12 / 17
第12話 結婚式 その2
しおりを挟む純白のウエディングドレス。
お母様もかつては着た、王家に伝わるドレスだ。
子どもの頃に結婚式ごっこを何度もして、その度に着ることを夢見ていたドレス。
それを私は今、身に着けている。
あとはお父様とバージンロードを歩き、ツルスベスキーさんが待つ祭壇に向かうだけだ。
「本当に綺麗じゃ、エマ。若いころの母さんそっくりだ……」
お父様は目を細めて私を見ている。
鏡に映った自分を見つめる。
純白のドレスに身を包んだ私。
子どものころにずっと憧れていた姿だ。
自分でも、今が一番綺麗だと思う。
それなのに――
「なっ……!? どうした、エマ? 何があったのじゃ?」
心配そうにのぞき込むお父様。
涙が止まらない。
意思に反してボロボロと頬を伝う。
私は相手を選べない。
そう知ってから覚悟はしてきた。
それなのにノーズさんに出会って、何も知らなった子どものときの気持ちを思い出してしまった。
好きな人の横でウエディングドレスを着ている私。
そんな姿を夢みていた気持ちを思い出してしまう。
「……あれ……なんででしょう? き、きっと感極まってしまったのかもしれません。結婚式は女性の憧れですから」
作り笑いをしても、涙が止まらない。
『自分のこころに嘘はつけない』か……。
ノーズさんの言ってたことは本当だったな。
涙を拭きながら昨日のやり取りを思い出す。
「エマ……もしお前がこの結婚を望まないならば正直に言ってくれ。お前は私の唯一の家族じゃ。国王としてではなく、一人の父親として話してくれ」
私をみつめるお父様。その瞳には強い覚悟が潜んでいる。
でもこれでいいんだ。
これが正解なんだ。
この気持ちを秘めて私はずっと生きていくんだ。
「いえ……違うんです。お母さまもこのドレスを着たと思ったら、お母さまのことを思いだしてしまったんです」
「エマ……わしはお前の父親じゃ。お前の幸せをいつも願っている。だから本音で話してくれ」
「お父様……たっ……」
――助けてください。
そう言いそうになって、ごくりと唾を飲みこむ。
言えない。
言えばお父様はこの結婚式を中止にし、聖典に背いた罪で投獄される。
お父様のご年齢を考えると投獄中に生涯を終えることになるかもしれない。
私がツルスベスキーさんと結婚すれば、お父様は投獄されない。
国も平和になる。
みんな幸せになれる。
「単に感情的になってしまっただけなんです。さあ……ツルスベスキーさんが待つ祭壇へ行きましょう」
涙を拭き、前を向く。
カーテンの向こうは式場。
私は王女。みんなを守るんだ。
これでいいんだ。
これが正しい選択なんだ。
「新婦、エマ王女のご登場です!!」
司会の声ともに、式場からは溢れんばかりの拍手が聞こえてくる。
今の私にはそれがとても乾いた音に聞こえる。
お父様の横に並び、お父様の腕を掴む。
二人でバージンロードへ一歩踏み出したとき――
「なんだあれはっ! コウモリ?? 早く追い出せ! 英雄と王女様の結婚式だぞ!?」
カーテンの向こう側が急に騒がしくなる。
「一体どうしたのじゃ!? ワシは様子を見てくる。お前はここで待っていてくれ」
お父様は式場に入っていく。
「エマ、話がある!」
私の目の前にノーズさんが現れた。
◇◆◇◆◇◆◇
「エマ、少しだけ時間をくれ! 非常識なことは分かっている。だが、ここでお前と話さないと俺は一生後悔すると思ったから来た」
「……」
純白のドレスに身を包んだエマ。
下を向き俺と目を合わせようとしない。
「なんで……なんで来たんですかっ! ノーズさんには関係ないじゃないですかっ!?」
涙目で俺をにらむエマ。
「すまん……。だが少しだけ時間をくれ。迷惑だと分かっているが、俺も自分の心に嘘はつけない。俺のために答えてくれ。エマ、お前は本当にツルスベスキーと結婚したいのか? お前がこの結婚を望まないなら、俺がお前を助けるぞ」
「余計なお世話です!! これ以上、私にかかわらないでください! 私は王女なんです!! みんなを守る義務があるんです!!」
「それは立派な志だと思う。だが、王女だって誰かの助けを借りてもいいハズだ。今までの旅でも俺たちは助け合って来ただろう?」
「その優しさが辛いんです!! 私にこれ以上、優しくしないでください……」
大粒の涙をポロポロと流すエマ。
「今、ノーズさんと話すと一緒に旅した思いでが蘇ってしまいます。私を助けてくれたときのこと。一緒に冗談を言い合って笑ったこと。宿屋に泊まったときに見た夢のこと。子どものころに憧れたあの気持ち……。今……一番思いだしたくない気持ちなんですっ!!」
「鼻毛ナンバー182『真実の鼻毛』、発動!」
鼻の左穴の入り口にある鼻毛を引き抜く。
真っ直ぐな直毛。
鼻毛は小さい棒になる。
「これは「真実の棒」だ。この棒に向かって話すと自分のこころが分かる。心の底から思っていることならこの棒は曲がらない。本心と逆のことを言うとこの棒は曲がる」
真実の棒をエマに手渡す。
「お前の人生だ。だから俺は口を出せない。この棒を使う、使わないもお前次第だ。だが、自分の気持ちに嘘はつけない。だから俺はここ来た。あとで一生後悔したくないから、俺は俺のためにここに来た。エマ、俺を信じてくれ。俺ならお前を助けることができる。もし助けが必要なら言ってくれ」
「ありがとうございます……」
真実の棒を涙目で見つめるエマ。
俺にできることはここまでだ。
エマがどんな選択をしても、俺はそれを受け入れるだけだ。
……
長い沈黙が流れる。
真実の棒を持つエマの手はずっと震えている。
……
エマは握りしてめいた真実の棒を手放す。
――カラン
真実の棒は床に落ちて乾いた音を響かせる。
「……これは必要ありません……」
下を向いたまま話すエマ。
床に落ちた真実の棒を見て、俺は胸が苦しくなる。
だがしょうがない。やれるだけのことはやった。
「そうか……こんなときに悪かったな。伝えたいことはそれだけだ。俺はもう行かないとならん」
そう言ったとき――
エマが俺の懐に飛び込んできた。
「真実の棒なんて必要ないんです……。最初から知っていたんです。ただ、ずっと見ないようにしてきました」
俺の胸に顔を埋めたまま呟くエマ。
「子どものころにずっと憧れていた光景。好きな人の横でウエディングドレスを着ている私。でも……ノーズさんに出会ってそれはどんどん大きくなっていったんです。目を逸らすことなんてもうできないほど大きいんです。やっぱり、自分の気持ちに嘘なんてつけないんですね……」
両腕を俺の背中にまわし、力いっぱい抱きしめてくるエマ。
エマは顔を上げ、潤んだ瞳でまっすぐ俺を見つめる。
「ノーズさん……助けてください……」
「ああ……もちろんだ」
その一言だけで十分だ。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。
地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。
魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。
これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。
「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる