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六
予想通り、松太郎は竹細工を売った金を少しばかり使い込み、正月はなんとか迎えられたとしても雪解けまで凌ぐのは厳しくなった。
「松、どうしてお前は……」
「あんた、そう言わないで。松の年頃では遊びたくもなるわ」
末次くらいの年の子に言うならともかく、本来ならもう子をなしている年の男に言うことではない。母は松をどう思っているのか。でもいい。好都合だ。
「また作るから、それを売れば大丈夫だろう」
先日の帰りにまた竹を取ってきていた。びくは面倒だ。ざると小物入れを作る。親父がため息をついて、松も少しやってみろとひごを渡したが、力任せでぱきぱきと端を割る。逆にこんなにしなるひごをどうすればそう折れるのかわからない。
日が暮れてからも、父親と久治は少し竹細工を作っていた。他の者は眠っている。
「久治。お前が後継ぎならなあ」
ポツリと小さな声で親父がつぶやいた。
「いや。俺はいい」
久治ははっきりと言った。
「どうして。わかってると思うが、うちは分家に出してもやれない。後継ぎでなければ嫁を取ってやることもできない」
「いいんだ。俺はこれで」
あまりにきっぱりと言うので、父親はわが息子の顔を見やった。一文字のくっきりとしたまゆ。強情な強い黒い目。無気力なのではない。何か考えている。
「こうで、い」
「い」
「ろ」
「難しい」
「曲がる文字は難しい」
久治の書いた「ろ」はいびつに長い。
「ほのお、は?」
「ほ、の、お」
「はは。全部難しい」
雪に文字が並んでいた。炎は白い息を吐きながら、木の枝で雪の上に今度は「きゅうじ」と書いた。
「読むのと書くのではだいぶ違うなあ」
「書くのは難しい。でも少しずつやれば大丈夫」
「寒いだろう」
「お前といると寒くない」
そう言われて、久治は笑いながら炎の手を取った。氷のように冷たい。口元に持っていく。唇で温める。炎が身を寄せた。体に腕を回す。冷えている。庵に入って温め合う。指と指を絡める。唇を何度も重ねる。互いの肌だけが二人を隔てている。
ひとつの塊になってしまおう。ぴったりと合わさって。溶けて混ざって。
「……俺はしあわせだな」
「しあわせ」
「うん。好いているものとこうして睦み合うことができる。こんなにしあわせなことはない」
「……われもしあわせ。こんな巡りがわれにあると思っていなかった……」
間も無く正月が来る。また炎は宮司に抱かれなければならないだろう。それでも。
「久治、どうなっても、誰に抱かれても、われは……われの心はお前としか契らぬ。相手が神でもだ」
「……炎?」
炎が身を起こした。まだ長く横たわっている久治の手を取る。
「ひのもとの神々よ、畏み畏み物申す」
久治も身を起こす。
「久治、これは祝言だ。いいか?」
「いい」
「われら久治と炎、とこしえにともにあらんことを」
炎は久治に口付けした。
「祝言とは、祝いの言霊。とこしえとは、永遠ということだよ」
「うん」
「もう一度抱いてくれるか?」
「うん」
「幾久しゅう」
「幾久しゅう?」
「末長くあれ、ということ」
とこしえに。神々よ、聞いてくれたか。雪がしんしんと降り始めた。寒くはない。ただしあわせだった。
正月だった。とても天気が良く、溶けた雪の流れる音がそこかしこで聞こえた。その天気と裏腹に、炎は庵の中で身を固くしていた。がらりと戸が開く。黒い衣装の男が入ってくる。
「炎」
炎は三つ指をついて頭を下げた。
ここに連れてこられた時から、この男には全てを与えられ、教えられ、逆らうことは出来なかった。
