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第16話 決闘 その3
しおりを挟む「まだだっ! 鼻毛は絶対にネバーギブアップ!!」
地面はツルスベスキーに燃やされた鼻毛の灰が厚く積もっている。
ツルスベスキーに踏みつけられている左手に魔力を込める。
鼻毛の灰が青白く光りはじめる。
大剣の切先が俺の胸に触れる。
「鼻毛ナンバー000『鼻毛ボンバーイェー!』、発動!!」
地面に積もった灰が青白い炎を上げて大爆発する。
ツルスベスキーは空高く吹き飛ばされる。
鼻毛に込めていた俺の魔力が灰になることで濃縮される。
その灰を大量に集めることで火薬のように爆発させるスキル。
破壊力は最強だ。しかも俺自身の魔力を爆発させているため俺はダメージを受けない。
大量の鼻毛を犠牲にする最終手段だ。
このスキルをくらって立ち上がったものはいない。
ドシャッ!!
頭から地面に激突するツルスベスキー。
地面に寝たまま動かない。
甲冑全体にヒビが入っている。
「ぐっ……僕はここで倒れる訳にはいかない……この国を聖典で導くために……」
大剣を杖替わりにしてヨロヨロと立ち上がるツルスベスキー。
このスキルをくらって立ち上がれるものがいるとは……。
だが、このスキルは爆発の衝撃によってダメージを与える。全身が甲冑に覆われているツルスベスキーでも体内に衝撃が伝わっている。
「ガハァッ……」
ツルスベスキーが咳き込む度に兜から赤い蒸気が立ち上る。
兜の中で口から血を吐いているんだろう。
感情のない静かな男だと思っていたが間違っていた。
こいつの勝利への執念は凄まじい。
「やりますね……ですが、これで僕の勝ちです! あなたには攻撃できる鼻毛はもうない! 地面に落ちていた灰ももうありません!」
大剣を構えるツルスベスキー。
「来い、ツルスベスキー! これで決着をつけるぞ!!」
鼻の前に手を置き、戦闘態勢になる。
――ザッ!
俺の前に飛び込んでくるツルスベスキー。
「鼻毛ナンバー999『ホワイト鼻毛』、発動!!」
鼻の左穴の奥にある白い鼻毛を一本引き抜く。
数ある鼻毛の中でもたった一本の白髪の鼻毛。
40歳になったときに突然出現した鼻毛。
髪の毛と同じように鼻毛も加齢によって白くなるのだ。
この鼻毛に出会ったときは少しショックだった。
白い鼻毛は真っ白なフェンシングの剣に変形する。
ツルスベスキーが大剣を俺の頭に振り下ろす。
右に飛んで大剣をかわす。
フェンシングの剣を鎧の亀裂が入っている箇所に突き刺す。
ガチッ!
鎧を貫通できない。
「勝った! その剣はすぐ灰になる。これで終わりです」
ツルスベスキーは俺に向かって大剣を下から上に突き上げる。
「いけぇぇぇええええ!!!」
フェンシングの剣にさらに力を込める。
今度は剣が灰にならない。
――ズボッ
ツルスベスキーの大剣に届く前に、俺の剣がツルスベスキーのみぞおちを貫く。
ツルスベスキーの大剣と鎧が光の粒になって空気中に発散する。
地面に崩れ落ちるツルスベスキー。
ツルスベスキーの全身は傷だらけだ。
全身から出血している。
さっきの爆発で戦闘不能なほどのダメージを負っていたのだ。
それでも執念だけでこいつは俺に斬りかかってきた。
何がこいつをそこまでさせている?
