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第26話 第3階層 ボス その5
しおりを挟む数多の氷槍がリーマン鈴木に激突する。
リーマン鈴木は後ろに吹き飛ばされる。
「落ちているお金で注意を引くとはさすが私の後継者です。会社帰りに自販機の釣銭を漁るのが趣味なこともお見通しですかね……」
リーマン鈴木はフラフラと立ち上がる。
たくさんの穴がスーツに開いている。
ライフは70になり、頭髪が床に舞い落ちる。
「私はこの階層のボス! 攻撃はクシャミだけではありませんよ」
リーマン鈴木のメガネがキラリと光る。
「攻撃してくるぞ! みんな構えろ!!」
ハヤトは防御態勢をとる。
「行きますよ! 『布団が吹っ飛んだ!』、『電話には誰もでんわ!』、『トイレに行っといれ!』」
リーマン鈴木はオヤジギャグを連発する。
「ぐあぁ! 頭が痛い……」
ハヤトはうずくまる。
ライフが40になる。
ハヤトは後ろを振り返る。
パーティ全員がうずくまっている。
ハヤトはみんなのライフを確認する。
ヨウスケ:40
レンタロウ:40
ホノカ:50
レナ:50
リン:50
全員のライフが20ずつ減っている。
「これは精神攻撃です。防御力は関係ありま千円!!」
得意げな顔をするリーマン鈴木。
「みんな、耳を塞げ! 聞かなきゃ済む!!」
ハヤトは両手で両耳を覆う。
リーマン鈴木は丸めた新聞でハヤトに襲い掛かる。
ハヤトは後ろに下ってかわす。
「くそっ! 両手が塞がってちゃ攻撃できない……」
ハヤトは歯ぎしりする。
「そんな状態で反撃できますか? ハヤトさんは早とちりですね! うっひょひょひょ、いや~昭和、昭和!!」
リーマン鈴木は自分の言ったダジャレで笑う。
「あんな見た目だけどこの階層のボス……さすがに強いわね。私が魔法を使うわ。これが最後の魔法。 具現化! 阿鼻叫喚!!」
リンは『四字熟語辞典』を開く。
マジックポイントが0になる。
リーマン鈴木の前に大きな穴が現れる。
うめき声が穴から漏れてくる。
「なっ……なんですか、この不気味な声はっ!?」
リーマン鈴木は穴の中を覗き込む。
穴はどこまでも深く、暗闇が続いている。
「その声は地獄に落ちた亡者が苦しんでいる声よ。『阿鼻』は地獄の最下層。大罪人が猛火で焼かれ苦しむ場所よ。あなたも地獄の猛火に焼かれなさい」
リンは静かに『四字熟語辞典』を閉じる。
巨大な鬼が穴から飛びだす。
鬼は口から猛火を吐く。
「あつ! あちちちちー!!!」
リーマン鈴木は猛火に包まれ、床をゴロゴロ転がる。
鬼は穴の中に戻ってゆく。
床に空いた穴が閉じる。
「ハァハァハァ……さすがに今のは焦りました。猛火はもう勘弁って感じですね」
リーマン鈴木は息を切らしながらも立ち上がる。
スーツには焼け跡がたくさんついている。
リーマン鈴木のライフは40になる。
髪の毛はチリチリになり、もうバーコードではない。
髪の毛一本一本に意志があるかのように自由自在に折れ曲がっている。
「今度はこちらの番です! 私の奥義をお見せしましょう」
リーマン鈴木は机の引き出しを開ける。
引き出しの中にはとんかつ定食が入っている。
「とんかつ定食!? 一体なにをするつもりだ!」
ハヤトは後ずさる。
「うひょひょひょ~これは耳を塞いだくらいじゃ防げませんよ。でもその前に……」
リーマン鈴木は手を拭いたおしぼりをじっと見つめる。
「まっ、まさか……あれをやるつもりかっ!」
ハヤトは目を大きく見開く。
「ふぁ~~~気持ちいいですね~」
リーマン鈴木はおしぼりで顔をふきふきする。
「やりやがった! 他人の視線なんてまったく気にしてないっ!!」
「当然ですよ、ハヤトさん。他人の視線なんか気にしたら、プロフェッショナルな社内ニートにはなれません。さて、準備は整いました。これが私の奥義です!」
リーマン鈴木はニヤリと笑う。
とんかつ定食を食べ始める。
「ふ、普通に食べてる! 一体何が目的なんだっ!!」
困惑するハヤト。
……くちゃ
……くちゃ
くちゃ、くちゃ、くちゃ
リーマン鈴木は爆音をたてながらとんかつ定食を食べる。
リーマン鈴木の口が開くたびに『くちゃ音』が生みだされる。
くちゃ音は振動となって机やデスクを震わせる。
「なっ! 力が……入らない……」
ハヤトは床に膝を着く。
両耳を手で塞いでも、くちゃ音はハヤトたちの骨の髄までズシンと響く。
くちゃ
くちゃ
くちゃっちゃ
「な、なんでなんだ! 聞きたくないのにくちゃ音に意識が集中しちまうっ! 頭の中がくちゃ音で埋めつくされる!!」
ハヤトは激しい頭痛にもがく。
ライフが20になる。
ハヤトはみんなのライフを確認する。
みんなも床に倒れて苦しんでいる。
ヨウスケ:20
レンタロウ:20
ホノカ:30
レナ:30
リン:30
全員のライフが20ずつ減っている。
「私が食べ続ける限り、ライフがどんどん減っていきますよ。くちゃくちゃくちゃ~」
リーマン鈴木は嬉しそうにとんかつを咀嚼する。
「くそっ……動くこともできない……」
ハヤトは床に這いつくばったまま拳を握り締める。
ライフは少しずつ減ってゆく。
「そういえば……前にもこんなことあったな……」
ハヤトは薄れゆく意識の中で週末の出来事を思い出す。
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