男は一見柔和な端正な顔をしていた。だから最初は優しい人だと思った。でも意に沿わないことを、例えば炎が禁足の森を出たがったり、祝詞や神楽を覚えるのを嫌がったりしようものなら、にっこりと微笑んだまま思うさま殴られた。この人が昔から震えるほど怖かった。あなたは神さまのものになるのですから、きちんと覚えましょう。あなたが覚えられなかったら、村の人はあなたのせいでみんな死んでしまうのですよ。
普段は里の神官であるため、村の祭りと正月しか来ないのが救いだった。
一昨年、そろそろ体を見てみるから、着物を全部脱ぎなさいと言われた。言われるままに脱ぐと、身体中をじろじろと眺め回され、中に指を入れられた。怖気が走った。大丈夫のようですね。男はそう言って体を舐め回し始めた。
このときを待っていました。わたしはお前が好きですよ、炎。
われはお前なんか好きではない。
歯を食いしばって耐えた。自分が汚いものに成り下がった気がした。あの男の体液が残ったところから腐っていくような。
男が庵から去った後、すぐに泉に飛び込んだ。洗っても洗っても汚れが落ちない。何か途轍もなくおぞましいものが体に沁みてしまったようだった。このまま水の底で死にたいと思った。でもだめだ。今死ぬわけにいかない。それでは何のために生きてきたのかわからなくなる。
それからは、顔を出すたびに犯された。
──痛いですか? かわいそうに、だんだん良くなって来ますから。
かわいそうに? われをかわいそうにしているのは誰だ。男の優しげな顔。目だけがぎらぎらしている。
──惜しい、お前を神に渡さなければならないなんて。
そうか? われは一刻も早く神のものになりたい。この地獄から抜け出したい。お願いだから。
だから去年の春、久治に出会ったのは神の恵みと思った。久治といる時だけ、何もかも嫌なことは忘れた。久治といると心が洗われた。いつか久治のことだけを心待ちにしていた。久治と睦み合うようになって、こんなに素晴らしいことはないと思った。久治はわれの体にこの男が刻んだいやらしい跡を、全部塗り替えてくれた。
「なんだか……」
男は平伏した炎のあごを掴むと、顔を上げさせた。
「さらに艶めかしくなったような。年頃ですかね」
まず、祝詞を暗唱してごらんなさい。いつもこれから始まる。
みくまりのかみよ、いかづちのかみよ、かしこみかしこみものもうす。ここなかみこのたまをもってわごうし、あらみたまにぎみたま、いやましさかえさせたまえ。
次に神楽。一通り舞う。
「よろしい」
床を伸べなさい。
嫌だ! でも逆らうことはできない。黙って布団を敷くと、早速男が覆い被さってきた。
「炎……うつくしい……わたしのものだ…」
違う! 絶対に違う! 鳥肌が立つ。着物を剥ぎ取られる。
「おや、これは」
ぎくっとする。肩。自分では見えない。久治と最後に抱き合ったのは二日前だった。久治のつけた跡は優しいからすぐに消えてしまう。だからあらかた消えているはずだと思った。
「……何か?」
「なんでしょうね。痣?」
「……戸に、ぶつけました」
ふうん、と男は言った。
「許せないですね、この白い肌にわたしの他に跡をつけるのは」
「い……」
がぶりと噛まれる。血が滲むほど強く。痛い。屹立したものを穿たれる。首筋も胸も痛いくらいに吸われる。今までは我慢できた。他に知らなかったから。
──想い合ったやつとすることだ。好きでもないやつとすることではない。
久治の声が頭の中に響いた。壊れ物に触るように頬に触れた久治の手を。柔らかく慈しむように吸い付く唇を思い出した。
「…くっ……」
涙がこぼれ落ちた。止めようがない。悔しい。
「痛かったですか?」
こくりと頷く。痛い。心が。早くいってほしい。強く締め付ける。男が笑う。そんなに締め付けて。気持ちがいいのですか。では注いであげましょうね。体の中に男の種が流し込まれる。汚い。ぞっとする。……でも、終わった。
男が居住まいを正した。炎も着物を手繰り寄せる。疲れた。早く一人にしてほしい。
「誰か来ましたね?」
はっとした。なぜ?
