27 / 37
第27話 第3階層 ボス その6
しおりを挟む「くそっ……動くこともできない……」
ハヤトは床に這いつくばったまま拳を握り締める。
ライフは少しずつ減ってゆく。
「そういえば……前にもこんなことあったな……」
ハヤトは薄れゆく意識の中で週末の出来事を思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませー」
ハヤトはとんかつ屋の暖簾をくぐる。
近所で評判のとんかつ屋。
ランチは学割が使えて良心的だ。
育ち盛りの高校生には嬉しいライス食べ放題!
ついで味噌汁も飲み放題だ。
「とんかつ定食でお願いします」
ハヤトはいつものメニューを注文する。
料理が出てくるまで、動画でも見ようとポケットに手を入れる。
(まじか……イヤホンを家に忘れた……)
ハヤトは心の中で呟く。
カバンの中を探すもイヤホンは見つからない。
動画は諦めてスマホゲームを始めたとき――
ズズッ!
ズズズー!
とぅっ!
くちゃ
くちゃくちゃ
音はハヤトの真横から聞こえてくる。
ハヤトは真横を振り向く。
ガリガリのおじさんがとんかつ定食を食べてる。
味噌汁を飲むときに「ズズッ」、お米を吸い込むときには「とぅっ!」、お米を噛むときは「くちゃ」とバラエティーに富んだ音色を生みだす。
ズッズッ!
とぅっ!
くちゃくちゃ
とぅっ!
くちゃくちゃ
おじさんはボイスパーカッションのように料理を使って音楽を創り出す。
(うわ、マジか……最悪だ……。ちょうどイヤホン忘れちまったし……とにかくゲームに集中しよう!)
ハヤトは自分に言い聞かせる。
とぅっ! くちゃ
くちゃくちゃ
とぅっ! くちゃ
ズッズッ!
ガチャ!
おじさんは茶碗をテーブルに乱暴に置いて音を生み出す。
食器さえも楽器に変える。
(音色を増やしてきたっ!? 食器くらい静かに置けや!!)
ハヤトは心のなかで叫ぶ。
ハヤトがゲームに集中しようとすればするほど、おじさんの咀嚼音はますますクリアに聞こえてくる。
(でも我慢だ……。俺より先に食べてるんだから、すぐ食べ終わるだろう……)
ハヤトは自分に言い聞かせ、平静を保つ。
おじさんのお米がなくなったとき――
「すみません! おかわり下さい!!」
おじさんは元気よく店員さんに声を掛ける。
おじさんのお米と味噌汁が全回復する。
とぅっ!
とぅっ!
くちゃ くちゃ
ガチャ!
ズズッー!
くちゃ くちゃ
おじさんは料理パーカッションを再開する。
(誰もアンコールなんて頼んでねぇよ!!)
ハヤトは心の中で叫ぶ。
「お待たせしましたー! とんかつ定食です」
店員がハヤトの前に料理を置く。
(とにかく気持ちの切り替えだ! せっかくのご馳走。目の前の料理に集中しよう!)
ハヤトはとんかつ定食を食べ始める。
とぅっ!
くちゃ
ガチャ!
ズッズッ!
とぅっ!
くちゃ
ズッズッ!
「あ~~~~っ」
味噌汁を飲んだおじさんは謎の奇声を発する。
(なんなんだよ、その独り言はっ!?)
ハヤトは心の中で叫ぶ。
食べ物、食器、そして自分の声帯。
おじさんはすべてをフル活用して料理パーカッションを奏でる。
ハヤトは目の前の料理に集中できない。
料理パーカッションは大きい音ではない。
音の大きさで言えば、向かいにいるカップルの話し声のほうが大きい。
それでも、オジサンの咀嚼音はハヤトの耳にクリアに侵入してくる。
(くそっ! このやろう! 早く食べ終えていなくなれ!)
ハヤトはムカムカして料理の味を楽しむどころじゃない。
オジサンが食べ終わるまでひたすら我慢する。
オジサンのお米と味噌汁が尽きかけたその刹那――
「すみません! おかわり下さい!! ライス大盛りで!」
おじさんは当然のように二度目のお代わりをする。
おじさんのお米と味噌汁が全回復する。
(そんなにガリガリなのにどうなってんだっ!! 絶対食べる必要ないだろっ? お米に謝れ!!)
ハヤトは危うくツッコミそうになる。
オジサンの料理パーカッションは二度目のアンコールに入る。
とぅっ!
くちゃ、くちゃ
ガチャ!
ズッズッ!
「うっ……ゲホッ!……ゲホォォォオ!! ゴォォォオオオッ!!!」
(むせた! オジサンがむせたっ!! 拷問されているような断末魔!!)
ハヤトは心配になってオジサンのほうを向く。
「ん~~~……ズッズッ! あ~~~っ」
オジサンは何事もなかったように味噌汁を飲んで奇声を発する。
ハヤトは全てを諦める。
大急ぎでとんかつ定食を食べて店をでる。
ハヤトが店を出るとき、オジサンは4度目のアンコールを開催していた。
◇◆◇◆◇◆◇
「なんでだ……なんでなんだよっ! なんであんなにクチャ音は気になるんだ!!」
ハヤトは床に倒れつつも拳で床を叩く。
「なんであのオジサンはガリガリなのにあんなにお米を食べるんだ! なんでお米を『とぅっ!』って吸うんだよ!! お米は飲み物じゃないだろうがぁぁぁああああー!!」
ハヤトは力の限り叫ぶ。
プチっ
ハヤトの中で何かが切れた音がする。
青い炎に拳が包まれる。
ハヤトはふらつきながらも立ち上がる。
「な、ななな……なんてエネルギー!! やる気に満ち溢れた新入社員みたいにフレッシュなエネルギーです!!」
リーマン鈴木の額からドロドロした汗が流れる。
「くちゃくちゃ、くちゃくちゃ、うるせぇんだよ! 料理パーカッションは家でやれや!!」
ハヤトはリーマン鈴木をぶん殴る。
リーマン鈴木は新聞を広げて防御する。
ハヤトの拳は新聞を貫く。
そのままリーマン鈴木の頬にめり込む。
「働きたくありませんっ!!!」
リーマン鈴木のメガネが砕け散る。
青い炎に包まれたまま後ろに吹き飛ばされ、机に激突する。
リーマン鈴木の頭頂部から髪が抜け落ちる。
ついに頭頂部がノーガードになり、ライフもゼロになる。
「わ……わたしの負けです。まさか一度も社内ニートをしたことがない高校生に負けるとは思いませんでしたよ……」
リーマン鈴木は倒れたまま独り言のように呟く。
その顔は穏やかだ。
「でも……いいんです。世代交代のときなんでしょう。レンタロウくん、私の意志はあなたに託しました。その才能、あなたは紛れもなく私の後継者です!」
リーマン鈴木は暖かい目でレンタロウを見つめる。
「引き継がないでゴザルよ! リーマン鈴木は拙者とはなにも似てないでゴザル!!」
レンタロウは必死に反論する。
「ふっ……そういうところまで若い頃の私にそっくりですよ……」
リーマン鈴木は満足そうに親指を立て、煙となって消えて行った。
パッパラパーン☆
安っぽい効果音。
「おめでと!! お兄ちゃん、お姉ちゃん☆ 第3階層クリアだよ! 今日はここまで☆明日も次の階層目指して頑張ってね☆」
どこからともなくマロンの声が流れてきた。
――第3階層クリア――
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった
久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく!
ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。
「あなた、一体何者なの…?」
クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!?
平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる