Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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01 チュートリアル

15 Baltroy (一年保証)

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 同僚のジョジマに恋人ができたらしい。ものすごく浮かれていて、今存在が痛い。

「ジョッジ、落ち着けよ。あんまり職場に持ち込むなよ」
「だって! 運命の出会いだったんですよ!」
「ふーん」
「ふーんって! もう!」

 まあ放っておく。そのうち落ち着くだろう。あいつは実年齢も若いからなあ。

 ニゲイラのオーナーには謝罪に行った。ヴェスタも付き合ってくれた。たまたま引き渡しの現場にいたこと。気付かず見逃したこと。謝らないと気が済まなかった。見逃してしまった。あの時に気がついていればニゲイラは死ななかった。

「私が悪いんです」

 彼は言った。

「私が彼女をちゃんと理解していなかった。彼女の価値に気付かなかった。それが一番よくなかったんです」
「……これは、データでお渡しできないのでこれだけになるんですが…」

 彼とニゲイラが街で並んで笑っている画像のプリントアウトを渡した。彼は震える手でそれを受け取り、ぽろりと涙を落とした。

「……それから、メーカーに事情をご説明されたら、保証対象になるかも知れません。一年以内ですから、連絡されてみては」
「………あなたはご親切でそう言ってくださるのでしょうが……」

 男はプリントに落ちた水滴を乾いた指で拭った。

「そういうことでは、ないんですよ」

 彼は写真の礼を丁寧に述べると、大切そうに抱えて家の中に入って行った。






「バル、あのさ」

 ヴェスタが寄ってきた。落ち着いたグリーンの髪……なるべく髪の色は気にしないようにしている。

「囮捜査はしてもいいの?」
「えっ。してもいいけど」

 してもいいけど、よほど安全が担保されないとできない。例えば……例えが思いつかないくらいに安全でないと。だから今までやったやつを見たこともない。

「俺、レプリカントだから」
「だから? 怪我はするかも知れない」
「保証があるから」
「……」
「まだ保証の期間内だろ」
「故意に事件や事故等を生じさせた場合またはやむを得ない過失と認められない場合は……」
「故意じゃないだろ。例えば、バルが俺を、知り合いに合わせるだけのことだろ」

 詭弁だろ。その結果どうなるか知ってるのに。

「バル。やらせて。今じゃないとできないだろ? あと半年もしたら保証は受けられない。囮捜査なんてできなくなる」

 青緑色の髪がすうっと明るくなって来た。白っぽくなるのはUPな時……

「本気なのか?」
「本気」
「……あのな。もっとちゃんと考えよう。やるにしろやらないにしろ。やるならやるで、行き当たりばったりはダメだ。……急にどうした?」
「だって……手っ取り早いだろ。ニゲイラの件で、俺も保証期間中だなって思い出したんだよ」
「ダメ! そういう話ならだめだよ」

 強く拒否するとヴェスタはきゅっと口を結んだ。

「勝手にすんなよ。俺とお前はふたり1組なんだからな。俺ができると思えなきゃダメだ」
「………」


 その日はイグニスが来る日だった。レッダが3人分の食事を用意していた。前回のことがあったのでちょっと心配だったけど、今回は来てもらってからもにおいは大丈夫だった。イグニスは仕事用の大きめのバッグを抱えてやって来た。

 イグニスがリビングに入ると、それまで青緑色だったヴェスタの髪は見る間に紺色になった。ヴェスタはイグニスに挨拶だけして、さっさと自分の部屋に入った。二人で部屋に入る。イグニスがバッグを開けようとした。