「な……」
「隠さなくてもいいのですよ。軒下の雪に文字が書いてあった。あなた一人ならあんなところに書かない」
あの後雪が降ったから、全部見えなくなっているだろうと思った。油断だった。
「……村の子供が、迷ってきたので……」
「ふうん……」
「少し相手をして。帰しました」
「どこのだれだか聞きましたか?」
「いいえ……年端も行かぬ子でしたので」
男はしばらく考え込んでいるような素振りをした。
「わかっていると思いますが、この森には神官しか入ることはできません。この村では神主と私だけです。それ以外のものが禁を侵した場合……」
「わかっています。だから申し上げなかったのです」
パンと平手が飛んで来た。炎は危うく囲炉裏の中に手をつきそうになった。
「私に隠し事をしようと思うな! 私には何でもわかる! お前は私のものなのだから!」
男は衣を翻して出て行った。何でもわかる?われの心が……
われの心がお前にないことを、わかっていないではないか。
炎はまだ痛む頬に少し手をやると、雪の表にふらふらと出た。今日はこうなるとわかっていた。冷たい泉に体を浸す。身を沈める。久治に会いたい。明日から何日か晴れるだろう。来てくれるだろうか。水の中は暖かく感じる。死ぬ時もこうだろうか。
水から上がると一気に空気が体を冷やす。震えながら庵に戻る。さっきまで嫌いなやつに抱かれていた自分のことはもう忘れよう。次は久治に何を読ませようか。
歴代の神子たちのなぐさめに集められた、とりどりの巻物を眺めた。巻物の中の人々はさまざまな歌を詠んでいる。自分の心を重ねる。昔は相聞歌など少しもわからなかった。今は久治のことばかり思い浮かぶ。ある句に目が引き寄せられた。
恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
思わず知らず笑みが溢れる。なんて素直なうた。われの想いがそのまま形になったようだ。恋しくて恋しくて。会えた時だけは。
いとしいと言い尽くしておくれ……。
言い尽くしてくれ、久治。われの一生分を。お前の口から聞きたいのだ。
「松、どうしてお前は……」
「あんた、そう言わないで。松の年頃では遊びたくもなるわ」
末次くらいの年の子に言うならともかく、本来ならもう子をなしている年の男に言うことではない。母は松をどう思っているのか。でもいい。好都合だ。
「また作るから、それを売れば大丈夫だろう」
先日の帰りにまた竹を取ってきていた。びくは面倒だ。ざると小物入れを作る。親父がため息をついて、松も少しやってみろとひごを渡したが、力任せでぱきぱきと端を割る。逆にこんなにしなるひごをどうすればそう折れるのかわからない。
日が暮れてからも、父親と久治は少し竹細工を作っていた。他の者は眠っている。
「久治。お前が後継ぎならなあ」
ポツリと小さな声で親父がつぶやいた。
「いや。俺はいい」
久治ははっきりと言った。
「どうして。わかってると思うが、うちは分家に出してもやれない。後継ぎでなければ嫁を取ってやることもできない」
「いいんだ。俺はこれで」
あまりにきっぱりと言うので、父親はわが息子の顔を見やった。一文字のくっきりとしたまゆ。強情な強い黒い目。無気力なのではない。何か考えている。
「こうで、い」
「い」
「ろ」
「難しい」
「曲がる文字は難しい」
久治の書いた「ろ」はいびつに長い。
「ほのお、は?」
「ほ、の、お」
「はは。全部難しい」
雪に文字が並んでいた。炎は白い息を吐きながら、木の枝で雪の上に今度は「きゅうじ」と書いた。
「読むのと書くのではだいぶ違うなあ」
「書くのは難しい。でも少しずつやれば大丈夫」
「寒いだろう」
「お前といると寒くない」
そう言われて、久治は笑いながら炎の手を取った。氷のように冷たい。口元に持っていく。唇で温める。炎が身を寄せた。体に腕を回す。冷えている。庵に入って温め合う。指と指を絡める。唇を何度も重ねる。互いの肌だけが二人を隔てている。