「なぜ……その剣は灰にならない……」
「白色は光を吸収しない。お前の鎧に触れてもすぐには壊れない。奥の手は最後まで隠しておくものだ」
「そんな手があったなんて……」
俺が手にしているフェンシングの剣を苦悶の表情で見つめるツルスベスキー。
本当は使うタイミングを見極めていただけだ。
この鼻毛の攻撃力は高くない。ツルスベスキーの鎧に亀裂が入っていなければ、鎧を貫く前にこの剣が折れていただろう。
「勝負あったな。この剣でお前の魔力のツボを貫いた。傷が治るまで本来の半分以下しか魔力を出力できない。もう光の甲冑も出せないだろう」
「まだだ……僕にはこの世界を正す使命がある……」
立ち上がろうともがくツルスベスキー。
「無駄だ。自分でももう戦えないと気づいているだろう」
「ぐっ……」
ツルスベスキーはバランスを崩して地面に再び倒れこむ。
「しょ……勝負ありじゃ! 勝者・鼻毛の英雄ノーズ殿!!!」
国王が高らかに宣言する。
「ノーズ様、万歳!!」
「やったー!! これで安心してこの町で暮らせる!!」
「この国に自由を戻してくれてありがとう!!」
「ありがとう鼻毛!!」
溢れんばかりの拍手と歓声。
「まだ決着は着いていません……」
倒れたまま弱々しい声でツルスベスキーは呟く。
右手に今にも消えそうな聖書が浮かびあがる。
「これだけは使いたくなかったですが……。聖典通りの世界を作ることに比べれば私の命などあまりにも軽い。聖典366ページ『禁断の果実』」
聖典が開き、そこからどす黒いリンゴが浮かびあがる。
そのリンゴを頬張るツルスベスキー。
「あっ……あがががっ!!」
ツルスベスキーは黒い光に包まれる。
頭に角。背中に翼。手には長く鋭い爪が生えている。
その姿はまるで悪魔だ。
「バカなことはやめろ! お前はもう戦える状態じゃない。こんな状態でそんなスキルを使えばお前は一か月以内に死ぬぞ!? 勝負に勝ってもそのあとすぐに死んだら意味がないだろ?」
「うるさいっ!! 僕はお前に勝ってこの世界を正す!!」
ツルスベスキーは鋭い爪で俺を斬り裂こうとする。
ギリギリのところで攻撃をかわす。
「ガッ……」
うめくツルスベスキー。
ツルスベスキーの腕から血がしたたり落ちる。
やはり傷だらけの体ではスキルの負荷に耐えられていない。体が悲鳴を上げている。
「まだだっ!」
ツルスベスキーは攻撃の手を休めない。
俺は攻撃をかわすことに専念する。
ツルスベスキーが体を動かすたびに、全身から血がしたたり落ちる。
足元には血だまりができている。
「もうやめろ! 本当に死ぬぞ!」
「黙れ! もう僕には聖典以外になにもない。聖典だけが僕のすべてだ!」
「なぜそこまで聖典にこだわる? お前にとって自分の命よりも大切なのか!!」
「聖典通りの世界だったらアリアは死ななかった! 聖典通りの世界は僕が作る!!」
ツルスベスキーは攻撃を続けてくる。
「ツルスベスキーさん、もうやめてください! 勝負はついています! 天国のアリアもこんなこと望んでいないと思います!」
エマの叫び声が聞こえる。
「エマ王女の言う通りだ! お前はまだ若くて強い。お前がこの国のためにできることはたくさんある。ここで命を落とすな!」
「あなたに何が分かる! アリアはもういない! 僕にとっては唯一の居場所だった!! もう僕には聖典しかないんだ!」
「分かるぞ! 俺のスキルは『鼻毛無双』だ! このスキルのせいで冒険者パーティーを組めなかった。誰も俺を受け入れてくれなかった! 仮面を被り、鼻毛スキルを別のスキルと嘘をついてパーティーに入れてもらったこともある。俺もお前と同じでずっと居場所を求め続けてきたんだ!」
若い時の苦い思い出が蘇る。
「だが、自分の心に嘘はつけなかった。パーティーで活躍しているときも『こんなの間違っている。自分じゃない』って思いがずっと消えなかった。ずっと鼻の奥がムズムズしていた。パーティーにいるときも自分の居場所だと感じたことがなかった。結局、自分の心に嘘はつけなかった」
「黙れ!! 居場所を失ったこの苦しみがあなたに分かるかっ!!」
「確かにそれは分からん。だが、俺は40年近く生きてきて、エマ王女と出会って初めて自分の居場所があるって感じた。エマ王女は俺の鼻毛スキルを見ても差別することなく、俺に接してくれた。ありのままの俺を受け入れてくれた。自分の居場所があるありがたさを俺は知っている。だからそれを失う辛さも想像できる。お前はまだ若い。きっとまた居場所は見つかる!!」
「結構だ! アリアは僕の代わりに死んだ。僕は幸せになる権利なんてない!」
ツルスベスキーの正拳突きを右に避けてかわす。
フェンシングの剣をツルスベスキーの右太ももに突き刺す。
「ぐぁ……」
右ひざを地面につくツルスベスキー。
「これでもう動けない。決着はついた」
「まだだ……」
ゆっくりと立ち上がるツルスベスキー。
右太ももから血が噴き出す。
「もうやめろ! 目を覚ませ。本当はお前も分かっているだろう? 聖書に厳格に従う世界をアリアが望んでないことを。お前は目の前でアリアを死なせてしまった後悔を乗り越えられずに、全てを聖書のせいにして、世界に復讐しようとしているだけだ!」
「うるさい……うるさい、うるさい!!!! 聖書に従う世界が叶わないなら、この世界が消えれば良い!! 「聖典367ページ『アルマゲドン』」
消えかかっている聖典の最後のページが開く。
ツルスベスキーの体が膨張し、巨大な光り輝く球体になる。
内部にとてつもないエネルギーを感じる。
「みんな、逃げろ!! これが爆発したらこの国ごと吹き飛ぶぞ!!」
観客席に向かって叫ぶ。
観客席は騒然となり、逃げだす観客で溢れる。
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