「!」

 イグニスの手を掴んで止めた。

「どうしたの? バル?」
「ごめん。やっぱこのにおいだめだわ。このバッグ、リビングに置いてくれないか」

 今日もあのにおいがする。今日はまだバッグの中だから良かった。

「ほんとに鼻がいいね。仕事道具持って来ちゃったから……ごめんね」

 リビングにバッグを置いてもらうと安心した。

「そういえばこれ、お前の?」

 先日のショールを渡すと、イグニスは忘れたんだねと笑った。いつも通り、とりあえずやる。

 なんでだろうなあ。

「あっ! バル! いい……いいっ」

 すごいバキバキに勃つ。こないだの「発情期」の時みたいに。でも、

「すごい……バル……」

 こないだの二回目みたいにはならないな……。
 ああいうの、俺結構好きだったんだな。

「なあ。もう一回やっていい?」
「いいよ?」

 キスする。イグニスはとても積極的に絡んでくる。比べちゃだめだと思うけど、どうしてもちらつく。

「……ねえ、もっと激しくしてよ。いつもみたいに」
「……うん」

 ?

 なんだろう。イグニスの匂いがあまりしない。汗をかいたから、普通ならもっと体臭は強くなるはずなのに。

「どうしたの?」

 灰色と紫の瞳が覗き込んでくる。きれいな目。

「いや、なんか……鼻がおかしくなったかな…」

 違うな。鼻はおかしくない。シーツの匂いも、自分とイグニスの体液のにおいもする。イグニスの体臭だけが薄く弱くなっている。まるでそのにおいだけが落ちてしまったみたいだ。

「体調悪いの? じゃあ無理しないで。ねえ、シャワー浴びて来ていい?」
「いいよ」

 イグニスが服を持って部屋から出ていく。なんだろう。変に引っかかる。

 しばらく部屋で端末を見ていたら、リビングの方からイグニスとヴェスタの声がした。何か言い争っているような感じ。ひやっとした。まさかヴェスタが先日のあれ・・をばらしたんじゃないかとかなり慌てて部屋を出た。イグニスがはっと顔を上げて、バッグを掴んで出て行ってしまった。後にはヴェスタが残った。髪が銀色に近いくらい青白く光っている。

「………」

「ヴェスタ、何があった? なんか喧嘩しただろ」
「あの人……バルのブリングを覗いてたから」
「俺のブリング?」

 テーブルの上に俺のブリングが放ってあった。画面を開く。コールの履歴が開かれている。

「別に……まずいもんは入れてないから、いいんだけど」

 たしかに普通は人のブリングの中まで覗かない。嫉妬深い恋人ならやるかも知れない。

「あのさ。いつ言おうかなって思ってたんだけど」

 ヴェスタが言いづらそうに口を開いた。

「あの人さ、レプリカントだよね。本名が他にある……」
「は?」
「戸籍を見た」
「おい!」

 思わず声が大きくなった。他人の戸籍を自己都合で見るのは禁止されている。

「お前、そんなことしてたのか? そんなにイグニスが気に食わねえのかよ」
「違う! 聞いて!」
「レプリカントだから何だよ? それを言いたくねえやつだっていっぱいいるんだよ! お前みたいにレプリカントですって最初から周りに認められてるやつばっかりじゃねえんだ」
「わかってる! わかってる……聞いてくれ。俺、オートキャリアの予約を全部見たんだよ」
「はあ?」
「あの。レプリカントをオーナーから買い取ってるやつ……あいつオートキャリアを使うから。オーナーが約束した時間帯にステーションにありそうなオートキャリアの予約を全部突き合わせたんだ。そしたらリースリー・キマって言う人の予約がいつも入ってて……その人の戸籍見たら、イグニスさんのだった」
「そんなの……オートキャリアの予約なんて何百万件だろ」
「だから時間かかって……言い出せなくて」
「……もしそのリースリー・キマっていうのがイグニスだったとしても、関係者だとは限らないだろ! お前、決めつけで判断すんなよ」
「……うん」

 ヴェスタを残して部屋に入る。何やってんだあいつ。一人でなんかやってると思えばこれだ。でももしイグニスがレプリカントだったんだとしたら、言えなかったんだろう。俺が豚の子だって言えないみたいに。

 怖いな。ゼロ。

 イグニスにメールを送っておく。今日はごめん。埋め合わせはするから。





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