ひとつの塊になってしまおう。ぴったりと合わさって。溶けて混ざって。
「……俺はしあわせだな」
「しあわせ」
「うん。好いているものとこうして睦み合うことができる。こんなにしあわせなことはない」
「……われもしあわせ。こんな巡りがわれにあると思っていなかった……」
間も無く正月が来る。また炎は宮司に抱かれなければならないだろう。それでも。
「久治、どうなっても、誰に抱かれても、われは……われの心はお前としか契らぬ。相手が神でもだ」
「……炎?」
炎が身を起こした。まだ長く横たわっている久治の手を取る。
「ひのもとの神々よ、畏み畏み物申す」
久治も身を起こす。
「久治、これは祝言だ。いいか?」
「いい」
「われら久治と炎、とこしえにともにあらんことを」
炎は久治に口付けした。
「祝言とは、祝いの言霊。とこしえとは、永遠ということだよ」
「うん」
「もう一度抱いてくれるか?」
「うん」
「幾久しゅう」
「幾久しゅう?」
「末長くあれ、ということ」
とこしえに。神々よ、聞いてくれたか。雪がしんしんと降り始めた。寒くはない。ただしあわせだった。
正月だった。とても天気が良く、溶けた雪の流れる音がそこかしこで聞こえた。その天気と裏腹に、炎は庵の中で身を固くしていた。がらりと戸が開く。黒い衣装の男が入ってくる。
「炎」
炎は三つ指をついて頭を下げた。
ここに連れてこられた時から、この男には全てを与えられ、教えられ、逆らうことは出来なかった。
男は一見柔和な端正な顔をしていた。だから最初は優しい人だと思った。でも意に沿わないことを、例えば炎が禁足の森を出たがったり、祝詞や神楽を覚えるのを嫌がったりしようものなら、にっこりと微笑んだまま思うさま殴られた。この人が昔から震えるほど怖かった。あなたは神さまのものになるのですから、きちんと覚えましょう。あなたが覚えられなかったら、村の人はあなたのせいでみんな死んでしまうのですよ。
普段は里の神官であるため、村の祭りと正月しか来ないのが救いだった。
一昨年、そろそろ体を見てみるから、着物を全部脱ぎなさいと言われた。言われるままに脱ぐと、身体中をじろじろと眺め回され、中に指を入れられた。怖気が走った。大丈夫のようですね。男はそう言って体を舐め回し始めた。
このときを待っていました。わたしはお前が好きですよ、炎。
われはお前なんか好きではない。
歯を食いしばって耐えた。自分が汚いものに成り下がった気がした。あの男の体液が残ったところから腐っていくような。
男が庵から去った後、すぐに泉に飛び込んだ。洗っても洗っても汚れが落ちない。何か途轍もなくおぞましいものが体に沁みてしまったようだった。このまま水の底で死にたいと思った。でもだめだ。今死ぬわけにいかない。それでは何のために生きてきたのかわからなくなる。
それからは、顔を出すたびに犯された。
──痛いですか? かわいそうに、だんだん良くなって来ますから。
かわいそうに? われをかわいそうにしているのは誰だ。男の優しげな顔。目だけがぎらぎらしている。
──惜しい、お前を神に渡さなければならないなんて。
そうか? われは一刻も早く神のものになりたい。この地獄から抜け出したい。お願いだから。
だから去年の春、久治に出会ったのは神の恵みと思った。久治といる時だけ、何もかも嫌なことは忘れた。久治といると心が洗われた。いつか久治のことだけを心待ちにしていた。久治と睦み合うようになって、こんなに素晴らしいことはないと思った。久治はわれの体にこの男が刻んだいやらしい跡を、全部塗り替えてくれた。
「なんだか……」
男は平伏した炎のあごを掴むと、顔を上げさせた。
「さらに艶めかしくなったような。年頃ですかね」
まず、祝詞を暗唱してごらんなさい。いつもこれから始まる。
みくまりのかみよ、いかづちのかみよ、かしこみかしこみものもうす。ここなかみこのたまをもってわごうし、あらみたまにぎみたま、いやましさかえさせたまえ。
