。私はまた三人で一緒に遊びたいの! 私たち友達でしょ!!」
アリアはツルスベスキーさんを無理やり押して、木の陰に移動させる。
ガーゴイルがこっちにむかって一直線に飛んでくる。
「神よ、悪しきものを裁きたまえ!!」
アリアは十字架を一つ、ガーゴイルに向かって投げる。
十字架は強烈な光を放ち、ガーゴイルに向かって飛んでいく。
「ガァァアアアア!!!!」
ガードイルが大きく口を開けて叫ぶ。
ガーゴイルの前に大きな黒い魔法陣が浮かびあがる。
十字架はその魔法陣に飲み込まれて消える。
「そんなっ……この攻撃が通用しないなんて……だったらもう……」
アリアは残り一つの十字架を握りしめる。
「アリアさん、すみません! 僕がおとりになります。二人は逃げてくださいっ!! ガーゴイル、僕はここだ!!」
ツルスベスキーさんは木から飛び出して走り出す。
ガーゴイルはツルスベスキーさんのほうに顔を向ける。
「待ちなさいっ!!」
アリサはツルスベスキーさんを捕まえて、そのまま背負い投げをする。
「うっ! なっ、なんで……」
地面に背中を打って悶絶するツルスベスキーさん。
「言ったでしょ。私がガーゴイルを倒すって」
アリアは私のほうを振り向く。
「エマ様、私はエマ様の侍女として働けて幸せでした。エマ様ならこの国をもっと素晴らしくできると信じております」
「アリア!? 急に何を言っているの?」
アリアは私に向かって一礼する。
「ツルスベスキー、あんたと一緒に遊べて私は楽しかったよ。また三人で遊べないのは悲しいけど、あんたは私の分まで楽しんでね」
ツルスベスキーさんに向かって微笑むアリア。
「に……逃げてください……」
ツルスベスキーさんは地面に倒れたまま動けない。
ガーゴイルは倒れているツルスベスキーさんに向かって急接近してくる。
――バイバイ、みんな
小さな声でアリアが呟く。
アリアはガーゴイルの前に飛び出て、ガーゴイルを抱きかかえる。
アリアの首元に噛みつくガーゴイル。
「……やったわね。でも、あんたも道連れよ!! 神よ、悪しきものを裁きたまえ!!」
アリアは十字架をガーゴイルの背中に突き刺す。
「ギャアアアアア!!!」
ガーゴイルの全身が光り、黒い霧になって空中に消える。
「アリア! 目を覚ましてください!! すぐにお医者様を呼びます。待っていてください!」
なんどゆすってもアリアは目を開けない。
とても穏やかな顔をして眠っている。
ツルスベスキーさんは倒れたまま、呆然としている。
目を大きく見開いて、眠ったままのアリアを見つめ続けている。
涙があふれてくる。
私は王女なのにただ見ているだけしかできなかった。
「助けてください!!! 早くお医者様を呼んでください!!!」
土砂降りの中、私は喉が枯れるまで叫んだ。
*******
「アリアはその日の夜に医務室で亡くなりました……。後で知った話ですが、ツルスベスキーさんはアリアがなくなったすぐあとに今の力を手に入れたようです。神様もツルスベスキーさんを不憫だと思ったのでしょう……」
「そんなことがあったのか……。だが、なんで悪魔が宮殿にいたんだ?」
「悪魔の召喚は聖典によって禁止されております。しかし、より強大な力を求め、悪魔を召喚したものが宮殿内にいたためです」
「そうか……それは残念だな」
「ツルスベスキーさんの今の言動には私も思うところがあります。国民や家臣たちの不満も理解しております。ですが、ツルスベスキーさんも被害者なんです。あの方を小さい頃から知っている私には、あの人を手放しで責めることはできません。今はすっかり昔の面影もなくなり、人に情をかけることもしなくなってしまいました。でも本当は優しい人なんです」
「強すぎる力を与えられたものはその力をコントロールできずに精神に異常をきたす。ツルスベスキーはきっとそういう状態だな」
「そうかもしれません……。聖典に背いたとしてご自身のご両親まで投獄されました……」
「そんなやつとお前は一生過ごすつもりなのか? 1年、2年の話じゃない、何十年も一緒にいる相手だぞ」
「……私はこれでいいんです。何度も同じ質問をしないでください……」
下を向くエマ。
その声は震えている。
「すまん。俺はただお前が本当に後悔しないか確認したかっただけなんだ。40年以上生きてきて確信していることがある。自分のこころに嘘はつけないってことだ」
俺は昔の苦い記憶を思い出しながら言葉を続ける。
「無理やり自分をごまかし生きていても、『こんなの間違っている』って心の声がずっと小さく響き続けるんだ。その声は時間がたっても消えない」
「いいんです! 私はもういいんです!! 放っておいてください!」
エマは突然大きな声をだす。
俺に背中を向ける。
「王女様!? どうされましたかっ!?」
部屋の外から親衛隊の声が聞こえてくる。
「もう行ってください……親衛隊に見つかると大ごとになります」
背中を向けたまま話すエマ。
「だが……まだ話がっ……」
「お願いします! もう行ってください!! ……ノーズさんと話すと辛くなってしまいます……」
エマがそう言ったところで部屋のドアが開く。
エマともっと話したいがしかたがない……。
俺は窓から部屋の外に飛びだす。
エマは俺に背を向けて、小さく肩を震わせていた。
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