次に神楽。一通り舞う。
「よろしい」
床を伸べなさい。
嫌だ! でも逆らうことはできない。黙って布団を敷くと、早速男が覆い被さってきた。
「炎……うつくしい……わたしのものだ…」
違う! 絶対に違う! 鳥肌が立つ。着物を剥ぎ取られる。
「おや、これは」
ぎくっとする。肩。自分では見えない。久治と最後に抱き合ったのは二日前だった。久治のつけた跡は優しいからすぐに消えてしまう。だからあらかた消えているはずだと思った。
「……何か?」
「なんでしょうね。痣?」
「……戸に、ぶつけました」
ふうん、と男は言った。
「許せないですね、この白い肌にわたしの他に跡をつけるのは」
「い……」
がぶりと噛まれる。血が滲むほど強く。痛い。屹立したものを穿たれる。首筋も胸も痛いくらいに吸われる。今までは我慢できた。他に知らなかったから。
──想い合ったやつとすることだ。好きでもないやつとすることではない。
久治の声が頭の中に響いた。壊れ物に触るように頬に触れた久治の手を。柔らかく慈しむように吸い付く唇を思い出した。
「…くっ……」
涙がこぼれ落ちた。止めようがない。悔しい。
「痛かったですか?」
こくりと頷く。痛い。心が。早くいってほしい。強く締め付ける。男が笑う。そんなに締め付けて。気持ちがいいのですか。では注いであげましょうね。体の中に男の種が流し込まれる。汚い。ぞっとする。……でも、終わった。
男が居住まいを正した。炎も着物を手繰り寄せる。疲れた。早く一人にしてほしい。
「誰か来ましたね?」
はっとした。なぜ?
「な……」
「隠さなくてもいいのですよ。軒下の雪に文字が書いてあった。あなた一人ならあんなところに書かない」
あの後雪が降ったから、全部見えなくなっているだろうと思った。油断だった。
「……村の子供が、迷ってきたので……」
「ふうん……」
「少し相手をして。帰しました」
「どこのだれだか聞きましたか?」
「いいえ……年端も行かぬ子でしたので」
男はしばらく考え込んでいるような素振りをした。
「わかっていると思いますが、この森には神官しか入ることはできません。この村では神主と私だけです。それ以外のものが禁を侵した場合……」
「わかっています。だから申し上げなかったのです」
パンと平手が飛んで来た。炎は危うく囲炉裏の中に手をつきそうになった。
「私に隠し事をしようと思うな! 私には何でもわかる! お前は私のものなのだから!」
男は衣を翻して出て行った。何でもわかる?われの心が……
われの心がお前にないことを、わかっていないではないか。
炎はまだ痛む頬に少し手をやると、雪の表にふらふらと出た。今日はこうなるとわかっていた。冷たい泉に体を浸す。身を沈める。久治に会いたい。明日から何日か晴れるだろう。来てくれるだろうか。水の中は暖かく感じる。死ぬ時もこうだろうか。
水から上がると一気に空気が体を冷やす。震えながら庵に戻る。さっきまで嫌いなやつに抱かれていた自分のことはもう忘れよう。次は久治に何を読ませようか。
歴代の神子たちのなぐさめに集められた、とりどりの巻物を眺めた。巻物の中の人々はさまざまな歌を詠んでいる。自分の心を重ねる。昔は相聞歌など少しもわからなかった。今は久治のことばかり思い浮かぶ。ある句に目が引き寄せられた。
恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
思わず知らず笑みが溢れる。なんて素直なうた。われの想いがそのまま形になったようだ。恋しくて恋しくて。会えた時だけは。
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言い尽くしてくれ、久治。われの一生分を。お前の口から聞きたいのだ。
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